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ゴーマニズム宣言 9

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新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』(しんゴーマニズムせんげんスペシャル せんそうろん)は、小林よしのりによる日本の漫画作品。通称『新ゴー宣S・戦争論』。1995年9月より、雑誌『SAPIO』(小学館)に連載されている『新・ゴーマニズム宣言』の別冊版という体裁を取っている。

概要

全3巻構成で、いずれも世代を超えて大きな反響・論争を呼んだベストセラー。内容は主に大東亜戦争(太平洋戦争)。戦争とは何か、国家とは何か。作者一流の圧倒的な迫力と説得力もあり、主に保守陣営に多大な支持を受けた反面、上杉聰や宮台真司、宮崎哲弥、吉本隆明、さらにはニューヨークタイムズ紙やル・モンド紙等、日本国外のメディアに至るまで、数多くのいわゆるリベラル陣営からは「歴史の書き換え」として批判された(なお『戦争論2』までは保守陣営全体に評価を受けていたが、親米派は『戦争論2』の第一章に否定的となり、続く『戦争論3』にも否定の構えを取る。そして、リベラルの宮台・宮崎は小林を批判しながらも、「小林に攻撃されている左翼はやられちゃっていい」という態度を取っていたが、『戦争論3』で小林への批判を弱め、攻撃目標を「小林とつくる会」から「つくる会」に絞った)。内容を巡って田原総一朗と論戦したものが別に本(『戦争論争戦』)となって刊行されている。なお、背表紙には大きく『戦争論』と書かれているが、カール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』と内容は全く異なり、関連性はない。しかしクラウゼヴィッツの「戦争は政治の延長線上」という有名なテーゼは引用され、それすらも理解しない護憲左派へのアンチテーゼとしている。

書籍内容

  • 第1巻(1998年7月10日刊行)
大東亜戦争(太平洋戦争)を巡る歴史観を独自の視点で取り上げた。発行した時期にあっては、日本では従軍慰安婦問題や南京大虐殺論争、さらには教科書問題などを巡って、右翼勢力と左翼勢力が激しく争っていた。小林は当時、新しい歴史教科書をつくる会の幹事の一人であり、第1巻は「つくる会」の教科書をアシストする意図も大きかった。ただし、当初の「つくる会」は藤岡信勝の自由主義史観(司馬史観)であり、日清・日露までの戦争を肯定し、太平洋戦争は間違っていたとする思想だったため、渡部昇一などの「右翼」とされる論者は招かれず、西部邁・福田和也に「なぜ大東亜戦争肯定論者を、「つくる会」は呼ばないのか」と批判される状態であったが、小林は「つくる会」が外した論者にも独自に会い、当時の「つくる会」とは異なる「大東亜戦争肯定論」に至り、「つくる会」自体も大東亜戦争肯定論に至る形となった。
この巻にあっては、小林は大東亜戦争までと、その後の日本人の価値観の断絶についてを主題とした。戦前に見られる愛国心と武力行使を戦後の日本人が極端に否定したために、日本人が大東亜戦争について否定的な認識しかできなくなっており、愛国心の下、国や家族を守るために勇敢に戦った兵士たちの精神やアジア解放の理念のもとにあった戦争であったことを忘れてはいけないと強く主張した。
  • 第2巻(2001年10月1日刊行)
2巻は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の影響を色濃く受けている。ここで小林はアルカーイダのテロに対して“その手があったか”と驚いて見せ、反米テロを理解するとしながらも、「国家という枠組みを維持するためにテロは否定する」としている。そして、そのテロが起きた原因となった社会的・民族的な背景から決して目をそらしてはならないとしている。
  • 第3巻(2003年7月25日刊行)
完結篇と称しているように、1巻と2巻の総括的内容であり、戦争における理念と道義性の重要性を新しい知見を加えつつ繰り返し主張し、大東亜戦争の肯定的観点の見直しや、イラク戦争におけるアメリカの軍事行動を「横暴である」と批判を行うと共に、妄信的な親米主義を非難している。この巻では、特別攻撃隊について「特攻は統率の外道」と語った大西瀧治郎中将の自決を描くと共に、富永軍司令官のように「特攻隊を置き去りにして逃亡した卑怯者」も取り上げ、それでも特攻隊員の「精神」はいくら悲劇を暴いても否定できないと主張している。

