HOME > コミック > オルフェウスの窓

オルフェウスの窓/池田理代子

共有

著者: 池田理代子
巻数: 9巻

池田理代子の新刊
オルフェウスの窓の新刊

最新刊『オルフェウスの窓 9


出版社: 集英社
シリーズ: 集英社文庫コミック版


twitterでのコメント (関係ないのに引っかかることもあります...)

my_2798 RT @nico48954357: 進撃の巨人 LOVELESS 動物のお医者さん ぼくの地球を守って アーシアン 三丁目の夕日 #持ってる漫画を10タイトルあげて趣味を晒す …あれ?エースをねらえ!全巻と、ベルサイユのばらと、オルフェウスの窓と、呪いの館と洗礼と、おろち…
minorif_jp オルフェウスの窓 全4巻/池田理代子 http://t.co/hD17ccnH #library #manga #cartoon #japanese
nemurihime45 「オルフェウスの窓」も名作ですね(*^o^*) #manga
satogone 3月 オルフェウスの窓 #manga

オルフェウスの窓』(オルフェウスのまど)は、池田理代子作の長編漫画。

概要

『オルフェウスの窓』は、20世紀初頭のヨーロッパを背景に、第一次世界大戦やロシア革命といった史実を織り交ぜて、ドイツ・レーゲンスブルクの音楽学校で出会った3人の若者の運命を描く長編漫画である。物語は大別すると4部から構成され、その舞台もレーゲンスブルクからオーストリアのウィーン、ロシアのサンクト・ペテルブルク、またレーゲンスブルクへと変転する。

第1部は『週刊マーガレット』1975年(昭和50年)第4・5号から1976年(昭和51年)第32号まで掲載され、その後『月刊セブンティーン』に連載の場を移し、1977年(昭和52年)1月号から1981年(昭和56年)8月号まで掲載された。

番外編として、「コラージュ」(ヴォルフガング・フォン・エンマーリッヒの後日談)、「オルフェウスの窓 外伝」(第2部で誘拐されたままになっていたイングリッドの息子キースのその後。作画は宮本えりか。)がある。

1980年(昭和55年)に、第9回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。1983年(総和58年)には、宝塚歌劇団星組で舞台化された。

ストーリー

第1部

第1部に描かれるのは1904年から1905年まで、ドイツ・バイエルン王国のレーゲンスブルクにある音楽学校を主な舞台とする。

主人公のユリウスは、由緒ある貴族であるフォン・アーレンスマイヤ家の当主を父とし、その愛人を母とする女の子である。しかし、ユリウスは、女の子であることを隠し、生まれ落ちたその日から男として育てられた。それは、子を身ごもったまま捨てられた母が、男への復讐のため、いつかフォン・アーレンスマイヤ家を乗っ取るために仕組んだことであった。

ユリウスが15歳になった頃、父の正妻が亡くなった。父とその正妻との間には男の子がなかったため、ユリウスは生まれ育ったフランクフルトを離れ、レーゲンスブルクのフォン・アーレンスマイヤ家に、次期当主として実母ともども迎え入れられた。ユリウスとその母は、病に伏せった父と腹違いの二人の姉たちとともに、フォン・アーレンスマイヤ家の広大な屋敷で暮らすこととなる。

ユリウスは幼いときからピアノを教え込まれていたため、レーゲンスブルクの聖ゼバスチアン教会附属音楽学校(男子校)に、少女であることを隠して入学した。この学校には、ギリシア神話のオルフェウスとエウリディケの悲恋の物語になぞらえた言い伝えを持つ、「オルフェウスの窓」と呼ばれる古い窓があった。その言い伝えとは、「オルフェウスの窓」に立った男性が階下を見たとき、最初に視界に入った女性と必ず恋に落ちるが、その恋は必ず悲劇に終るというものである。ユリウスは、この「オルフェウスの窓」で、同じ日に入学した奨学生のイザークと、また、上級生のクラウスと、別々のときに出会ってしまう。

女であることを隠してフォン・アーレンスマイヤ家に暮らし、聖ゼバスチアンで音楽を学ぶユリウスは、周囲の人々と友情を育み、敵対し、恋をする。

第2部

第2部に描かれるのは1905年から1919年まで、オーストリア=ハンガリー帝国の首都・ウィーンを主な舞台とする。

人並み外れたピアノの才能を認められ、周囲の期待を一身に受けたイザークは、レーゲンスブルクを離れ、オーストリアの首都ウィーンの音楽院に転校した。そこで、イザークは、風変わりな学生ラインハルトと彼が作った曲に翻弄され、また助けられながら、次第に自分の音楽を確立させていく。

