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コスモス楽園記 5

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コスモス楽園記』(コスモスらくえんき)は、ますむらひろしの漫画作品。1986年から1989年まで『コミックバーガー』に連載された。

概要

ますむらひろしの真骨頂ともいうべき、猫と人間が対等に絡む世界を描いた作品である。

南太平洋の架空の島「ロバス島」を舞台に、ある科学者の実験によって生まれた、直立歩行し日本語を話す猫たちが作り上げた文明社会を、人間である主人公・藤田光介の視点から描く。

ますむらひろしの代表作である『アタゴオル』とは世界が似ており、「南洋版アタゴオル」とでもいえようものだが、その背景は大きく異なり、ある意味では一線を画している作品であるといえる。

岩手生まれの日本人科学者・フジタゴウスケ博士が、ロバス島で自らの記憶や言語を他種の生物細胞に移入するという実験を行なった結果、不思議な猫たちや島の風景が誕生したという設定である。フジタ博士の記憶の中枢に存在するものが、祖国である「日本」、故郷である「岩手」、そして好きな画家である「ゴッホ」であり、本作品の重要なコンセプトといってもよいだろう。

まず、フジタ博士の祖国「日本」だが、登場する猫たちは日本語を話し、彼らの脳には日本に関する記憶がインプットされている。猫たちは、日本の文化、風俗などは全くわからず、無意識のうちにしているだけなのだが、彼らの生活には随所に日本文化が垣間見られる(訳がわからずに新年に門松を立てたり、寿司を食べたりするなど)。

そして、フジタ博士の故郷「岩手」だが、フジタ博士の記憶には、好きでよく登った山である岩手山などの故郷の風景が強く存在し、これが猫たちの記憶の根幹を形づくっていたりする(小学校の社会の授業で、生徒たちに、日本の中心は岩手だと教えていた)。

それから好きな画家の「ゴッホ」だが、フジタ博士は、ゴッホの絵画を愛好し、その画集を実験材料に用いたことから、猫たちが住む町の建物はゴッホの絵に出てくるものとそっくりという現象が生じる。

これらは、作者のますむらひろしの記憶、嗜好でもあり、原風景といってもよいものであろう。

『アタゴオル』で随所にちりばめられていた日本的叙情が、本作でも生きている。

ますむらひろしは、キャラクターを猫に置き換えての宮沢賢治の童話の漫画化で有名で、賢治についての研究論も書いており、取材等で賢治の故郷である岩手(花巻や盛岡、小岩井農場など)も頻繁に訪れている。『アタゴオル』のヒデヨシが、岩手県経済連(JAいわて)のイメージキャラクターだったこともある。

岩手は、作者にとって思い入れの深い土地であるといってもよいのである。

そして、ゴッホは、作者が愛してやまない画家であり、その作品に強く影響を受けてもいる。

本作は、作者の思いが十分に開花した作品だといえるだろう。

サブタイトル一覧

本作では第1話、第2話…ではなく、その1、その2…と表記される。

1巻
1. 呼吸の夜    
2. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード   
3. ムーンライト・キネマ   
4. ジプレッション設計師   
5. 漂流博物館   
6. I’M THE EGG MAN  
7. 牛肉を買いに  
8. 硫黄谷の種  
9. EGG MANの散歩道  
10. 胞子  
2巻
11. HELP&GET BACK    
12. 水色網目   
13. 網目の底   
14. スネール   
15. オレンジ   
16. サイレント・サイダー  
17. IMAGINE  
18. 新聞記者  
19. ねこねこ第4工場  
20. ブルー・パニック  
21. ポンペイTOWN  
22. THE ROLLING TIME  
3巻
23. ノドが鳴る   
24. ボンゴ・マン   
25. ジョジマアル・ワイン   
26. 脳にしみる声   
27. ポーカー   
28. オレの腹はよく泣く腹だ   
29. 美食評論クラブ  
30. 美食の極致を食べる時  
31. ホルム草が飛んでくる時  
32. 酒仙猫  
33. 星ヒゲ祭  
4巻
34. 春のオフロ    
35. コペルニクス・ジュース   
36. A SONG FOR YOU   
37. 木靴屋   
38. サイレンス   
39. 木打ち通信   
40. 水色の町   
41. イナズマ床屋   
42. 虫はなんでも知っている  
43. 真昼の心臓   
44. 静寂(しじま)の響き   
45. お香クジ   
46. バロックハウス  
47. 建築家  
48. ロバス銀行  
49. クレーター・カクテル  
50. 心の言葉  
51. 恐竜絶滅表現  
52. マダラ旋律  
53. CAN YOU HEAR ?  
54. 地下プール  
55. 無敵の胃袋  
56. 腹掘ドリンク  
5巻
57. 魚偏調査    
58. 盆裁狂   
59. 盆栽返し  
60. 地図   
61. 血の流れ  
62. ポッタ村祭り   
63. 南洋日本風景  
64. ブッシル草のドブロク  
65. FULL MOON  
66. NINJA  
67. 冷涼服  
68. 籠城大会  
69. サプォム  
70. サプォム探し  
71. リズム合戦  
72. さよならロバス・さよならニッポン