歴史的な記述に関する批判

本書の内容や記載法に対しては、以下のような批判がある。なおこれはあくまでも批判であり、事実かどうかは関係ないものである。

第1巻

  • 作品冒頭での一タクシー運転手の発言を「若者の平均的考え」として、現在の日本人の総意と受け取られかねないように書いている。
  • 支那事変での日本軍が行った誤爆(パナイ号事件やレディバードの砲撃など)を、相手の不当な行為として描いている。
  • 杉原千畝の行為を、八紘一宇の一環として、まるで日本政府の命令であったと取られかねない書き方をしているが、実際はナチス・ドイツの同盟国だった日本政府はビザの発行を厳しく制限し、杉原は外務省の命令を無視する形でユダヤ人のビザを発行している。
  • 便衣兵(ゲリラ)を不当なものとして、「その場で処刑してもよい」と発言している。実際には相手の立場が正当かどうかにかかわらず、ハーグ陸戦条約第23条により、助命しないことや裁判の不受理の宣言を行うことは禁止されている。
  • 満州は今の中国人の土地ではないとして、日本が取った行動を正当化しているが、当時の日本の土地(領土)でもなく、論理的に矛盾している。
  • 満州国を独立国家だと言っているが、政府中枢は日本から来た官僚で占められるなど、実質は日本の強い影響下にあり、ほとんど独立性は無かった。
  • 漢民族の地であり、華北の地域であるはずの熱河省を満州国に軍事転入させたことには、一切触れていない。
  • 白人からの解放や自国防衛を謳いながら、支那事変には無批判であるとの批判もあるが、小林は「支那事変自体侵略ではない」というスタンスを取っている。仏ヴィシー政権の仏印を植民地から解放しなかったことには一切触れていない。
  • 原爆投下や東京大空襲など、アメリカ合衆国の行為を責めるが、それ以前に行われた日本による重慶爆撃やオーストラリア空襲などに関しては日本側への批判が全くなく、歴史としての中立性がない(重慶とオーストラリアについては全く触れておらず、南京大虐殺については完全否定している。後の作品で重慶については東京大空襲と性質が違うと反論している)。
  • アジア解放をことさら強調し、「反人種差別主義国家日本」を謳うが、ユダヤ人を迫害したナチスと連携していた事実には触れておらず、日本が反人種差別主義国家だったという論法に意識的欠損が見られる。これについても小林は、「第一次世界大戦後の世界の厳しい環境下において、持たざる国が独自に世界戦略を構築していくことは不可能だったので、やむを得ず同盟を組んだに過ぎない」と反論している。
  • 督戦隊について、「他の国の軍隊には見られない」としているが、実際にはソビエト連邦などでも督戦隊は組織されている。
  • 小林は、「通州事件が支那事変の原因になった」と主張しているが、通州事件は確かに日本国民の対中感情を大きく悪化させ、軍部支持につながったが、支那事変の直接の原因にはなっておらず、誤りである。

第2巻

  • 国策映画である東映作の南京広報映画をそのまま真実として描いている。微笑ましい姿で中国人が手を振る姿が描かれているが、それはすべて日本軍部の検閲処理済みのものである。プロパガンダだと彼は盛んに反論する際に言うが、日本側も自国民に不利な情報が流れないように、また中国人を懐柔するために、工作を盛んにしていたのである。
  • 南京大虐殺否定の根拠として、いくつかの書籍を挙げているが、一次資料である松井石根陣中日誌の改竄者・田中正明の本を無批判に根拠にしていたり、国際的に認知されているジョン・ラーベの『南京の真実』を南京政府から献金されていたとするなど、資料への偏見的な見方が多々ある。
  • 蒋介石政権には外交能力がなかったと近衛文麿の不拡大方針変更を支持するが、次のコマで中国国民党と米国が同盟していることを卑劣な手段だと責めている。これは、蒋介石政権に外交能力があると認めているものであり、矛盾している。
  • イラク戦争の時にあれほどこだわった大義が、支那事変では一切語られていない。
  • 「漢民族が満洲服を着ることを禁止されていた」という記述のすぐ下に「満洲服を着て蜂起する義和団のイラスト」がある。
  • 五四運動を卑劣な反日運動としているが、近代化に目覚めた魯迅を始めとする民族的覚醒の運動である。
  • 三・一独立運動を極めて少数の数十人単位の運動としているが、最初はその通りであったが、独立運動自体は全朝鮮規模に拡がった。
  • 日本支配下の朝鮮が事大主義に根差し、日本の方を向くようになったとしているが、独立を求める芽も一部で吹き出していた。
  • ナチス・ドイツに対する批判は全くと言っていいほどないが、ナチス党員のジョン・ラーベを、ひたすら日本に不利な証言をしたとして攻撃対象にする。