やがて、イザークは新進ピアニストとして華々しいデビューを飾り、順調に名声を高めていく。ヨーロッパ各国を演奏して回る忙しい日々の中で、イザークは、師であるシェーンベルク教授の娘アマーリエや、ロシアの新進バイオリニストのアナスタシア、レーゲンスブルクで知り合った娼婦のロベルタたちとの恋愛に苦悩を深める。日露戦争から第一次世界大戦とその戦後までという、激動の時代が舞台の背景となる。

第3部

第3部ではいったん時をさかのぼり、1893年から1917年まで、ロシア帝国の首都・サンクト・ペテルスブルクを主な舞台とする。

物語は、アレクセイ・ミハイロフ(クラウスの本名)の幼少期から始められる。身分の低い母と侯爵家の当主である父との間に生まれたアレクセイは、6歳まで母に育てられたが、母を亡くしたため、すでに主亡き侯爵家に引き取られ、誇り高き祖母に厳しく躾けられることになる。そこで出会った兄のドミートリィは、若くしてヴァイオリンの才能を認められ、ロシアの民の窮状を憂慮する革命家だった。

アレクセイが14歳になった頃、仲間の裏切りによって陰謀が発覚したため、兄は処刑された。失意のアレクセイは、兄の恋人であったアルラウネとともにドイツへ出国し、その熱心な教育を受けて、革命家として育てられる。

アレクセイが18歳になった頃、日露戦争での敗色が濃厚となったため、ロシア国内では国民の不満が高まり、革命家の活動が再び活発になった。アレクセイは、アルラウネとともにロシアに帰国し、サンクト・ペテルブルクで活動を始めた。それから少し後、ユリウスは、アレクセイを追ってレーゲンスブルクからサンクト・ペテルブルクへやってきた。しかし、市民と軍隊の小競り合いに巻き込まれたユリウスは、お尋ね者のアレクセイの名を口にしたために、ロシア陸軍の幹部であるユスーポフ侯の館に軟禁されてしまう。

革命と戦争に翻弄されるロシアを舞台に、同じく侯爵家に生まれながら革命家となったアレクセイと、ロマノフ王朝の守護者を自任して体制の保守に腐心するユスーポフ侯とを対比させて、その間で揺れ動くユリウスの悲恋を描く。

第4部

第4部はエピローグ。時は1923年、ヴァイマル共和政の下のドイツ・レーゲンスブルクを主な舞台とする。

ロシアで起きた様々のことによって心を閉ざし、レーゲンスブルクに帰ってきたユリウスを、姉のマリア・バルバラは温かく迎えた。ユリウスの記憶を取り戻し、「呪われた」アーレンスマイヤ家の謎を解くため、マリア・バルバラは、失意のうちに一人息子とレーゲンスブルクへ戻っていたイザークと、音楽学校時代にユリウスの上級生だったダーヴィトに協力を申し出る。3人が懸命にユリウスの記憶を呼び戻そうとする中、ユリウスを付け狙う影が動き出す。

主要な登場人物

主人公

ユリウス・レオンハルト・フォン・アーレンスマイヤ
男として育てられた少女。名門の貴族であるアーレンスマイヤ家の唯一の男子として、次期当主に迎え入れられる。男の子の顔負けするほど活発だが、内心では女の子に戻りたいと思っている。
アレクセイ・ミハイロフ(クラウス・フリードリヒ・ゾンマーシュミット)
ユリウスが通う音楽学校の上級生。学校にも持て余される不良学生だが、ヴァイオリンの腕は群を抜く。ユリウスと「オルフェウスの窓」で出会い、親しくなる。実はロシア人であることを隠し、地下活動を行っている。後にロシアへ帰国する。
イザーク・ゴットヒルフ・ヴァイスハイト
ユリウスの同級生。貧しい酒場のピアノ弾きの子として生まれながら、ピアニストとして天才的な素質を持っており、奨学生となる。音楽学校に入学した日に、ユリウスと「オルフェウスの窓」で出会い、親しくなる。後にウィーン音楽院へ転校し、ピアニストとして華々しく活躍する。ピアニストのヴィルヘルム・バックハウス(実在の人物)に啓発され、親交を結ぶ。

