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アイアムアヒーロー 9

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アイアムアヒーロー』(I am a HERO)は、花沢健吾による日本の漫画作品。漫画雑誌『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、2009年22・23合併号から連載中。

あらすじ

主人公・鈴木英雄は、元漫画家のさえない青年。デビュー作は即座に打ち切られ、アシスタントをしながら再デビューを目指すが、出版社には相手にされない。職場の人間関係も上手く行かず、さらに夜になれば何者かが忍び寄る妄想に囚われ、眠れぬ夜を過ごす。そんな無為な日常の中の救いは、恋人である黒川徹子の存在。だがその彼女もすでに売れっ子漫画家になった元カレを何かと引き合いに出し、さらには酔うたびに英雄の不甲斐なさをなじる始末。

その一方、世間では不穏な兆候を示す出来事が相次いで起こっていた。全国に多発する噛み付き事件、町に増えてゆく警官の数、厚労相の入院と入院先での銃撃戦…だが、日々の生活で手一杯の英雄らにそんな報道を気に留める余裕などあるはずもなかった。

そしてある日、そんな日常は思いもよらない形で崩壊を始める。英雄の眼前に繰り広げられるのは、周囲の人々がゾンビのような異形(物語中に登場する匿名掲示板では「ZQN」と表現される週刊ビッグコミックスピリッツ2010年11月8日号No.49。)となって襲いかかり、彼らに噛み付かれた者は新たな感染者となり次々と増えて行く、まるで悪夢のような光景であった。恋人や仕事仲間も犠牲となり、日本中が次第にパニックへ覆われる中、英雄は果たして。

