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根本敬

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根本 敬(ねもと たかし、1958年6月28日 - )は、漫画家、エッセイスト、歌謡曲研究家。東京都出身。東洋大学文学部中国哲学文学科中退。名前は正しくは「たかし」だが「けい」と読まれることもあり、本人も許容している『特殊まんが 前衛の道』巻末の対談に収録のプロフィールより。

特殊漫画家」、「特殊漫画大統領」を自称する。「因果者」「イイ顔」「電波系」「ゴミ屋敷」などといったキーワードを作り出し、悪趣味系のサブカルチャーへ与えた影響は大きい。2008年に第11回みうらじゅん賞を受賞した。

「ガロ系」と呼ばれる、日本のオルタナティブ・コミックの作家のなかでも、極北に位置する、もっとも過激な作風の漫画家である。近年は、漫画よりも文章の仕事が多かったが、現在執筆中断中の作品である「未来精子ブラジル」の完成に向け、作業を再開。さらにその準備作業として「生きる2010」を執筆、上梓した。

人物

小児喘息で病弱な少年時代をすごす。少年期から、「アウトサイダー」的な下品な人びとに惹かれる性格であった。

漫画マニアであったが、なかでも古本屋で購入した水木しげるの「墓場の鬼太郎」に衝撃を受ける。15歳から漫画雑誌『ガロ』を読むようになり、「この雑誌になんらかの形で参加したい。それには漫画家になるしかない」と思いつめる。

大学時代、半自伝的な作品『因果鉄道の旅』にあるとおり、友人の中で、非常に自分勝手で下品な人物を発見。そのあまりの悪行ぶりに、後に「幻の名盤解放同盟」を結成する船橋英雄らと、その友人宅に勝手に入り込むなどして、その悪行ぶりを「研究」してミニコミにまとめる。以後、「個人的に気になる」異常な人物や物件を「取材」することをライフ・ワークとするようになる。

イラストレーター・湯村輝彦の漫画に刺激され、『月刊漫画ガロ』1981年9月号に「青春むせび泣き」が掲載され漫画家デビュー。当時のヘタウマブームに乗り、80年代での活動の場はエロ雑誌からメジャー誌までと非常に幅広かった。

根本の作風は「便所の落書きが増殖したような漫画」と揶揄され、見た目の異様さで嫌悪感を覚えるものが多い。それが故にファン層は非常に限られているが、その強烈な個性を露出した表現は他の追随を決して許さないものである。

一方で、ベネッセの進研ゼミの会員向け冊子に半年間掲載された「白馬くん」のように、少年向けの漫画も描いている。「白馬くん」の内容は掲載元が学習誌であるためか、過激な描写は控えられておりシュールなストーリーのみで展開されている。

作中には障害者や擬人化した精子が登場したり、古い死体写真をコラージュした漫画もある。スター・システムを導入しており、以下の定型キャラが存在する。

村田藤吉
気弱な丸メガネの中年。多くの作品で主人公を演じる。
善良で他者を恨むことがないが、遺伝子レベルで不幸を義務付けられており、ほとんどの作品で悲劇的結末を迎える。
妻の夏江との間には義明とさゆりの二人の子供がおり、この他、おばあちゃんも同居している。全員が藤吉同様の被虐者である。
吉田佐吉
怒ったような顔の大柄な中年。独善的に振る舞い、村田一家を苦しめる。作者曰く「根本漫画の最終捕食者」。
ガロの担当編集者が福島県出身だったため、流暢な郡山弁をしゃべる。
鈴木定吉
好色な坊主頭の中年。性犯罪を働くことが多いが、村田や吉田と違い、作中での立ち位置が一定しない。
上記二名と共演する際はほとんど脇役であるが、主人公としての登場回数は佐吉を上回る。
タケオ
鈴木が水爆実験中に射精し、突然変異した巨大精子。知能と人格を持つが、精子の身ゆえに様々な差別に晒される。
逆さの男
性器に肉体の主導権を乗っ取られた男。陰茎が鼻、睾丸が唇、頭が性器にそれぞれ変化している。
頭が主導権を握っていた頃に比べ善良な性格を持つなど、やや風刺的な側面も持っている。

