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ヴィンランド・サガ/幸村誠

共有

著者: 幸村誠
巻数: 11巻

幸村誠の新刊
ヴィンランド・サガの新刊

最新刊『ヴィンランド・サガ 11


出版社: 講談社
シリーズ: アフタヌーンKC


twitterでのコメント (関係ないのに引っかかることもあります...)

KiritoSytry RT @V_SAGA_ANIME: 【TVアニメ「ヴィンランド・サガ」原作者イラスト&コメント到着!】 原作者の幸村誠と申します。ヴィンランドサガ、アニメ化ですよ!最初に月刊アフタヌーン編集長が「アニメになるよ」とボクに言った時は…→https://t.co/PUdlNy8me
animesama RT @AmazonVideo_JP:
ttmsnpk RT @Twin_engine: 【ツインエンジン最新5作品一挙公開!】 藤田和日郎「からくりサーカス」に続き、手塚治虫「どろろ」、野﨑まど「バビロン」、三宅乱丈「ペット」、幸村誠「ヴィンランド・サガ」の4作品のTVアニメ化が決定!https://t.co/nTuNMp6BBS
motorlius_vm RT @mantanotaku: ヴィンランド・サガ:幸村誠の“ヴァイキング”マンガがテレビアニメ化 WIT STUDIO制作 https://t.co/AcSRy8p2YA #ヴィンランド・サガ #ヴィンランドサガ #ヴィンランドサガアニメ化
usachu_now ヴィンランド・サガはアシェラッドが……なるまではコミックス買ってた。クヌートが実在の王てとこがホントたまんないよね…。

ヴィンランド・サガ』(VINLAND SAGA) は、幸村誠による日本の漫画。

概要

11世紀初頭の北ヨーロッパ及びその周辺を舞台に繰り広げられる、当時世界を席巻していたヴァイキングたちの生き様を描いた時代漫画である。

2005年4月より『週刊少年マガジン』(講談社)で連載が始まったが、週刊連載に幸村の執筆が追いつかず、2005年10月に同誌での連載を終了、同年12月より『月刊アフタヌーン』(講談社)にて月刊ペースの連載を再開し、現在に至る。なお、単行本は「マガジン版」の1・2巻が出されたあと、判型・収録話数を改めて「アフタヌーン版」として新しく1巻から再版されている。

2008年の時点で累計120万部を突破した単行本第6巻帯。2009年に平成21年度(第13回)文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞、2012年に平成24年度(第36回)講談社漫画賞「一般部門」を受賞している。

西本英雄によるスピンオフ作品として『元祖ユルヴァちゃん』がある。

あらすじ・構成

作中では明確な章分けはされていないが、構成をもとに以下のように分けて各編のあらすじを記すただし、奴隷編に関しては単行本第9巻帯に「奴隷編開幕」、第10巻帯に「奴隷編〈前章〉クライマックス」と記されている。