あらすじ

番組制作会社のスタッフである藤田光介は、人気テレビ番組「秘島探検シリーズ」制作のための現地調査で、南太平洋に浮かぶ孤島・ロバス島を単身訪れる。

ロバス島は、1950年代に核実験や植物細胞実験がたびたび行なわれ、以来、誰も人が寄り付かない無人島であった。 ロバス島に上陸した光介がまず目にしたものは、異常に巨大化した植物や甲虫だった。おかしな足跡を見つけた光介がそれをたどっていくと、核実験場の跡だった場所であるクレーターのそばに行き着く。

クレーターには、何と町が広がっていた。さらに驚いたことに、町を歩いていたのは、人間のように服を着て直立歩行する猫たちだった。

そして、光介の前に、日本語を話す太った猫が現れる。文太と名乗るその猫に案内されて町に入った光介。町の建物は、ゴッホの絵に出てくるものにそっくりだった。

乗ってきたモーターボートを押収されてしまい帰れなくなった光介は、気乗りがしないながらも、ロバス島で文太との生活を始めるが、文太の仲間である煙鳥や将軍、鹿松などのユニークな猫たちに出会い、一風変わった島の住猫たちやミステリアスな島の文化・風物に徐々に魅力を感じ始める。

やがて、彼を追ってきた大学の後輩・水本真弓もロバス島にたどり着き、一緒に暮らし始める。

自分の名前を聞いて驚く猫たちがいることを知るなどして、昔この島で行なわれた実験に大いなる謎が隠されていることを感じた光介は、それを解明するまで島に残ると決める。

登場キャラクター

中心キャラクター

藤田光介(ふじた・こうすけ)
本作の主人公で人間。男性。
番組制作会社のスタッフとして、下調べのためにロバス島を訪れ、文太と出会う。
乗ってきたモーターボートを押収され、帰れなくなってしまったこともあり、そのまま文太と島で生活することになるが、日本語を話し直立歩行する猫たちや、ゴッホの絵にそっくりな町の風景に興味を持ち、その謎を解明するまでロバス島にとどまることを決意する。島で生活するうちに、かなり日本的な島の猫たちの魅力に次第にひかれていく。
岩手県盛岡市出身。
文太(ぶんた)
ロバス島を訪れた光介に最初に声をかけ、光介と一緒に生活することになる猫。フルネームは、南野風文太(みなのかぜ・ぶんた)。光介とともに、作品におけるキーキャラクター。
肥満体型、普段は閉じている目など、アタゴオルのヒデヨシにそっくりだが、こちらはトラ猫。ヒデヨシと異なり、万引きや食い逃げこそしないが、問題行為及びトラブル等は数知れず。勤勉や努力が大嫌い。プライドや羞恥心というものはまるでない。
光介と初めて会った時に「マタタビドングリアンパン」(シンナー遊びのようなもの)なるものを吸っていたり、ろくな定職にもつかずにぶらぶらと遊びほうけて、住んでいる長屋の家賃を滞納したりするなど、その生活態度は決して良くない。
時々、閉じている目が開き、夢遊状態になる「発作」を起こすが、その時、無意識のうちに奇妙奇天烈だが役に立つ発明品(ビートルズ・ベッドやエッグ・マンなど)を作り(正気に戻った文太は何も覚えていない)、それをねんねこ商会に売って収入を得ることがある。
大食漢で何でもよく食べるが、特に、鯨の油絵の具が大好物。