このうち、村田や吉田はパロディとして花輪和一『刑務所の中』、山野一『四丁目の夕日』などに客演したことがある。

他にも、過去に売れなかった歌謡曲の発掘(アクの強い楽曲が多い)を湯浅学(音楽評論家)、船橋英雄と「幻の名盤解放同盟」と称して共同でおこない、P-VINEレーベルから復刻版が多数発売された。一方で、湯村輝彦の影響を受けた、ソウル・ミュージックのコレクターでもある。

1990年代以降は漫画の執筆が減り、嫌悪や憐憫を誘う、敬遠されがちな事柄を根本独自の観点で描くエッセイを執筆している。1990年代前半に「電波系」という用語を案出し、奇妙な行動をとる人びとのレポートを雑誌等に執筆し、電波がみずからの頭の中に響くという人物、村崎百郎と対談し、共同執筆も行なった。

韓国や北朝鮮の文化にも造詣が深く、韓国では「下世話な音楽」と敬遠されているポンチャックを日本に紹介し、一時的なブームを呼んだ。

結婚後、佐川一政の近所の、「新興住宅地」にあるマンションに引越し、友人として交流している。また、3子(下の2人は双子)の父でもある。

在日韓国人の特殊歌手・川西杏とは一時は非常に親密な関係だったが、「同盟は他の歌手も応援している。川西杏だけを優先して応援しろ」との要求を拒んだため、その後は「絶縁されては交際し直す」ことを繰り返す「腐れ縁」状態である。

近年は、渋谷の「UPLINK・FACTORY」にて「根本敬の映像夜間中学」という、みずから撮影した特殊な映像を上映、解説するイベントを、毎月おこなっている。

著書

  • 花ひらく家庭天国 - 青林堂、1983年
  • Let's go 幸福菩薩 - JICC出版局、1985年
  • 固い絆のブルース - 青林堂、1985年
  • 学ぶ 村田藤吉学級日誌 - 河出書房新社、1986年・青林工藝舎、2003年
  • 生きる 村田藤吉寡黙日記 - 青林堂、1986年
  • 生きる2 - 青林堂、1986年
  • ディープ・コリア 観光鯨狩りガイド(湯浅学、船橋英雄との共著) - ナユタ出版会、1987年
  • 天然・甲篇 - 青林堂、1988年
  • 天然・乙篇 - 青林堂、1988年
  • 怪人無礼講ララバイ - 青林堂、1990年・青林工藝舎、1999年
  • 龜ノ頭のスープ - マガジンハウス、1990年・河出書房新社(文庫版)、1996年・青林工藝舎、2005年
  • 豚小屋発犬小屋行き - 青林堂、1991年・青林工藝舎、2010年
  • 因果鉄道の旅 - KKベストセラーズ、1993年・幻冬舎(文庫版)、2010年
  • お岩(マディ上原との共著)- 青林堂、1993年
  • ディープ歌謡 The dark side of Japanese pops(幻の名盤解放同盟名義) - ペヨトル工房、1993年
  • 定本 ディープ・コリア 韓国旅行記(幻の名盤解放同盟名義) - 青林堂、1994年
  • 人生解毒波止場 - 洋泉社、1995年
  • 人情山脈の逆襲(湯浅学との共著) - ブルース・インターアクションズ、1996年
  • キャバレー妄想スター - ブルース・インターアクションズ、1996年
  • 電波系(村崎百郎との共著) - 太田出版、1996年
  • 黒寿司 - ブルース・インターアクションズ、1997年
  • 夜、因果者の夜(幻の名盤解放同盟名義) - ペヨトル工房、1997年
  • パリ人肉事件 無法松の一政(佐川一政との共著) - 河出書房新社、1998年
  • 天然「完全版」 - 水声社、1998年
  • 時代の体温 - 陰核・混沌の隣人たち(CDブック) - 水声社、1999年
  • バリの空の下、人は流れる(船橋英雄の初のメイン著書、根本は湯浅学とともにサポート的に参加) - 水声社、2000年
  • 心機一転土工! 父ちゃんのやきいもがきこえる - 青林工藝舎、2000年
  • 幻の名盤百科全書(幻の名盤解放同盟名義)- 水声社、2001年
  • 生きる(増強版)- 青林工藝舎、2001年
  • お色気ディープ東京(幻の名盤解放同盟名義) - ブルース・インターアクションズ 、2002年
  • 電氣菩薩(上巻) - 径書房、2002年
  • 豪定本 ザ・ディープ・コリア(湯浅学、船橋英雄との共著) - ブルース・インターアクションズ 2002年
  • 夜間中学 トリコじかけの世の中を生き抜くためのニュー・テキスト - 情報センター出版局、2004年
  • 命名 「千摺」と書いてたろうと読む。 - 青林工藝舎、2004年
  • 真理先生 - 青林工藝舎、2009年
  • 映像夜間中学講義録 イエスタディ・ネヴァー・ノウズ - K&Bパブリッシャーズ、2009年
  • 特殊まんが 前衛の道 - 東京キララ社、2009年
  • 亀 コロ(絵本、文はクレイジーケンバンドの横山剣、根本は挿絵を担当) - P - Vine Books、2009年
  • 生きる 2010 - 青林工藝舎、2010年

