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アポロの歌/手塚治虫

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著者: 手塚治虫
巻数: 1巻

手塚治虫の新刊
アポロの歌の新刊

最新刊『アポロの歌 1


出版社: 秋田書店
シリーズ: 秋田文庫


twitterでのコメント (関係ないのに引っかかることもあります...)

GoITO MAVOに載ってる『同人王』のマジキチっぷりに何か似ているものがあると思っていたんだが、ようやく思い出した。手塚治虫の『アポロの歌』だ。http://t.co/lOInzAkr
suikyokitan 増刊ヤンコミじゃないけど、手塚先生にクローンの話をして「アポロの歌」ができたというのにも驚きました。 RT @009usaya: @JunyaTheSphere @suikyokitan あれは本当によかったですね。手塚治虫を元気にさせる、平田弘史を立ち直らせる、ひたすら待つ/
GoITO 手塚治虫『アポロの歌』をふと手に取ったら最後まで読んでしまった。破綻すれすれ(してる?)の頭のおかしなマンガだ(いい意味で)。
KazuhashiTomo @ishikawajun 同じ手塚治虫の「アポロの歌」じゃないでしょうか。学校に持ってきた子がいて問題になりました。
onelongline @igi_tur 「宇宙の底」だったか「地球の底」だったか…マイナーって難しいなあ。「奇子」も「きりひと賛歌」もある意味メジャーだし…あと「アポロの歌」は第一時某条例みたいのに引っかかって修正されてるらしい。 #manga #dukaman

アポロの歌』(あぽろのうた)は、1970年4月から11月に『週刊少年キング』(少年画報社)において連載された手塚治虫の漫画作品。

概要

セックスをテーマにした物語で、それ故この作品は、1970年に神奈川県で有害図書に指定されている。 作者自身が語っているように、本作は学園紛争時代の暗く殺伐とした世相を反映した暗い作品になっている講談社『手塚治虫漫画全集』版3巻の手塚自身によるあとがきより。

この作品では、母親から虐待を受けた主人公が精神科で治療を受ける合間に見た夢がオムニバス形式で描かれるが、それと同時に主人公自身の物語も次第に進行していく。 冒頭付近に予告されているように、いずれの夢も「女性を愛するが、結ばれる前に自分か相手が死んでしまう」という、悲劇色がきわめて強いものである。 なお、オムニバス形式でありながら全体としては次第に一つの物語が進行していくという手法は後に鳥人大系でも用いられた。

同じく性を扱った手塚作品として『ふしぎなメルモ』や『やけっぱちのマリア』があるが、 『ふしぎなメルモ』が(どちらかというと低年齢層の)少女をターゲットとし、本作と同時期に執筆・発表された『やけっぱちのマリア』が学園恋愛コメディであるのに対し、 本作で手塚は「はっきりと劇画ふうにタッチかえ」絶望的な物語を描く。

ちなみに本編に登場する愛の女神こと渡ひろみ(一人二役)の姿は、成人したメルモちゃんそのものである。

なお、講談社『手塚治虫漫画全集』版には『がらくたの詩』が併録されている。大学紛争時代の若者を描いた20ページ程度の短篇。

関連項目

  • 喜国雅彦 :COMIC CUEの手塚特集において、本作に対するオマージュとして、母親が主人公を虐待するシーンをリメイクしている。なお雑誌掲載時の作者コメントは「この漫画があなたのトラウマになりますように」だった。

ストーリー

主人公である近石昭吾の母親はふしだらな女で、幾度となく男を代えて複数の男と関係しており、誰が昭吾の父親かすらも分からない有り様であった。 母親にとって昭吾は新しい男を作る上で障害となる「いらない子」であった。

ある日昭吾は母親が「パパ」の一人と肉体関係を結んでいるのを見てしまう。激昂した母親は昭吾に虐待を加える。なぜ自分を生んだのかと泣きながら尋ねる昭吾に母親は「男と女が交わると勝手に生まれてしまうから仕方が無かった」と答える。この体験が心の深い傷となった昭吾は、次第に「愛」というものを憎むようになる。人間や動物が互いに愛し合い、あるいは交尾するのを見て、昭吾は憎悪を掻き立てられる。

ある日、鳥のオスが愛するメスを命懸けで蛇から守る所を見た昭吾は、愛に対する憎しみを掻き立てられて鳥達を殺してしまう。 それ以後昭吾の行為は次第にエスカレートし、愛し合う動物を見ては殺してまわる。 そしてある日、その行為を咎められて警察に逮捕させる。

物語は警察に捕まった昭吾が精神病院へと護送される所から始まる。 医師によって催眠術や電気ショック治療が開始され、昭吾は治療の合間にまどろむうちに夢を見る。夢の中で昭吾は女神像に話しかけられる。女神像は昭吾に、愛を呪った罰を受けなければならないと告げる。 その罰とは、「女性を愛するが、結ばれる前に自分か相手が死んでしまう」という悲劇的な運命を永遠に体験し続けるというものだった。

その罰は、まずは夢の中で現れる。最初の夢では昭吾は大戦中のナチスの兵士であり、ユダヤ人の少女エリーゼを愛してしまうが、それ故悲劇的な結末をむかえる。

第二の夢では昭吾はセスナのパイロットであり、鼻持ちならない女カメラマンとともに無人島に不時着する。そこは動物達が争いもなく幸せにくらすユートピアだったが、昭吾達だけは心の底では愛し合いながらもいがみあい、そして破滅をむかえる。