その他

第1部

マリア・バルバラ・フォン・アーレンスマイヤ
アーレンスマイヤ家の長女。父親が病に倒れた後、事実上の当主として家を切り盛りする。初めはユリウスに対して辛くあたっていたが、次第に肉親としての愛に目覚める。かつてピアノを教わっていたヘルマン・ヴィルクリヒを慕っている。数々の不幸に見舞われながらも、気丈にアーレンスマイヤ家を守り続ける。第2部、第4部でも登場。
レナーテ・フォン・アーレンスマイヤ
ユリウスの母。アーレンスマイヤ家の当主であるアルフレートの愛人にされたが、ユリウスを妊娠中に捨てられた。野心からユリウスを男の子として育て、跡を継がせようとする。「オルフェウスの窓」でヘルマン・ヴィルクリヒに出会い、恋に落ちた過去を持つ。
アネロッテ・フォン・アーレンスマイヤ
アーレンスマイヤ家の次女。その端麗な容姿を誇り、男性関係も奔放。一族の財産に異常なまでの執着を示す。自らを慕う召使のヤーコプを使って、陰謀を巡らす。マリア・バルバラやユリウスとまったく似ておらず、それを指摘されると異常なまでに怒る。
ゲルトルート
アーレンスマイヤ家の召使い。生まれてすぐにアーレンスマイヤ家の前に捨てられていたところを拾われた。ユリウスに淡い恋心を抱く。フリデリーケと親しくなる。
ヤーコプ・シュネバーディンゲン
アーレンスマイヤ家の召使いで御者。その立場と相俟って、マゾヒズム的感覚でアネロッテを愛しており、彼女のもとで色々と働いている。
ヘルマン・ヴィルクリヒ
ユリウスたちが通う音楽学校の教師。イザークの才能を理解し、情熱を注いで彼を大ピアニストへ育て上げる。かつてはアーレンスマイヤ家でピアノの家庭教師をしていた。正体を隠したユリウスの母と「オルフェウスの窓」で出会い、宿命的な恋に落ちた過去を持つ。
フリデリーケ
イザークの妹。市場で野菜売りをして生計を立てイザークを助けるが、イザークを血のつながらない兄と知り適うことのない想いを抱いている。ゲルトルートの親友となる。ユリウスの家に招待されたとき、モーリッツに見初められる。
モーリッツ・カスパール・フォン・キッペンベルク
ユリウスの同級生。アーレンスマイヤ家と肩を並べる、キッペンベルク商会の末息子。イザークが転校してくるまではピアノ科一の腕前とされていたため、イザークに激しいライバル心を抱く一方、ユリウスの家で見初めたイザークの妹フリデリーケには激しい恋心を抱く。後に音楽学校を辞めて実業界に身を投じ、商会の経営に専念する。第2部でも登場。第4部では本人は登場しないが、イザークの台詞から相変わらず交流は続いている模様。
ダーヴィト・ラッセン
ユリウスが通う音楽学校のヴァイオリン科の上級生。クラウスの音楽学校における親友。悲劇的な過去を乗り越えてきたためか精神的に成熟しており、思慮深い落ち着いた青年。それゆえ、他人の心情や立場を察するのが得意な上、自分自身が激情にかられることは少なく冷静であったため、ユリウスたちから頼りにされる。第2部、第4部でも登場。
カタリーナ・フォン・ブレンネル
イザークが家庭教師としてピアノを教えている少女。貴族の娘に生まれながら、恵まれない人々に心を寄せ、マリア・バルバラらとともに慈善活動に勤しむ。街で倒れたフリデリーケを助け、親友となる。イザークに恋をして、援助を申し込む。第2部でも登場。