プロローグ(第1話 - 第2話)
11世紀初めの西ヨーロッパ、フランク王国領。この時代、ヨーロッパの海という海、川という川に出没し、恐るべき速度で襲撃と略奪を繰り返す北の蛮族ヴァイキングは、人々の恐怖の的だった。その日も、とあるヴァイキングの集団がフランク領主同士の小競り合いに乗じて包囲されていた都市を瞬く間に落とし、蓄えられていた財貨を残らず奪い去っていった。この略奪はアシェラッドという男が指揮する兵団の仕業で、その中に2本の短剣を武器にする凄腕の少年がいた。その名はトルフィン。今回の襲撃で敵指揮官の首を取る戦功を挙げた彼は、見返りとしてアシェラッドに彼との決闘を求める。
幼少編(第2話 - 第16話)
物語は10年前、1002年のアイスランドにさかのぼる。アイスランドはノルウェー王の統治を嫌う人々がスカンディナヴィア半島から移り住んできた土地で、少年トルフィンは父トールズと母ヘルガ、姉ユルヴァとともに貧しいながらも平和に暮らしていた。父の友人、船乗りのレイフから様々な冒険譚を聞き、はるかな「ヴィンランド」に憧れるトルフィン。そこに北海最強の戦闘集団、ヨーム戦士団のフローキが現れる。
トールズは実は昔、「戦鬼(トロル)」の名で恐れられたヨーム戦士団の大隊長を務めていたが、ある日突然、首領シグヴァルディの娘のヘルガとともに姿を消していたのである。フローキはトールズの出奔を不問に付すかわりにイングランドとの戦に参加せよ、という首領の命を伝える。島民の身柄を押さえられたトールズはそれに応じ、数名の若者と友人レイフとともに本土との中継地点であるフェロー諸島を目指すことになった。これを知った少年トルフィンは、戦いへのあこがれから父に黙って勝手についてきてしまう。
しかしフェロー諸島で一行を待っていたのは、フローキから金と引き換えにトールズの処刑を命じられたアシェラッド兵団だった。トールズは「本当の戦士」たらんとする、自らの不殺の誓いを守り素手で奮戦、首領のアシェラッドまでも決闘の末に打ち破るが、トルフィンを人質に取られてしまう。トールズは決闘の勝利の証として一行の無事をアシェラッドに誓わせ、殺された。アシェラッドは誓い通りにレイフ一行を見逃すが、目の前で父を殺されたトルフィンは復讐に燃え、アシェラッドの兵団に取りついた。
ブリテン編(第17話 - 第54話)
9世紀から断続的に続いていたデーン・ヴァイキングによるイングランド襲撃は、11世紀に至ってデンマーク王のイングランド征服事業に発展し、大王スヴェンの時代に佳境を迎えていた。アシェラッド兵団はヨーム戦士団等と共にこの遠征に参加し、1013年、要地ロンドンの攻略に着手する。当時ロンドンを守っていたのはトルケルという名の巨漢のデーン人だった。アシェラッドは彼に対しトルフィンを差し向けるが、トルフィンは善戦するもトルケルとの圧倒的な体格差を前に敗北する。
短期のロンドン陥落は困難と見たデンマーク王は、4000人の軍勢を残して本軍を移動させ、幼さの残る王子クヌートを包囲将軍に命じる。しかしその後トルケルが攻勢に転じて包囲部隊を敗走させ、王子と護衛のラグナル、神父ヴィリバルドを捕虜にしてしまう。この局面を見たアシェラッドは単独でのクヌート王子救出を決意、マールバラ近郊でデーン軍部隊と交戦中のトルケル軍に火計を用いて奇襲し、王子たちを奪取する。アシェラッドにはクヌート王子を担ぎあげ、自らの野望の為に旗印とする腹積もりがあった。
アシェラッド兵団はトルケル軍から逃れるため、ウェールズを北上してデーンロー帰還を目指す。しかし、過酷な風雪のため南寄りのマーシアに進路修正を余儀なくされ、宿営に用いた寒村での失策からイングランド軍に発見される。その状況下、アシェラッドはクヌートを王者として自立させるため、ラグナルを暗殺する。保護者であったラグナルを失い、クヌートは混乱する。
トルケル軍の接近を知った兵団は動揺し、大半がトルケル軍に寝返るべき反乱を起こす。アシェラッドは副官ビョルンとトルフィンにクヌート護衛を任せて橇で逃がし、裏切った戦士たちと交戦しているところにトルケル軍が到着する。トルケルは反乱軍の申し出(降伏)を拒絶し、彼らを皆殺しにする。
クヌートはラグナルの霊との会話を通じて、自分の進むべき道を見出す。一方、アシェラッドの危機を感じとったトルフィンは馬で戦場に戻り、トルケルと再び対戦する。アシェラッドの協力を得てトルケルを追い詰めるが、そこに以前とは打って変わり、王者の風格を備えたクヌートが現れて決闘を中断させ、さらにトルケル軍を帰順させる。アシェラッドとトルケルという強力な部下を得たクヌートは、父王との対決を決意する。デーン軍の本拠地ゲインズバラに帰還し、1014年、スヴェン王に謁見する。
王との謁見を成功させ、派閥の確立を得たクヌートだったが、王はアシェラッドのある弱みを突き、クヌートとの二者択一を迫った。追い詰められたアシェラッドは王を暗殺、その意を汲んだクヌートはアシェラッドを処刑すると王の代理たるを宣言、イングランドの実質的な覇権を握る。しかし、復讐のみに生きてきたトルフィンはその目的を失い錯乱、廃人同様となってしまう。
奴隷編(第55話 - 第99話)
デンマーク軍を追放され、同時に生きる意味を失ったトルフィンは、奴隷身分に落ち、ケティルという男に買われる。彼はデンマークのユトランド半島に広大な土地を所有しており、トルフィンはそこで森林の開墾を命じられる。1015年、同じく奴隷として買われた元農民の青年エイナルと出会う。用心棒や奉公人から嫌がらせを受けながらも、元奴隷の奉公人パテールやケティルの父親スヴェルケルの助けを受け、2人はひたむきに開墾作業を続ける。エイナルから農業の手ほどきを受け、生命を育てて糧を得る喜びを知ったトルフィンは、それまでの血に染まった生き方を悔いるようになる。不殺を貫いて凄絶な死を遂げた父トールズの姿、そしてアシェラッドの遺した「本当の戦士になれ」という言葉を噛み締め、トルフィンはこれからは二度と暴力を振るわないと誓う。
エイナルは同じ農場で働く奴隷アルネイズに思いを寄せていた。しかしアルネイズは農場主ケティルの愛人にされていて、いずれ自分を買い取って出て行くことのできるエイナルやトルフィンとは違い、ケティルに飼い殺しにされ続けるしかない身の上だった。
そうした自らを取り巻く人々の身の上を思い、自らの生き方を省みるうち、やがてトルフィンの胸に、戦争も奴隷もない理想の国が、幼いころにレイフから聞いた「ヴィンランド」の物語と一体となって描かれ始める。
一方、クヌートは1016年にイングランド王を暗殺、イングランドの単独の王となり、さらに1018年、デンマークを治める兄ハラルドをもその手にかけ、デンマーク・イングランド両国の王となっていた。
イングランドではデーン人駐留軍の維持費が問題となっていた。イングランド国民の反感を買わぬよう、税率を上げずに維持費を捻出するため、クヌートはデンマーク有数の生産量を誇るケティルの農場を接収しようとする。
接収の名分を立てるため、クヌートは農場主の次男オルマルを利用する。恥辱を受け、さらに兄トールギルに煽られたオルマルは戦闘の口火を切ってしまう。