第3巻

  • 沖縄での集団自決の証拠資料が無いと即断しているが、そのような非合法な書類は残りにくいと考えられるし、口頭で済ませてしまえば文書として残らない(ただし、BC級戦犯の摘発経緯から解るように、非合法な命令を口頭で済まさず、資料として残って居る場合も多々存在している)。つまり、証拠資料の不在はロジック上、集団自決否定の根拠にはならない。
  • アメリカの占領支配を屈辱と思わない日本人を嘆く、日韓併合の恥を言い続けている韓国・朝鮮人を批判しており、論理的に矛盾している。
  • 白人を狩猟民族と蔑むが、日本よりも遥かに昔から農耕をしていたローマ、ギリシャの末裔でもある。
  • 白人を狩猟民族、有色人種を農耕民族と彼はきっぱりと分類するが、あまりにも短絡的であり、ノルマン人の移動以降、ほとんどのヨーロッパ人が定着し、農耕の文化をすべてのヨーロッパ人が1000年以上持っている。また有色人種の中にも近代まで遊牧性を持ち続けた種族があり(アフリカ黒人の種、モンゴル系、トルコ系など)、一概に農耕民族とも言えない。かつ、遊牧民を蔑むのは人種差別的である。
  • 日露戦争の勝利が有色人種に希望を与えたのも事実であり、同盟国であった英国が落胆したのも事実であるが、まるで日露戦争が最初からアジア解放のための戦争であったかのように描くのは間違いである。
  • 独立を約束されていたフィリピン人が米国と共に日本と戦ったことを、意図的に描き落としている。
  • 中国人を征服王朝の血の混じった劣った民族だと描いているが、それはつまりウイグル系、モンゴル系、女真系などを劣った民族とする人種差別である。有色人種対白人という構図自体が矛盾をきたしている。

シリーズ

  • 『戦争論』 ISBN 4877282432
平和をサービスと思う個人
空気に逆らえぬだけの個のない論調
若者のためにスケールのでかい日本の戦争の説明
東京裁判洗脳されっ子の個人主義
南の島に雪が降る
倫理ある個の芽生え
特攻精神
公から離脱した個は人ではない
承認された暴力、されない暴力
他国の軍と残虐度を比較する
反戦平和のニセ写真を見抜け
「証言」というもの
洗脳されている自覚はない
置き去りにされた祖父
痛快な戦争体験
自己犠牲の戦争体験と正義
クニを護ための物語
軍部にだまされていたのか?
悪魔の戦争
個と公
個を超える勇気と誇り
自由と束縛
  • 『戦争論2』 ISBN 4344001311
  • 『戦争論3』 ISBN 434400356X
負ける戦いにも道義はある
覚悟なき卑怯者の米国「支持」
日米同盟がなくなった日
戦前と戦後を切り離すアメリカへの恐れ
戦争において勝者が敗者を裁くのは野蛮である
日本の豊かさはアメリカが「開放」してくれたおかげではない
「自由」と「民主」のサヨク・ネオコン
「解放軍」の幻想
リヴァイアサンは道徳(国際法)から自由になれない
沖縄戦神話の真実
破壊された公
侵略と虐殺の世界史
解放と逆転の日本史
生命より尊い価値
国益と道徳

小林『戦争論』をめぐる書籍

  • 小林・田原総一朗『戦争論争戦』 ISBN 4344400925
  • 上杉聰『脱ゴーマニズム宣言』ISBN 4885915430
  • 宮台真司『リアル国家論』ISBN 4876523908
  • 吉本隆明『超・戦争論』ISBN 4776200104(上)・ISBN 4776200112(下)
  • 吉本隆明『私の(戦争論)』
  • 浅羽通明『ナショナリズム-名著でたどる日本思想案内』 ISBN 4480061738
  • 姜尚中、他『戦争論・妄想論』ISBN 4876523665
  • 山田朗『歴史修正主義の克服-ゆがめられた<戦争論>を問う』ISBN 4874982719
  • 大日方純夫、山田朗、山科三郎、石山久男『君たちは戦争で死ねるか-小林よしのり「戦争論」批判』 ISBN 4272520563

脚注

関連項目

  • 大東亜戦争(太平洋戦争)
  • 反米 - 親米
  • 反日 - 親日
  • 親日派
  • 右翼 - 左翼
  • 靖国神社
  • 南京大虐殺
  • 従軍慰安婦
  • 自虐史観 - 歴史修正主義 - 自由主義史観
  • 小学館
  • 朝日新聞
  • 産経新聞
  • SAPIO
  • SPA!
  • 日本における検閲
  • 小林よしのり