第2部

ロベルタ・ブラウン
イザークがアルバイトでピアノ弾きをしていた酒場で働いていた少女。父親の酒代のカタに身を売らされ、娼婦にまで転落する。陰ながらイザークを応援し、イザークを追ってウィーンまで来ていた。イザークの結婚相手と目されていたアナスタシアの手紙を街角で拾い、訳のわからぬままスパイ容疑で逮捕されるが、イザークの幸福を思ってアナスタシアの身代わりとなりスパイの罪を被ろうとする。彼女の行動に心を動かされたイザークと結ばれるが、これまでの生活環境や価値観の違いすぎるふたりは時と共にすれ違いを重ね、結婚生活は決して幸福と言えるものではなかった。息子のユーベルを忘れ形見に残して息を引き取る。
ラインハルト・フォン・エンマーリッヒ
ウィーン音楽院の学生で作曲が専門。幼少のころからピアノに天才的な素質を持っていたが、身分の高い家柄であったため、父によって性別と名前を偽ってパリでデビューした過去がある。その頃、自分を中傷したピアニストを陥れる為に作曲した難曲によって自らの指をも痛め、演奏家としては再起不能となっていた。ピアニストとしてのイザークの成長は、彼の助言に負うところが大きい。義母と不倫関係になり、義母の連れ子に射殺される。
アマーリエ・シェーンベルク
イザークのピアノの師であるシェーンベルク教授の娘。その社交的で明るい性格に、イザークは惹かれて行く。
イングリット・フォン・ザイデルホーファー
ウィーンでイザークがピアノの家庭教師をしていた、ザイデルホーファー家の三姉妹の長女。使用人アントンと想い合う仲であったが、父の進めた婚約者と、アントン自身の願いもあって結婚。その後は夫と息子のキースを心から愛し、アントンを避けるようになるが、その様子に心を痛めたアントンはキースを連れて姿を消してしまう。
クララ・フォン・ザイデルホーファー
ザイデルホーファー三姉妹の三女で、イザークの教え子。音楽の本質を見抜き、作曲家としても天性の才能を持っている。足が不自由であることから、父親は彼女が傷つけられることを恐れて世間に出すことをためらっていたが、イザークの勧めと何より本人の強い意志によって音楽家としてデビューする。イザークに恋していたが、教え子としてしか見られず本気にされなかった。長姉の息子がかつて長姉の身分違いの恋人だった召使に誘拐されたため、ピアニストとなった後は各地をまわり、甥の行方を捜し求めることになる。イザークの演奏に迷いが見られると、本人よりも敏感に察知していた。
マルヴィーダ・フォン・ザイデルホーファー
ザイデルホーファー三姉妹の次女。フリデリーケに似ている。レーゲンスブルクを訪れた際、聖ゼバスチアンの前を通り、オルフェウスの窓に立ったフランツという青年に一目惚れし、その後休暇を利用してウィーンへ訪れたフランツと偶然再会、恋人となった。しかし、名家であるフランツの家族は彼の意志を無視して別の女性と婚約を結ばせてしまい、さらにフランツがマルヴィーダへ送った手紙も届かないよう細工していた。ことの真相を知らぬまま、事情を知らぬモーリッツによって婚約の事実だけを知らされてしまったマルヴィーダは悲しみにくれ、モーリッツは彼女に責任を感じると共にフリデリーケへの想いを重ねてしまい、不倫関係になる。フリデリーケの存在を知り、さらにモーリッツが去った後フランツと再会して全ての真相を知った彼女は、明言されてはいないがフランツと心中してしまった様である。
アナスタシア・クリコフスカヤ
ロシアの新進バイオリニスト。名門公爵家の次女。アレクセイの幼なじみで、アレクセイのことを子どもの頃から一途に愛している。一時はその結婚相手にと目されたこともあるが、アレクセイは革命家として亡命してしまい、彼女は皮肉にも、音楽家・ストラーホフ伯(アレクセイの兄・ドミートリィが革命派であるとの情報をユーリィ・プレシコフから入手して告発、ライバルのドミートリィを死刑に追いやることで自らは出世を成し遂げた張本人)に嫁ぐことになる。結婚式の席上で、新郎となったストラーホフ伯からその事実を聞かされて失神する。しかし、その後も彼への愛ゆえに革命家を支援、アレクセイがシベリア流刑に処せられた後は、彼を救出するための活動の中心格となる。しかし、ウィーンへの演奏旅行を表向きの口実にして現地で革命支援活動を展開していたところ、その活動がロベルタによって行われたものと誤解されてロベルタが司直に追われていること、そのロベルタが妊娠していることを知り、良心の呵責に耐え切れず、それまで大事に保管していたアレクセイのストラディヴァリウスをイザークに託して自分はウィーンの警察に出頭。ロシアに強制送還されシベリア流刑に処せられる。その後彼女の運命がどうなったかについては語られていない。第2部とほぼ時間軸が並行している第3部でも登場する。