そのころ農場ではアルネイズの夫ガルザルが自分の所有者一家を皆殺しにして脱走、同じく奴隷となった妻を取り返すために農場に現れ、それを阻もうとした客人たちが次々に返り討ちにあっていた。アルネイズに同情していたトルフィンとエイナルは、スヴェルケルの助けを借りて2人を逃がそうとするが、客人たちの頭目「蛇」に阻まれてしまう。
一方クヌートは自ら100人の手勢を引き連れ、農場の接収に現れた。ケティルは富を奪われることを恐れ、また心の拠り所としていたアルネイズに裏切られた事を知って怒りに我を忘れ、アルネイズを打ち据え、人手を寄せ集めてクヌート軍に抵抗するが敵うはずもなく、農場は惨劇の場と化した。混乱の中、トルフィンを探し続けていたレイフから救いの手が差し伸べられ、トルフィン達は重症のアルネイズを連れて脱出するが、アルネイズにはもはや生きる気力がなく、トルフィン達に感謝しながら息を引き取る。
トルフィンは農場の惨状を見かねて舞い戻り、特使としてクヌートへの謁見を試みる。クヌートは当初無視しようとするが、トルフィンは100回の殴打を耐え抜くことでかつてクヌートの近衛を務めたほどの強さを証立て、謁見にこぎつける。数年の時を経て邂逅した2人は、それぞれが異なる方法で理想を目指していることを知る。トルフィンの「ヴィンランド」への想いを聞いたクヌートは接収を取り止め、兵を引く。
繋がれたアジサシ編(第100話 - 第109話)
ヴィンランドでの国作りを目指すトルフィンは、出資者を求めて隣村の村長ハーフダンを訪ねるが、早々に若い娘の密航騒ぎに巻き込まれる。
娘はレイフの年若い義妹グズリーズで、村では彼女とハーフダンの息子、シグルドとの結婚式の準備が進められている最中だった。
グズリーズは騒ぎの中、足を滑らせて頭を打ち、気を失ってしまうが、その様子を折悪しくシグルドが目撃、トルフィン達は人攫いと誤解され、対決する事になってしまう。非暴力を信条とするトルフィンは、体捌きでシグルドの鎖をかわしながら説得を試みるが、頭に血の登ったシグルドは受け入れない。そこへハーフダンが現れ、事態を収拾する。
さっそく交渉に入るトルフィンだったが、計画のみで担保を持たないため融資を断られるも、結婚の祝いへの返礼という名目でイッカクの角作中では角とされているが、生物学上正しくは牙であるを譲渡される。イッカクの角はアイスランドでは工芸品の材料として使われるありふれた物であるが、遠くギリシアまで持っていけば万能薬ユニコーンの角として、同じ重さの黄金と交換できるとレイフに聞かされ、意気を上げる一行。それはトルフィンのヴィンランドへの熱意を試すためのハーフダンからの挑戦状であった。
一方、周囲の状況と世間の常識を受け入れ、シグルドとの祝言を済ませたグズリーズだったが、その初夜、未知の世界への渇望から、無意識のうちにシグルドの太ももを刺し、逃げ出してしまう。
折しも出港しようとしていたトルフィン達は、港に隠れていたグズリーズを発見する。事情を知ったトルフィンは、船乗りに足る体力と決意を示した彼女を、乗組員に加える。
屈辱にまみれたシグルドは、一族の名誉を取り戻すため、グズリーズを取り戻すまでは故郷に戻らぬと宣言、トルフィン一行を追う。
北海横断編(第110話 - )
トルフィン一行はレイフの友人、アルングリムが住むシェットランド諸島を訪れるが、村は焼き打ちに会い、瀕死の母親とその赤ん坊カルリ、二人を守った手負いの犬一匹がようやく生き残っていた。母親はカルリをトルフィンに託すと息を引き取り、トルフィンはカルリの引き取り先を探すが、一族同士の争いに巻き込まれる事を恐れ、拒まれる。トルフィンはカルリと犬を船に乗せ、里親探しを始める。
スカンジナビア半島に立ち寄った一行は、冬眠しそこなった熊に襲われるが、狩人の女性、ヒルドに助けられる。しかし、礼を告げたトルフィンの名乗りを聞いたヒルドは様子を変え、トルフィンを問い詰める。
実はヒルドはベルゲンの南の地、「凪の入り江」の首領フラヴンケルの娘だったが、8年前、アシェラッド率いる一団に村を襲われ、フラヴンケルは殺害され、自身は狩人の老人(師匠)に助けられた、という過去があった。そして、フラヴンケルを殺したその下手人こそが少年時代のトルフィンだったのだ。
ヒルドは目の前の男が仇に巡り合えた幸運を神に感謝すると、罪を認めたトルフィンに弩を向け、楽しい食事の場は一瞬にして一触即発の修羅場に陥った。ヒルドはトルフィンに一騎討ちを申し出ると、雪山に戦場を移した。後を追うトルフィンをヒルドは狩人としての技術を駆使し、追い詰めていく。
トルフィンは弩の連射力の低さを逆手に取り、矢を避けた直後に突撃してヒルドを捕縛する作戦に出るが、彼女が持つ弩はその弱点を克服した連射可能な改良型であった。両足を撃ち抜かれ動けなくなったトルフィンは、8年前彼女に皮肉を込めて放った台詞をそっくりそのまま返される。ヒルドは一行の説得も、トルフィンの必死の嘆願も聞く耳を持たず、遂に悲願の復讐を果たす引き金を引くが、矢は上空に放たれただけであった。
トルフィンを救ったのは、誰あろうトルフィンに殺されたヒルドの父親、フラヴンケルの幻影であった。トルフィンを庇う父と師匠の幻影に「赦せというのか」と問いかけつつも、ヒルドは、トルフィンの「ヴィンランドという平和な国を作る」という目的を果たせるか否かを「監視」すると告げ、行動を共にする事になる。
その頃、ヨーム戦士団では先代首領が急逝して空席となった首領の座を争って内部分裂が起こっていた。フローキは次期首領を孫のバルドルに継がせようと、戦いに飢えているトルケル軍を招いて離反したヴァグンの大隊と対峙していた。一方、イェリングに上陸したトルフィン一行はそこで商いを行っていたが、そこでヴァグンの大隊に捕まり奴隷の身に落とされたシグルドをグズリーズが発見し、迂闊にトルフィンの名前を叫んだことで彼を知るトルケルの部下たちに取り囲まれる。トルフィンは止む無くフローキとトルケルの陣営に招かれると、トルケルがフローキにトルフィンはトールズの息子であることを明かしてしまう。当然、トルフィンの存在が次期首領の座を脅かすと判断したフローキは、トルフィンが去った後すぐに追手を掛けて抹殺に乗り出す。トルフィンは囮となるべくヒルドとともにレイフたちと分かれて追手を誘い込むが、追手たちが無関係な漁村の村人たちに襲っていたため、彼らと対峙してヒルドとともに制圧すると、追手の中に潜伏していたヴァグンの手下たちによってヴァグン陣営に招かれる。
ヴァグンの陣営に招かれると、ヴァグンからトールズを暗殺させた黒幕こそがフローキであることを教えられて愕然とする。トルフィンは真の仇であるフローキに激しい怒りを抱くが、すぐに自身に仇を討つ資格は無いと悟り、ともに戦うことを促すヴァグンを固辞する。そんな中、トルケルの艦隊がヴァグン陣営に迫り、ヴァグンはすぐさま迎撃の準備に追われていた。トルフィンはその隙に捕らえられていた村娘たちを連れて陣営から逃げ出すが、間者として潜んでいたガルムが追って来ていることを察し、ヒルドに村娘たちを任せて囮になって逃げ回るが、ガルムに追いつかれてやむなく戦って重傷を負う。だが、一向に本気で戦わないトルフィンを見てガルムは追跡を中断、本気で戦わせるために先回りしてレイフたちを捕らえて人質にする。その頃、ガルムによってヴァグンが殺されたことを知ったトルケルは、獲物を横取りされたことに激怒してヴァグン大隊を取り込んでフローキの陣営に迫っていた。