登場人物

鈴木英雄(すずき ひでお)
35歳。漫画家の松尾の下でアシスタントとして働いている。本人も連載を持っていた時期があったが、打ち切りになってしまい、単行本は2冊で終わる。再デビューを果たすべく、出版社にネームの持込みを繰り返している(ペンネームは「鼻糞林檎」)。趣味は射撃で、上下2連式散弾銃を所有しており、免許も所持している。その管理は部屋の鍵を二重にかけたり、隠し扉の奥に仕舞っておくなど、過剰なほどである。極度に肥大した妄想癖があり、彼の想像にだけ存在する「矢島」を話相手にしたり、周囲から賞賛されているような妄想をするが、端から見ればそれは単なる独り言であり、それが原因で現実には周囲に倦厭されている(特に三谷からはたびたび独り言をやめるように言われていた)。「自分は世界の脇役で、自分自身の人生でさえ主役になる事はない」というコンプレックスに陥っている。連載当初は臆病で助けを求められても自分を優先し見捨てるような描写が見受けられるも、比呂美と知り合ってからは彼女のために銃を抜くことも厭わなくなる(なお作中で英雄が述べている通り、平常時なら発砲はもちろん街中で銃を出すだけでも違法である)。
黒川徹子(くろかわ てつこ)
愛称てっこ。英雄の恋人で、漫画家のアシスタントをしており、古いアパートに一人暮らしをしている。かつて、中田コロリと交際していた。別れた現在もその才能に心酔し、連絡も取り合っており、その事を英雄は不快に感じている。黒髪のロングヘアーに眼鏡、口元のほくろが特徴的だが、英雄と出会った頃は金髪のショートだった。酒乱であり、よく英雄を翻弄する。その後、英雄の単行本を本棚に整列させ、中田の単行本を纏めて捨てるなど、中田への想いを断ち切り、英雄に本格的に愛情を寄せるようになるが、その直後に感染者となり、アパートの中から英雄に襲いかかり噛み付くも、直前に歯が抜け落ちていたため英雄は感染せずに済んだ。感染した後も英雄に襲い掛かろうとする他の感染者を倒し英雄を守ろうとするなど、ステレオタイプ的なゾンビとは一線を画す行動をとる。
矢島(やじま)
英雄が作り出した妄想上の存在。外見は小柄で小太りで童顔。英雄が呼べばどこにでも現れ、基本的に英雄の言葉に賛同するようなことしか言わないが、てっこが感染した後には実体のないもやのような存在で登場し、英雄に対し諭すような言葉を残し姿を消す。
中田コロリ(なかた コロリ)
てっこの元交際相手で、3年前に英雄と入れ替わる形で松尾のアシスタントを辞めて漫画家デビューし、以来あっという間に売れっ子作家となる。実家は渋谷の土地持ちで、裕福な育ち。奇矯な言動で知られるが、その才能は万人が認めている。英雄の漫画家としての才能を買ってくれている数少ない人物。
パッシー
英雄のアシスタントつながりの知り合い。関西弁の話者で、英雄とは一緒に飲みに行く仲であったが、英雄が安否を確認するための電話をかけた際には、既に感染した仕事仲間に噛み付かれていた。その後登場はしないが恐らくは発症していると思われる。
松尾(まつお)
英雄のアシスタント先の漫画家。妻子がいるにもかかわらず、みーちゃんと不倫していた。三谷によれば、「職場に来る女性には手当たり次第手を出していた」という。感染者となったみーちゃんを通じ感染し、その際男性器を食いちぎられるも、彼女を殺害し、浴槽に沈めた。しばらくは平静を装っていたが、後に発症し、三谷に撲殺された。
三谷(みたに)
松尾のチーフアシスタント。40歳代。18歳のときに漫画界に入ったものの、デビューすることが出来ずに年だけ取ってしまった事に憤っている。態度が大きく、その性格を英雄は嫌っている。女子アナオタクで、そのためニュース番組をよく見ているが、あくまで女子アナの鑑賞が目的のためであり、内容までは頭に入っていない。同じ職場のみーちゃんに好意を持っており、たびたびアプローチを仕掛けていたが、まったく相手にされていなかった。後にその歪んだ好意はストーカー行為までエスカレートする。YouTubeを通して街の非常事態について何らかの情報を得ていたため、臨機応変に対応して感染を免れた。その後、英雄と共に逃走するが、歩道橋で街の感染者に襲われた上、墜落する飛行機の車輪に頭部を巻き込まれ即死した。
クソ虫
本名不明。松尾プロの男性アシスタント。眼鏡と前分けの髪型が特徴。彼もみーちゃんと付き合っていた。感染、発症はしていなかったが、三谷に撲殺された。みーちゃんとの関係を知った三谷から「クソ虫」と呼ばれた。
みーちゃん
本名不明。松尾プロの女性アシスタント。眼鏡をかけており、三つ編みにそばかす顔が特徴。実は松尾とは不倫関係にあり、その事が職場では公然の秘密となっている。また、同時に松尾プロの他の男性アシスタント(クソ虫)とも同時に付き合っている。感染者となって松尾に襲いかかり、彼の男性器を食いちぎるが、包丁で松尾に刺され、水が入った浴槽に沈められて放置された。その後、ガスと水を含んで肥大化した醜悪な姿で復活し、三谷に可燃性のガスが入ったスプレーを噛まされ、即席火炎放射器によって頭部を爆破された。
早狩比呂美(はやかり ひろみ)
右目の下に泣きぼくろがある、髪の長い女子学生。クラスメイトとの肝試しで立ち寄った富士の樹海で、英雄と遭遇する。クラスメイトから疎外されているのか、一部の女子からはいじめも受けていた。その一環で出来レースのじゃんけんで負け『自殺死体の撮影』というノルマを課せられるも、そのおかげで逆に生き残ることが出来た。同室の同級生も殆どが感染し、彼女の同級生はほぼ全滅と考えられる。

感染者

英雄の日常を変えた存在。全身の血管が浮き出た外見となり、感染していない人間に噛みつきで襲いかかる習性を持つ。驚異的な身体能力と生命力を持ち、子供や老婆でも大の大人を殺すことが可能(腰の曲がった老婆の感染者が全力で疾走する英雄と比呂美に追いついていた)。また痛覚がないのか、車にはねられたり、階段や高所から落ちても何事もないかのように動き回る。噛みつかれた人間は新たな感染者となり、他の人間を襲う。感染してからすぐに発症する人や、数日経って発症する人など、発症時間は人により異なる。ただし生命維持活動は停止しているのか、感染から時間がたつと腐敗により体が脆くなる。肉体強度は感染前の人間の強度に準じる模様(前述の老婆はあわや噛み付くかというところまで行ったが足の骨が耐え切れず折れてしまった)。

また感染者は、以前の生活習慣や行動様式に関連した言動が見受けられる事がある(例えばアパートの大家は「やちん(家賃)」と言葉を発したり、てっこは他の感染者から英雄を守る行動をとった)。またなぜか二足歩行だけではなく四足歩行(それもブリッジ姿勢)で走るなど肉体的に不可思議な行動をとる者もいる。

原因は明らかになっていないが、細菌テロや宇宙人の仕業等、様々な噂が飛び交っている。ニュース番組で報道された病名は『多臓器不全及び反社会性人格障害』。

脚注