第3部

ドミートリィ・ミハイロフ
アレクセイの異母兄。音楽家として将来を嘱望されていたが、革命運動に参加し、同志たちと共に逮捕された仲間の奪還を企てる。しかし計画の実行直前に、同志の1人で、アルラウネに横恋慕したユーリィ・プレシコフに裏切られて逮捕され、アルラウネに弟を託し、銃殺刑に処された。彼は革命運動家の中で伝説的な存在となり、また、弟のアレクセイに対しても、思想面のみならず、その精神面において極めて強い影響を与えた。
アルラウネ・フォン・エーゲノルフ
ミハイロフ兄弟の家庭教師をしていたエーゲノルフ教授の娘で、ドミートリィの婚約者。共に革命運動に従事する同志でもあった。ドミートリィが処刑され、革命勢力が分裂した後は、メンシェビキの活動家としてアレクセイを一人前の革命家にするべく熱心に教育するが、成長したアレクセイはボリシェビキに合流するため彼女の元を去る。アレクセイを追ってモスクワにまでやってくるものの、皮肉にもアレクセイが携わった爆破工作の犠牲となって死亡。ユリウスとも面識があり、カーニバルの時に負傷した彼女を手当てしたのはアルラウネである。その美貌と立ち居振る舞いでユリウスを圧倒させた唯一の女性。
レオニード・ユスーポフ
侯爵家の若き当主でロシア陸軍の指導者の一人。崩壊寸前の体制側にあって侮れない存在で、アレクセイら革命勢力にとっては最も手強い敵である。第3部におけるサブキャラクターの中では最重要人物である。単なるエリートではなく、頭脳明晰で、軍人としては職務遂行にあたって妥協を許さぬ自他共に厳しい人物として知られ、辣腕を振るう有能な将校としてロシア軍部内や貴族界では恐れられている。そんな彼は貴族界・軍部内では「氷の刃(やいば)」との異名で知られている。貴族社会の腐敗に絶望している誇り高い人物であり、皇帝への忠義一途のあまり、宮廷に巣食う腐敗の元凶の一つ・ラスプーチン及びその一派と激しく対立、たびたび嫌がらせを受ける。ロシア入国直後にデモ隊と軍隊の衝突に巻き込まれて負傷したユリウスを保護、この際、ユリウスの父親がロシア皇帝から密かに託されていた莫大な隠れ資産に関する秘密を隠蔽するため、皇帝の命で(後にはアレクセイをおびき寄せる目的で)ユリウスを軟禁するが、女性であることを知り、次第に彼女を愛するようになっていく。しかし、やがて記憶喪失に陥ったユリウスを立場や暴力を利用してわがものとすることはなかった。ユリウスをめぐっては、アレクセイと言わばライバル関係にあると言えるが、アレクセイとは、共に祖国ロシアを愛し、また共に貴族の家柄に生まれながらも、思想的に正反対のスタンスに立ち、その意味でもライバルである。しかし、弟・リュドミールの命の恩人であるアレクセイを追い詰め切ることができないなど、義理堅い面もあり、手段を選ばないような非道な人物ではない。自分の考えが歴史の流れに逆らっていることを自覚しながら、帝政崩壊後も帝政復活を目指しクーデター計画を遂行すべく工作。しかし、臨時政府に計画が露見、自決によって最期を遂げる。モデルは実在したフェリックス・ユスポフ公爵(現実世界でラスプーチンを殺害したのはユスポフ公爵であるが、公爵は自決することなく亡命、1967年まで存命した)だが、原作者がかれの人格形成の上で参考にした真のモデルは2・26事件(1936年)で主導権を取った青年将校の1人ということである。
ヴェーラ・ユスーポフ
ユスーポフ侯の妹。気は強いが心優しく芯の強い女性で、ユリウスにも暖かく接していた。使用人エフレムと恋仲になっていたが、彼の正体がスパイ目的で潜入したゲオルギー・バザロフなる革命家であったと知らされた直後、兄・レオニードによってバザロフを射殺され、深く傷つく。ユスーポフ侯等のクーデター発覚後、身分を偽り、国境を越えてユリウスをドイツへ送り届け、自身は亡命した模様。アナスタシアの親友でもあった。なお、ロシア語の人名としては、女性は姓が格変化するため、「ヴェーラ・ユスーポワ」となるはずであるが、劇中ではアナスタシア婚約直後のストラーホフ伯爵以外からは呼ばれていない。(幼年読者の混乱を避けるため?)
リュドミール・ユスーポフ