舞台と諸勢力

アイスランド
トルフィンの故郷。ノルウェー王ハラルドの支配を嫌った人々が、自由を求めて移住してきた土地。過酷な環境のため農耕による自活が難しく、漁業と牧畜中心の生活を続けている。島民同士の諍いは民会(シング)で調停する。その地理的条件から、戦乱の続くヨーロッパに比べて相対的に平和が保たれている。
フェロー諸島
アイスランドとノルウェーの中間に位置する島々。アイスランド、グリーンランドと本土の人と物をつなぐ中継地点、補給地点として機能している。
イングランド王国
アングロ・サクソン人の統一王国。9世紀にウェセックス王アルフレッドがそれまでの諸王国を併合してのちは南部のウェセックス地方が王国の中核をなす。首都はウィンチェスター。北部のデーンローを支配するデーン人とは微妙な小康状態を保ってきたが、11世紀初頭のイングランド軍によるデーン人虐殺英語ではSt. Brice's Day massacre(聖ブライスの日の虐殺)として知られるが、どの程度の規模の虐殺だったのかは歴史家の中でも評価が分かれている。スヴェン王の妹 (Gunhilde) 及びに彼女の夫 (Pallig) も虐殺の犠牲者だったとされるが、資料が少ないためこの「妹」が実在したか疑問視する向きもある。を機に関係が悪化、その後デーン軍相手に敗北を重ねる。1018年、賢人会議でアングロ・サクソンの王に代わりデンマーク王が推戴され、実質的にデンマーク王国に併合される史実ではイングランド全土が併合されたわけではない。北海帝国参照。
デーンロー
ブリテン島北部のデーン人が実効支配している土地の総称。中心地はヨーク。1013年の時点では北部のノーサンブリア、東部のイースト・アングリア、中部のゲインズバラを中心とする五城市地方などを支配下に収めていた。
デーン軍
デンマーク王スヴェン率いるイングランド征服軍。1013年の時点では総勢約20,000人。一時トルケル率いる500人の部隊が離反するも、クヌートの帰還とともに再び合流する。王の死後クヌートが軍を引き継ぎ、イングランド征服を完了させる。人数は不明だがイングランド征服後も駐屯軍としてイングランドに留まっており、その駐留費用はクヌートを悩ませている。
ウェールズ小王国群
イングランド西部に隣接する諸王国。元来はブリテン島全体を支配する民族だったが、5世紀以降、統一国家を樹立する前にアングロ・サクソン人の侵攻を受け西部の山岳地方に追いやられた。現在は多数の王国に分かれており、個々の王国の力はイングランド王国やデーンローに及ばないが、イングランド人とデーン人の争いには中立の立場を守っている。辺境に追いやられたものの、ローマ属州時代の伝統を守っている。モルガンクーグ王国など一部の国にはアシェラッドの素性を知る者がおり、彼と個人的な協力関係を持っている。
デンマーク王国
クヌートの故郷。デーン人の王都イェリング、アシェラッド兵団の帰宿港の一つである領主ゴルムの村、ヨーム戦士団の本拠地ヨムスボルグ、大農場主ケティルの所有地などがある。
ヨーム戦士団
ヨムスボルグに基地を持つ、北海最強を自負するエリート戦士団。首領はシグヴァルディ。かつてトルフィンの父トールズが在籍していた。
アシェラッド兵団
アシェラッド率いる傭兵団。兵力100、軍船3艘。スヴェン王のイングランド征服に参加するが、途中でトルケルの軍勢と対戦し数名を残して全滅する。