書籍監修

東京キララ社の「GUFTシリーズ」

  • 『KEI チカーノになった日本人』KEI著 東京キララ社 2007.5
  • 『死なない限り問題はない』早田英志著 東京キララ社 2008.7

ビデオ

  • 因果境界線 - 1992年
  • ひさご - 1993年
  • K西杏・幻の大本営 - 1993年
  • さむくないかい - 1996年
  • 神様の愛い奴 - 1998年
  • さむくないかい・デラックス エディション - HOW DOES IT FEEL? - 2010年

CM

  • 本田技研工業 フラッシュ(スクーター)1984年
    • 初のテレビCM、アニメでもある。キャッチコピーは「おじさんもふり返る街角。」振り向く村田藤吉が描かれている。

ラジオ

  • ドントパスミーバイ(InterFM)2010年10月-
    • 番組のタイトルはビートルズの楽曲「ドント・パス・ミー・バイ」から。

関連項目

  • 勝新太郎
  • 奥崎謙三
  • 内田裕也
  • 突然段ボール
  • 裸のラリーズ
  • 藤本卓也
  • 川西杏
  • 坂上弘
  • 李博士
  • しおさいの里
  • 早田英志
  • 長井勝一
  • 蛭子能収 - 根本はエビス・ウォッチャーとしても知られ、「何も考えておらず自分勝手」な蛭子の本質(「無意識過剰」と評したことも)をつかんでおり、「テレビで見た世間の人は、表面だけ見て『いい人』とだまされている」と語っている。また、蛭子のファンクラブの会長が事故死するなど、蛭子と深く関わった人間には不幸が訪れると警告している。また、2008年には、蛭子劇画プロダクションという蛭子との漫画共作ユニットを結成。雑誌の企画でそれぞれの画風・作風を真似て競作するなど、関係は深い(根本いわく蛭子は根本の漫画を「読んでくれてない」そうだが)。
  • 山野一、山田花子 -ガロ系漫画家の中でも、彼らの漫画は根本の影響が大きい。
  • マディ上原 -アナーキーな4コマ漫画家。根本と「お岩」という漫画家ユニットを組んで、合作漫画を描いた。
  • 町山智浩、柳下毅一郎 - 根本の自称の影響で、それぞれ「特殊編集者」、「特殊翻訳家」を名乗っている。
  • 横山剣 -クレイジーケンバンドのアルバム名などに現れる「電波」「因果」は、根本からの影響。また根本は、「クレイジーケンバンドは幻の名盤解放同盟とピチカートファイブとをリンクさせる、奇跡的なバンドだ」と発言している。
  • 直崎人士 -湯浅学のバンドメンバーであるが、根本の影響が大きい悪趣味系の著書『痴呆系』を執筆している。
  • 畸人研究学会
  • 東京キララ社
  • 石野卓球 - 中学時代、石野は根本漫画を万引きするほどのファンであり、のちに音楽雑誌WHAT's IN?にて対談することになる。

脚注

外部リンク