ユスーポフ侯、ヴェーラの年の離れた弟。ヴェーラによって育てられた。幼いとき列車に轢かれそうになったところを、アレクセイに助けられた。心の純粋な少年で、成長と共にロシア宮廷の腐敗に怒りを抱くようになり、同時にアレクセイに強い影響を受け、陸軍士官学校に入校。最後には侯爵家を捨ててボリシェビキに志願、その勇士となった。国外亡命しようとする姉・ヴェーラと偶然再会したが、見逃す。この時、バザロフは心からヴェーラを愛し苦悩していたのであって、決してヴェーラの心をスパイ目的で利用していたのではなかった事実をヴェーラに伝えた。
セルゲイ・ロストフスキー
ユスーポフの部下。階級は大尉。任官以来ユスーポフ侯に仕え、非常に忠実な部下であり続けた。ユスーポフ侯の極秘任務として、反逆者を装いボリシェビキに潜入、アレクセイを死に追い込む。クーデター発覚後、ユスーポフ侯の後を追って自決。「ユダの汚名を被るほどの部下」と侯に言わしめた。
グリゴリー・エフィモビッチ・ラスプーチン
実在の人物で、僧侶。催眠術のような「聖なる技」で、血友病に苦しむ皇太子の出血を止めることが出来たため、アレクサンドラ皇后の絶大な信頼を得て宮廷で権勢を振るう。最終的には、ラスプーチンに逆らえば明日の命が危ないと言われるほど宮廷の腐敗は進んだ上、皇帝もラスプーチンの影響を受けて失策を侵すようになった。このままでは革命になると危惧した、ユスーポフ侯を中心とする反ラスプーチン派と激しく対立。ユスーポフ侯の邸宅で毒を盛られ、あげくに撃たれ、さらにナイフでとどめを刺されて暗殺された。
アデール
ユスーポフ侯の妻で、皇帝の姪。自尊心が強く、政略結婚であったこともあって夫に対する愛情は薄かったのか、堂々と浮名を流していたが、自分でも気付かぬ部分ではユスーポフ侯を愛していた。ユスーポフ侯を陥れようとするラスプーチンの差し金もあって離婚するが、その後初めて自分の本当の気持ちに気付いて激しく後悔し、ユスーポフ侯の役に少しでも立とうと、ラスプーチンの暗殺に協力する。
ミハイル・カルナコフ
革命家。アレクセイと同年配。幼少期にアレクセイの獲ったシギを奪って以来、少年期に再会して街中で殴り合いの喧嘩を、さらに反乱を起こした極東軍の一員として列車を乗っ取った際にはメンシェビキの任務のため乗客として乗車していたアレクセイと偶然出会うなど、何かと縁のある男。ドミートリィの同志アントンに育てられた。日露戦争に従軍する前は工場労働者だったらしい。レーニンの唱える武装革命路線を支持し、アレクセイに大きな影響を与える。第一次ロシア革命の敗北後はスパイとして軍部に潜入、シベリアに収容されていたアレクセイ達囚人の救出作戦を指揮。さらに憲兵隊長であるアントニーナの夫の部下として彼女に接近、利用するつもりが、本気で愛し合うようになってしまい、それがもとでアナスタシア救出に失敗すると、彼女を殺害して自らも命を絶った。
アントニーナ・クリコフスカヤ
第二部から登場していたアナスタシアの姉。性格は妹とまるで異なり、プライドが高くて見栄っ張り。若い頃ミハイルに貴族としてのプライドを傷つけられ、成人後もひと悶着あったところへ夫の部下として現れた彼に、正体を知っていたがために脅迫され、苦境に陥る。ミハイル殺害を試みるがいつのまにか彼を激しく愛するようになる。しかし、アナスタシアとは違い、彼の行おうとする革命を理解することがまったく出来ず、同志に彼が奪われないよう、アナスタシア救出の直前に睡眠薬を盛って図らずも妹の救出を失敗させてしまい、ミハイルともども破滅を迎えた。
フョードル・ズボフスキー
アレクセイの同志であり、最大の理解者。革命組織におけるアレクセイの親友で実直な性格。口ひげを生やしている。アレクセイとは当初共にメンシェビキとして活動していたが、やがてブルジョワに対する考えの違いからメンシェビキを激しく批判、アレクセイに先んじてボリシェビキに転向し、モスクワに向かった。アレクセイにも少なからぬ影響を与え、結果的にアレクセイをボリシェビキに引き込むことになる。女性に対しては純情な男で、ゲットー出身のユダヤ人女性で、ポグロム後、娼婦に身を落としていたガリーナを愛し、妻とする。不幸にも彼女は妊娠中、憲兵隊に襲われ、流産がもとで死亡する。革命の戦士としてユリウスとの間に一線を画そうと務めていたアレクセイに、愛情の持つ素晴らしさを伝え、二人の結婚を決意させた。

関連項目

  • 宝塚歌劇団によって舞台化された作品の一覧