登場人物

時代漫画の性質上、実在の人物が多数登場するが、あくまで史実をもとにしたフィクションとして大幅なアレンジが加えられている。

トルフィン
物語の主人公。本名、トルフィン・トルザルソン当時のノルド人は姓(家名)の代わりに父称を使用した。「-ソン (son)」は「-の息子」(女性の場合「-ドーテル(-dotterもしくは-datter)」で「-の娘」)という意味を表すに過ぎず、現代の日本人やイギリス人の姓とは意味合いが異なる。「トルザル(Þórðar)」は「トールズ(Þórðr)」の属格形。なお、アイスランドでは今でもこの方式を採用している(アイスランド語を参照)。父称は血統そのものを表すために、重要な場面では「トールズの子トルフィン」と称する。また、アシェラッドは「父は私に名を与えなかった」と答えたため、スヴェン王に「奴隷の子か」と返され、密かに激昂している。。アイスランド出身。後に「侠気のトルフィン(トルフィン・カルルセヴニ)」とあだ名される。
ヴァイキング集団の首領・アシェラッドに父親を殺され、その復讐のために仇であるアシェラッド兵団の中で少年時代を過ごす。金髪で茶色の瞳、長めの髪はいつもボサボサで、服装にも頓着しない。2本の短剣(1本は父親の形見である)を武器とする。戦場の中で育ったので、極めて無愛想で無口だったが、クヌートの身辺保護を任されるようになってからは、少しずつだが口数が増えていた。兵団にいた頃は、戦いで得られるアシェラッドとの決闘の権利と、幼年期にレイフから聞いたヴィンランドだけが心の拠り所であり、関心事であった「アシェラッドを倒す事だけを生きがいとする」事に関してはアシェラッドにも「その後どうするつもりだ?」と指摘されたことがあるが、当時はアシェラッドを倒す事しか考えていなかったため、その質問を一蹴していた。
戦士としての能力は高く、トルケルを一度追い詰めたこともあるほどだが、短気な性格が災いして劣勢に陥ることも多い。特にアシェラッドにはその癖や思考パターンを完全に読まれているため、全く歯が立たなかった。
アシェラッドが殺された際、ショックから一時正気を失い、クヌートに斬りかかったため奴隷身分に落とされ、ケティル農場に引き取られる。復讐という目的を見失い、無気力にただ生きていたが、エイナルと出会い、農業に取り組む生活の中で、殺し合い以外何も知らなかった自分の半生を後悔し、これからどう生きればいいのかを模索するようになる。暴力を忌避するようになるが、奉公人に開墾した農地を荒らされた一件では、怒りにまかせて奉公人を殴り倒してしまい、その後見た悪夢の中でアシェラッドと再会する。アシェラッドとの会話の中で、自身が今まで殺し合いの連鎖の中で生きてきたこと、未だそこから抜け切れていないことを悟り、以降は暴力との完全な決別を誓い、そしてたくさんの人を殺した後悔を背負いながら「本当の戦士」になることを目指していく。そのために自分が果たすべき使命として、遥か海の向こうのヴィンランドを目指し、そこに世の中から虐げられた人々を集めて「戦争も奴隷もない平和な国」を作ることを決意する。
アシェラッド
職業的ヴァイキング集団、アシェラッド兵団の首領。デンマーク出身。
飄々とした人物で、手腕は冷酷非情。常に先を読み、人の才覚や性格を見抜き操る術にも長ける。トルフィンには仇として命を狙われながらも、彼を手下として使いこなす。短髪であご髭をたくわえ、常にローマ風の一枚プレートの胴鎧(ロリカ)を身につけている。また、正式の場ではトーガのようなものを身に纏う。なお、トルフィンからは「ハゲ」と呼ばれる。
デーン人豪族の父ウォラフと、ウェールズの元王女の母リディアの間に生まれた混血児。名はアシェラッド・ウォラフソン(ウォラフの子アシェラッド)で通しているが、アシェラッドは「灰まみれ」という意味のあだ名であるノルウェーなどの伝承には(灰の子)という名前の妖精が登場する。伝承では他の者が失敗するところを知恵と胆力で成功する知恵者、という役回りで描かれる事が多い。ただしその際障害を取り除くために選ぶ手段は必ずしもフェアなものではない(トロルとの大食い競争に勝つため持っていた皮袋を切り開いて自分の胃袋を切り開いたように見せかけ、トロルにも同じ事をするように薦める、など)。また、大勢の兄弟の中の末っ子として登場することが多い。これは父が奴隷に産ませた彼に名前を与えなかったためである。庶子として馬小屋で育てられるが、11歳の時に父に才覚を見出され他の息子と共に館に住むことを許される。その後、2年で家族内での地位を固め、隙を見て父を暗殺し母の復讐と財産獲得を果たす。この時の自身への嫌疑をそらすために父と仲が悪かった兄に濡れ衣を着せるやり方は、後のスヴェン王暗殺計画でも踏襲している。14歳の時に末期の母を連れて故郷ウェールズへ赴き、このときウェールズの人脈を得る。
母親はアーサー王のモデルとされるケルトの将軍アルトリウスの子孫で、アシェラッドはその最後の末裔。彼のアイデンティティはデーン人ではなく母方のウェールズにあり、デーン人の兵団を率いながらも暴力のままに略奪を繰り返すヴァイキングを嫌っており、ブリタニアを滅ぼしたアングロ・サクソン人にも非情であるただしビョルンには死の間際に真の友人であることを認めた。。彼のウェールズへの帰属意識は誓いの口上にも現れており、通常の誓いはノルド人の神オーディンに誓う一方、トルフィンからの決闘を受け入れる際やトールズとの約束など、真に守る誓いではアルトリウスの名に誓う。
幼少時代に母から「アヴァロンから伝説の君主アルトリウス公が復活し、国を救う」という伝説を聞かされて育ったことから、アルトリウスのような偉大な王が現れるのを待ち望んでいた。兵団壊滅後は覚醒したクヌートに君主の資質を見出して忠誠を誓い、彼をデンマーク王にするために補佐していく。デンマーク王スヴェンに故郷ウェールズとクヌートの命を天秤に掛けるよう迫られた際、そのどちらをも救える選択肢として自らの命を捧げる。その際、デンマーク王に対し自らをブリタニア王と名乗り、母に与えられた真の名として「ルキウス・アルトリウス・カストゥス」を称するただし、ルキウス・アルトリウス・カストゥスは2世紀にブリタニアに進駐していたローマ軍人の名前であり、5世紀に活躍したとされるアルトリウスと同一視する説は現時点では仮説の域を出ていない。。致命傷を負った後、駆け寄ったトルフィンに「本当の戦士になれ」と言い残す。
後に奴隷となったトルフィンの夢の中に現れ、殺し合いの連鎖ではない、「本当の戦い」を戦うことをトルフィンに諭す他にもトルフィンが「蛇」と戦う事になった時に現れるなど、要所要所で現れてトルフィンに助言を与えている。
クヌート
デンマーク王スヴェンの次男。
女性と見間違るほどの美形。幼少時から宮廷での政争と父からの抑圧にさらされていたため、非常に臆病な性格で、お付きのラグナル以外に口を開くことがなかったが、同い年であるトルフィンの挑発的な態度に対して激昂し、初めてラグナル以外に口を開いた。料理なども趣味とする非常に優しげな性格だが、このような性格になった要因のひとつはキリスト教信仰にあるとスヴェン王に評されており、神を「我らの父」、「天の父」と呼び、実父と重ね合わせて絶対的なまでの愛情を抱いていた。
父に伴われてイングランド遠征に赴くも、ロンドン包囲戦で攻勢に出たトルケル軍に大敗、ラグナル、ヴィリバルドとともにトルケル軍の捕虜になるが、アシェラッドの計略で救出される。
ラグナルとの死別、ヴィリバルド修道士との問答によって、愛の本質と人間の不完全さを理解し、王となって神に代わって自らの手で地上に理想郷を築くべく、実父スヴェン王の打倒を誓う。その後戦場へと舞い戻り、豹変したその威風によりアシェラッドとトルケルの双方を従える。その瞳はトルケルがトールズの目に見出したものと同じ「不思議な輝き」を宿すようになる。
王位継承の意思を固めた後は性格が一変。軍規に厳しく、軍規を犯した兵には容赦しない。また暴走気味なトルケルやスヴェン王の重臣だったフローキ、それに両者を天秤にかけていたグンナルを見事に使いこなすなど指導者として著しく成長している。
イングランド王位についた後は長い髪を短く切りそろえている。最近ではデンマーク軍内でもその実力を認められている、とケティル農場に戻ってきたトールギルが話している。
王国の財源確保のため、オルマルの失態を口実にケティル農場の接収を図るが、トルフィンの説得に応じ兵を引く。
レイフ(エイリークの子、レイフ)
大西洋を旅する陽気なオジサン。グリーンランド出身のキリスト教徒。幼いトルフィンにヴィンランドの旅の話を聴かせる。
義理堅い人物で、トールズの恩に報いるためにも行方不明のトルフィンを11年間探し続けていた。1014年にヨークにてトルフィンと再会、一緒に帰ろうと説得するも、復讐に燃えるトルフィンに拒絶されてしまう。それでも彼をアイスランドに連れて帰る事を諦めておらず、奴隷になったトルフィンを身受けしようと各地の奴隷市場を探して回った結果、ケティルと出会い、ケティルの農場にてトルフィンとの再会を果たす。その後は彼と彼の兄弟となったエイナルを伴ってアイスランドへと戻った。
実在の人物で、ヨーロッパ人としてはじめて北米に到達した人物として知られる。