第三の夢は合成人が世を支配する未来の世界が舞台で、昭吾は合成人の女王シグマの暗殺を企むレジスタンス運動の一員であった。 女王は暗殺者であるはずの昭吾を愛するようになるが、クローン技術の発達した未来社会で昭吾は、死すらも超越した絶望的な愛を経験し、そしてやはり破滅する。

こうして夢の中で繰り返された悲劇は、最後に現実へと進行する。

ある日精神病院の中庭を散歩していた昭吾は色情狂の女に迫られる。拒絶して揉み合ううちに昭吾は誤って相手を気絶させてしまう。女を殺してしまったと誤解した昭吾は精神病院から逃走し、その途中で渡ひろみという女性と出会う。ひろみの話によれば、彼女は引退した陸上選手で、逃走する昭吾の姿に陸上の才能を見出したのだった。彼女は昭吾をかくまう代わりに、陸上の練習をさせる事を約束させる。

それから、山奥で二人きりの生活が始まる事となった。そうした生活の中、昭吾はひろみに淡い恋心を抱くようになり…

だが、そうした生活も長くは続かなかった。 ある日昭吾が練習を終え、二人の暮らすロッジに入ろうとすると、 中からひろみが誰かと話す声が聞こえていた。

その相手は、昭吾が入院していた精神病院の医師だった。 精神病院の医師にひろみは昭吾に愛していないのかと問われたひろみ一瞬はっとしったが、愛していないと答えた。

そのことをかげで聞いてしまった昭吾は絶望から飛び出して行った。

医師のアポロに追われ月桂樹になったダフネになぞられた、月桂樹になれとの言葉に一度は起つひろみであったが、途中彼女もまた、昭吾を愛していることに気付き引き返した。

崖から身を投げようとする昭吾を突き飛ばしひろみは逆に命を落とす。心中した男女との関係から警察に追われた昭吾はガソリン置場に立てこもったが、警察隊はガソリンタンクを発砲し昭吾はひろみの遺体と自分の命を共にした。

気が付くと昭吾は愛の女神の前にいた。女神は無情にも、彼を許さなかった。昭吾は再び、永久に繰り返される愛の試練に向かうのであった。 

自然は…、男と女のつくりわけ…、男と女は自らの子孫のために結ばれ、生みつづける…、胎児…それは、男と女のオスとメスとの、誠実な愛のしるしである。誠実な愛がなければ、人類の歴史は続かなかっただろう。男と女と、生まれるものは、世界のつづくかぎり、無限のドラマを繰り返すだろう。今日も、また、明日も…。

章構成

  • 序章:神々の結合:近石昭吾の少年時代を描く。
  • 第1章:デイ・ブルーメン・ウント・ダス・ライヘ(花と死体) :最初の夢を描く。
  • 第2章:人間番外地:第二の夢を描く。
  • 第3章:コーチ:渡ひろみとの出会いを描く。
  • 第4章:女王シグマ:第三の夢を描く。
  • 第5章:ふたりだけの丘:昭吾と渡ひろみの話の続き。

タイトルの由来

タイトルの「アポロの歌」は第5章で説明されるように、ギリシア神話におけるアポロとダフネの悲愛に由来する。 アポロ神はニンフのダフネに恋するが、アポロを嫌がったダフネは彼から逃れる為、月桂樹へと姿を代えてしまう。 後悔したアポロは、彼女を忘れない為、月桂樹から月桂冠を作り、永久に身に着ける事にした。

登場人物

  • 近石昭吾:主人公。母親から虐待された経験が原因で愛というものを憎むようになり、それ故愛しあう動物達を殺す。
  • 昭吾の母:複数の男性と関係し、誰が父親かも分かない状態で昭吾を生む。
  • 講談社『手塚治虫漫画全集』版3巻p108で、ひろみが「榎先生」と呼んでいる。:精神科医。昭吾を治療する医師。戦争中、人を殺して胸がスーッとした経験がある為、自分が正気だとは思っていない。
  • エリーゼ:第1章のヒロイン。ユダヤ人。
  • ナオミ:第2章のヒロイン。「(昭吾の)いちばん嫌いなタイプの芸術家ぶって一流校をはなにかけた女カメラマン」講談社「手塚治虫漫画全集」版の2巻p87
  • 福本一義:第2章に登場。阪神動物園の飼育係長で、島に動物達を運んだ。
  • 色情狂の女:昭吾を犯そうとする。第3章に登場。
  • 渡ひろみ:元陸上選手を名乗る女。昭吾にマラソンを教える為、箱根の奥の山荘講談社「手塚治虫漫画全集」版の3巻p96にて昭吾と生活する事になる。

第3章、第5章に登場。

  • 山部:現役の陸上選手。ひろみのいいなずけ。ボストン・マラソンで二位になった事があるいずれも、講談社「手塚治虫漫画全集」版の2巻p111。第3章、第5章に登場。
  • 下田警部:『バンパイヤ』などに登場した警部。昭吾を殺人者、暴行者として追う。第3章、第5章に登場。
  • ロボポリス:第4章に登場。人間を取り締まる。
  • ミナ:第三の夢に登場。合成人の少女。昭吾に道を案内する。
  • 女王シグマ:第4章のヒロインにして合成人の女王。クローン技術により、何度も甦る。
  • ビビンバ首相:第4章に登場。顔は山部と同じ。
  • 昭吾のクローン:第4章に登場。
  • 心中した男女:第5章に登場。

単行本

  • COM別冊 全2巻(虫プロ商事)
  • COM名作コミックス 全1巻(虫プロ商事) 
  • 手塚治虫漫画全集 全3巻(講談社)
  • 手塚治虫名作集 全2巻(ホーム社)
  • 集英社文庫 全2巻(集英社)

外部リンク

注釈