「ラクして儲ける」が理想で、宝クジで30億もの大金を当てて、高級住宅街に豪邸を買う。毎日放蕩の限りを尽くしていたが、再び貧乏になった後、ふとしたことから温泉を掘り当て「寿司風呂屋」(風呂に入っていると寿司が乗った皿が流れてくる)を開業して成功する。
水本真弓(みずもと・まゆみ)
光介の大学時代の後輩。女性。大学院で細胞学の研究をしていた。作中に登場する人間は、光介と彼女だけ。
ロバス島に行ったまま帰らない光介について、日本では死亡したと断定され、葬儀まで行なわれたが、先輩である光介を深く慕う真弓は、光介が死んだとは信じられず、その行方を追ってモーターボートでひとりロバス島に向かい、上陸した。
光介と同様にボートを押収され、そのままロバス島で生活することとなる。
煙鳥(えんちょう)
文太の友猫。詩猫で、路上で自作の詩集を売って生活している。
物静かな性格で、常に冷静沈着に物事を分析する。
将軍(しょうぐん)
文太たちの行きつけの「レストラン・ド・ラ・シレーヌ」の経営者。いつも軍服姿だが、軍人ではない。
鹿松(しかまつ)
文太の隣りに住む猫で遊び仲間。ボンゴをたたくのが趣味。

ねんねこ商会

ロバス島の経済を一手に支配する巨大コンツェルン。小売業、化学工業から遺跡発掘、レストラン経営などありとあらゆる事業を展開する。最高責任者であるミュウレル会長の権力は絶大。

針王(はりおう)
ねんねこ商会の骨董室長。黒猫。野心家でねんねこ商会きってのエリートだが、傲慢な性格で金儲けのことしか考えない。光介や文太たちに対して高飛車な態度を取り反感を買い、何かと対立するようになる。
光介や文太たちが、ロバス島の謎に関する重大なかぎを握ると知り、それをうまく利用して自らの利益につなげようと目論む。
勉虎(べんとら)
「波頭日報」の記者だったが、針王に誘われ、その手先となって働くようになる。帽子に眼鏡と、おどけた風貌だが性格は狡猾。
針王の指示を受けて、常に光介や文太の動向を探っている。

ロバス大学

ロバス島の最高学府。ねんねこ商会から多額の資金援助を受けている。よって、学内には、針王などねんねこ商会の関係者が多数出入りし、研究室などで幅を利かしている。

星巻博士(ほしまき・はかせ)
ロバス大学の化石学研究室教授。文太のおじ。
文太の父親である留之介(名前だけで登場はせず)と、化石発掘をよく一緒に行なっていた。
盗聴器を使って、ねんねこ商会の内情を密かに探っていた。
文太は、おじである星巻博士の存在をいいことに、勝手にロバス大学に出入りして物を盗んだり学生食堂でただ食いしたりし、挙句には自分は大学の卒業生だと吹聴していた。

その他

迷路医者(めいろいしゃ)
ロバス島唯一の病院の院長。かなりの変わり者。
診察室は、巨大で複雑な迷路(病気でもないのにやたらと年寄りが病院に来るため、ある日、簡単な迷路を作ったのが患者の評判を呼び、複雑なものに発展した。)の中心の塔にあり、患者は迷路をくぐり抜けて、最後の難関である「いそぎんちゃく」(麻酔液が入った針を仕込んだ触手)を突破してたどり着かないと診察を受けることができない。迷路の途中には、診察室にたどり着けずに死んだ者たちの墓がある。
診察室にたどり着くともらえる、病院特製のマタタビ・ウイスキーが欲しいために、文太は光介に腐ったお茶を飲ませて体調を悪くさせて病院に連れて行った。