幼少編

トールズ
トルフィンの父。本名、トールズ・スノーレソン。トルフィンにとって理想の人物であり、強い影響を与える。人徳にあふれた人柄。
アイスランドに逃れる以前は、ヨーム戦士団の4人の大隊長の一人で、「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれた冷酷な戦士だった。だが長女ユルヴァの誕生や妻ヘルガによって戦場の非情と不毛に倦み、「本当の戦士」とは何かを見出し、戦士としての自分を放棄する事を決意する。987年、ノルウェー沖の海戦で溺死を装ってヘルガとユルヴァと共に脱走。このとき大隊長のトルケルに発見されるが、問答の末彼をねじ伏せる。その後、妻子を連れてデンマークを逃れ、新たに産まれた長男トルフィンや村人と共に平和な生活を送っていた。
しかし彼の生存はヨームの首領に知られており、デンマークのイングランド侵攻のため、村を人質とした出征要請に応じ、再び戦場へ向かう決意をする。だが戦士団小隊長フローキはトールズに私怨を抱いており、密かにアシェラッド兵団にトールズの暗殺を依頼していた。フェロー諸島でアシェラッド兵団の罠に落ちたトールズは素手で兵団を圧倒するが、その後アシェラッドとの決闘の末、トルフィンらの命と引換えに自らの命を差し出す。その高潔な生き方と凄絶な死は、トルフィンを復讐に生きさせる元となった一方で、アシェラッドをして彼に理想の君主を見出させるものだった。また、彼の不殺の戦いは、真の愛を追求する修道士ヴィリバルドに示唆を与え、トルケルは出奔時の彼の目に「不思議な輝き」を見出した。
ヘルガ
トルフィンの母。ヨーム戦士団の首領シグヴァルディの娘で、トルケルの姪。戦いをやめる決意をしたトールズに同意し、赤子のユルヴァを連れて父の元を離れた。穏やかな性格だが、ユルヴァの誕生に際し、娘だったことに失望したトールズが名付けを怠ろうとした時には激昂して名付けを迫り、慌てたトールズが咄嗟に自分の母の名前を付けたというエピソードがあり、一度だけ妻が怒った体験として後にトールズが語っている。
ヨークでトルフィンに再会したレイフの話では、1014年の時点で体調が悪化している。
1018年の12月にトルフィンと再会。ユルヴァとは違い、一目でトルフィンと分かり、温かく迎えた。娘夫婦や孫たちに囲まれて暮らしている。
ユルヴァ
トルフィンの姉。母親似の美貌は村の青年達の心を惹いているが、女性は通常参加しないクジラ漁に乗りこみ、一番槍を取って見せるなど、男顔負けの体力を持ち、性格も非常に勝ち気である。また金銭に執着しない父親に対して現実的な価値観を持っている。
トールズの死後、男手を失った家庭を必死に支えようと懸命に働く毎日を送る。それは父の死と消息不明の弟のことを生活の中で意識しないようにするためであったが、「もういい」と告げた母の前で初めて号泣した。
その後、アーレと結婚、1018年時点では4人の子供(男3人女1人)の母となっている。
1018年12月にトルフィンと再会。感激に涙を流すかと思いきや、最初は偽物だと思い込んで相手にせず、本物と判明しても連絡の一つもいれずに家を空け続けた弟(かつ跡取りの長男)を怒りのアッパーで迎えるなど、豪快で男勝りな性格は変わっていない。
西本英雄によるスピンオフ作品『元祖ユルヴァちゃん』の主人公。
ハーフダン
トルフィンたちの村の隣にある村の主。冷酷なまでに規律を重んじ、秩序は人を鎖につなぐことによって生まれるという信条をもっている。鉄鎖を武器や拷問具として扱うことに長け、法を軽んじる態度には部下にさえ容赦ない制裁を加える。
繋がれたアジサシ編にも登場し、歳を経てはいるがその影響力はますます強くなっている。
貧しい自作農に融資を行い、返済できないと土地を没収して小作化させ、富を増やしている。しかしその結果、負担が軽くなり、以前より生活が楽になった小作農も多い。
ヴィンランドとの交易(ヴィンランドの木材をグリーンランドやアイスランドに持ち込んで販売する)ための中継基地となるレイフの農場を身内につけるため、息子のシグルドとグズリーズを結婚させようとする。
アーレ
トルフィン一家の隣人で、ユルヴァに惚れているが幼少編の時点では相手にされていない。村の若者の中でも強い血気を持ち、トールズが出征するとき戦で一旗揚げようと同行した。だがその意気も本物の戦場で通じるものではなく、トールズの死に激昂してアシェラッドに斬りかかるも、一発で殴り倒されてしまう。
後にユルヴァと結婚し、1018年現在で4人の子供を持つ父となった。
フローキ
ヨーム戦士団の小隊長。強面で厳格な軍人肌だが、実際は嫉妬深く謀略家で、我欲でアシェラッドにトールズを暗殺させる。
その後もトールズ以外の有力者を次々と謀殺してヨーム戦士団を手中に収めている。デンマーク王位継承問題では長兄ハロルド派で、クヌート帰還後は王子を葬る為に奸計を張り巡らせてアシェラッドと対立する。スヴェン王の死後、王に代わってデーン軍の主導権を得ようとしたがクヌートによりあっさり奪われてしまう。
クヌートが王位についてからは、重臣としてクヌートを支えているが、正確には完全にクヌートの家臣となったわけではない。フローキの所属はあくまでヨーム戦士団であり、クヌートとは同盟者のような関係にある。
北海横断編では、孫のバルドルを次期ヨーム戦士団の首領にしようと画策していたが、トルフィンがトールズの子であることが判明すると、次期首領を脅かす存在として危険視し、抹殺に掛かる。
ビョルン
アシェラッド兵団の一員。アシェラッドの信任篤い片腕で、十数年間ともに戦ってきた傭兵団一の古参であるが、アシェラッドの過去に関しては何も知らない。殺しを好むがゆえに戦う、戦士としての矜持(プライド)が高い男。有事の際は「狂戦士のキノコ」と呼ばれる茸を服用して理性から解き放たれた狂戦士になる。
兵団の反乱の際にもアシェラッドへの忠義を保ち、クヌート王子を保護して逃走。追っ手を退けるために狂戦士化し大半を殺害するも、隙を突いたアトリに脇腹を刺され、重傷を負う。自らの死を悟った彼は尊敬するアシェラッドの手で死ぬことを選び、彼が底意ではデーン人を嫌悪していたことを知っており、彼との友情を確認してから果てた。

ブリテン編

トルケル
「のっぽのトルケル」と呼ばれる、戦の大好きなデーン人の武将歴史書『アングロサクソン年代記』に彼のモデルと思われる「」という人物が記されている。。ヨーム戦士団首領でトルフィンの母ヘルガの父シグヴァルディの弟であり、トルフィンの大叔父にあたる人物。非常に巨大な体躯を誇り、ヨーム戦士団のみならずデンマーク軍の中でもトップクラスの鬼将。齢50を超えながらもその巨躯から繰り出される怪力は健在であり、常人を遥かに超える強さを持つ。
「戦士」というもののあり方への矜持が強く、戦乙女(ヴァルキリー)にヴァルハラへ導かれることを願っており、良き戦いを求めるためには敵に寝返ることも厭わない。逆に、命惜しさに寝返って来た者は容赦なく殺戮する。一方で裏表のない気さくな性格であり、配下の戦士たちや一度は裏切ったデンマーク王国の諸将からも極めて強い人気を得ている。カエルが苦手。
かつてはヨーム戦士団の4人の大隊長の一人で、同じく大隊長であり自分より強い唯一の戦士であるトールズに強い友情と敬意を抱いていた。戦死したと思われていたトールズと再会し歓喜するも、その脱走計画を知り激昂し、処罰のために戦いを挑んだが、敗れて脱走を許す。後々「本当の戦士」とは何かを知ったトールズに付いて行かなかったことを後悔し続けることになる。
手応えのある戦いを求めてデーン軍からイングランド側に寝返りロンドンの守将となっていた。ロンドンの戦いでクヌート王子を破った後、一度は捕虜としたクヌートの身柄を奪い返すべくアシェラッド兵団を追跡。アシェラッドを裏切って投降してきた戦士たちをほとんど皆殺しにして兵団を壊滅させた。
その後、アシェラッドの身柄を巡ってトルフィンと決闘を行い、トルフィンを圧倒し追い詰める。だが、アシェラッドの助言を受けたトルフィンによって、弱点であるアゴへの一撃を受けて倒れ、自ら敗北を認める。この決闘の際、左目をトルフィンに抉られて失明している。その後現れたクヌートの目にトールズと似た不思議な輝きを見出し、クヌートについていくことを決め、デーン軍に復帰。クヌート王子の有力な将となる。
その後、平定した領地の統治を任されるが、小競り合いすら起きないほどの平和のせいで、よその民家の夫婦喧嘩に乱入しようとするほど戦いに飢えるようになる。フローキの要請でヴァグン討伐でヨーム戦士団の陣営に訪れていた時にトルフィンと再会し、フローキにトルフィンはトールズの息子であることを明かした。その後、ヴァグン討伐に赴くが、ヴァグンが潜入していたヨーム戦士団のガルムに殺されたことを知り、獲物を横取りされたことに激怒した彼は、ヴァグン大隊を取り込んでフローキ打倒を目指す。
アスゲート
トルケル軍の副将。戦いにしか興味のないトルケルの代わりにトルケル軍の指示を出すことも多い人物。
トルフィンとの決闘に横槍を入れてトルケルの怒りを買うが、命を賭してトルケルを諫止してみせた。それを見たアシェラッドからその態度と胆力を大いに評価されている。また、クヌート陣営の主立った作戦会議にはトルケルやアシェラッドと並んで参加している。
トルグリム、アトリ
アシェラッド兵団の幹部の兄弟。トルグリムは恰幅の良い粗暴な性格の兄で、アトリはヴァイキングらしくないやや小心な弟。
トルケル軍の脅威を前にしてアシェラッドを見限り、兵団を扇動して反乱を起こす。アトリは逃げたクヌート達を追い、トルグリムは足止めしているアシェラッドと戦う。トルグリムはトルケル軍が到着すると、すぐに降伏を申し出るも、トルケルはそれを許さずアシェラッド以外皆殺しにされる。自身はトルケルと対峙するも彼の恐ろしい威圧の前に精神が破綻し茫然自失となり、アトリが戻った時には彼の事が分からないほど精神が幼児退行していた。その後、アトリはアシェラッドから路銀を得てトルグリムを連れて故郷に戻る。
北海横断編で再びアトリが登場し、家族を持っていたが食っていくために盗みを働いていた。ヴァグンの陣営で盗みを働こうとして捕まり、尋問された時にフローキの依頼でトールズを殺したことを明かした。
ラグナル
クヌートの忠臣であり教育係。キリスト教徒でトンガリ頭が特徴。権力闘争が繰り返されるイェリングの王宮で病弱なクヌートを守ってきた。クヌートがトルフィンと口論するまでは、彼の唯一の話し相手であった。
クヌートの「王としての成長」を促すために、アシェラッドの策略で殺害される。その後、クヌートの夢枕に立ち「王としての目覚め」を告げて消えていった。
ヴィリバルド
クヌート王子の教師を務める、キリスト教の修道士。
ボサボサに伸びた髪と髭のために年配に見えるが、実は23歳の青年。身だしなみを整えると歳相応の顔になる。極度のアルコール依存症で、酒宴の席では酒神エギルの生まれ変わりと言われるほどの酒豪ぶりを披露していた。
みすぼらしい風体と異様な言動のため周囲から軽んじられるが、自らの信仰の中で熱烈に「愛」とは何かを常に追求している。そのあまりに真摯な追求ゆえにその結論は晦渋なものとなり、アシェラッドの手下たちやトルケル軍の戦士達にはほとんど理解されなかった。アシェラッド兵団の古参からトールズの「本当の戦士に剣は要らない」という言葉を聞き、そこにヒントを得る。その後、ラグナルを失ったクヌートに「愛」の本質は何たるかを教え、彼を王に導く。
スヴェン
デンマーク王。クヌートの父。イングランド遠征を主導し、デーン人支配地域(デーンロー)に滞在してヨークを拠点として整備する。かつて王国を憂いて父から王位を簒奪したが、自身も王位のもたらす権力の保持と拡大の欲求に取り憑かれる。
王位継承に関し、2人の息子による家臣同士の内乱とそれに伴う国力弱体化を危惧し、長兄ハラルドより貧弱な次男クヌートをイングランドで戦死させようと企てる。しかし、意に反してクヌートが苦難を乗り越えたため、彼に辺境のコーンウォールを与えて懐柔を試みるも、クヌートの腹心アシェラッドに逆にやり込められてしまう。しかし、アシェラッドのウェールズへの執着にいち早く気づき、ヨークの宴席で、彼にウェールズかクヌートかの選択を迫るが、自らの命と引き換えに両方を救う選択をしたアシェラッドに首を斬られ死亡。
死後、生首の姿でクヌートの前に度々現れ、自分と同じ道を歩むクヌートを皮肉る。
グンナル
ラグナルの弟。風貌は瓜二つだが、兄より細身。ラグナルの命令を受け、クヌートの亡命先を確保していたが、クヌートはスヴェン王と対峙する道を選んだため亡命を断る。
兄ラグナルとともにクヌート側として働いていたが、兄の死を聞いた後、スヴェン王側の間諜を務める。その行動はアシェラッドに見抜かれていたが、あえて泳がされていた。
クヌートがイングランド王位についた後は、フローキとともに重臣としてクヌートを支えている。

奴隷編

ケティル
トルフィンを奴隷として買ったデーン人の大地主。
自ら率先して農場で働く勤勉な人物。エイナルやトルフィンに自由身分を買い取るための方策を与えたり、自らの農場に盗みに入った幼い兄妹の身の上話に同情して涙ぐんでしまうなど、温和な性格の持ち主。その優しすぎる気質はデーン人としては欠点であると、本人も自覚している。一方、昔はその勇猛な戦いぶりから「鉄拳のケティル」の異名を取った戦士だ、という逸話が若い戦士の間で知られているが、実は「鉄拳のケティル」とは同名の別人であり、周囲の勘違いを否定せずに利用しているだけである。この事実を知っているのは本物の「鉄拳のケティル」との面識がある「蛇」、秘密を打ち明けたアルネイズのみである。
一方で、強さこそを第一とするデーン人社会では、体面を保つために望まぬ行動をとらねばならず、しばしば苦悩している。デンマーク王のハラルドに寄進を行い、後ろ盾を得ることで農場の安全を保っているが、その農場の経営方針について、父スヴェルケルと諍いが絶えない。
トルフィンとエイナルに対しては「働き者」と評価しており、彼らが自由身分を買い戻した後も農場で働かないかと誘う。
ハラルド亡き後はクヌートに取り入ろうとするが、オルマルの失態が原因で農場が危機に陥ってしまい、失意のあまり憔悴して農場に戻った際、アルネイズが逃亡を図ったことを聞いて激昂し、アルネイズを棒で打ち据えてしまう。怒りで我を忘れたうえに、クヌート軍が100人の少数と聞いて舐めてかかるが、圧倒的な個の戦力差の前に手勢は壊滅、奉公人や客人にも見捨てられ、自らも戦闘で重傷を負った。
戦後、傷は回復したものの、アルネイズや富・名声を失ったショックから立ち直れず、隠居状態になった。
エイナル
ケティル農場に新しくやってきた奴隷。ノルド系イングランド人で、ノルド語とイングランド語に堪能。元は農夫であるため、農事にくわしい。その出自から村に略奪を働く戦士達を憎んでいる。農場に連れて来られるまで何度も脱走を試みており、その度に罰を受けていたがあまりへこたれていなかった。
明るい性格で、あまり返事をしないトルフィンに対しても積極的に話しかける。また、ケティル農場の跡取り息子に殺されそうになった時、自分の身代りを名乗り出たトルフィンを、身を挺して逃がそうとし、捕まった後もトルフィンの身を案じて暴れた。トルフィンが元戦士であったことを知った際は一瞬憎悪を抱いたが、罪の意識で毎晩うなされるトルフィンを見て考えを改め、友人として接するようになる。その後、トルフィンとは奴隷生活での様々な苦難や、アルネイズとガルザルの逃亡事件、クヌートとの停戦交渉などの修羅場を共に乗り越え、互いを兄弟と呼び合う存在となった。
根っからの農民らしく、農業に対しては非常に真摯かつ全力で取り組む。トルフィンと2人で開拓した農地を奉公人達に荒らされた時は、静かに激怒していた。
好意を持ったアルネイズに対し、これ以上不幸になってほしくないと考え、アルネイズと夫ガルザルの逃亡をトルフィンとともに助けるが、蛇達によって阻止される。この一件で、世の中から戦争と奴隷をなくしたいというトルフィンの理想に強く同調するようになる。
ケティルによる暴行が元でアルネイズが死んだことで、復讐心に呑まれそうになるが、トルフィンの思いを込めた説得を受け、アルネイズの墓の前で、戦争も奴隷もない新天地を共に目指すことを誓った。
オルマル
ケティルの息子。次期当主だが、自分をケティルの息子としてでしか扱ってくれない周りに嫌気がさしている末子相続のためケティルの息子の中では一番若い。他の兄弟はみな家を出てしまっている。
本人は剣で名を上げたがっていたが、実際はその腕も度胸もなく、クヌートにケティル農場接収の口実作りとして利用されてしまう単行本9巻巻末の「ケティル牧場人物相関図」には「バカ」と書かれている。
その後は後悔と自責の念から、おぼろげながらも当主代理としての立場を自覚し、自らの至らなさ(黙って笑われる勇気が無かった)を認めながら降伏(ケティル一族の国外追放)を決める。しかしその直後、トルフィンの体を張った和平交渉を目の当たりにし、感謝しながら一行を見送った。戦後は、半ば隠居したケティルに代わって戦死者への多額の賠償を支払う。以後は事実上の当主となり、自ら率先して畑仕事に励んでいる。
トールギル
ケティルの長男。クヌートの従士で、大柄で腕っ節が強く、戦いを好む典型的なヴァイキング気質の人物。
クヌートの策略をいち早く察知しながら、あえてオルマルを煽って戦闘の口実を作らせた。オルマルを侮辱した戦士数人を皆殺し、自分達を捕らえに来た兵達もあっさり血祭りにあげ、自ら戦争を招き入れた。
戦士としては有能であり、上司のウルフからは「良い部下だった」と言われ、ケティル農場侵攻の際には、クヌートを狙って海から単身切り込み、その大胆さをクヌートにも評価されている。また、農場に戦士を集める上でも一計を案じており、蛇からは「意外と戦上手」であると評された。戦後は行方不明となっている。
パテール
ケティル農場の奉公人。ケティル農場の経理を担当している。奴隷あがりのため、奉公人からはうとまれ、目の仇にされている。公平な人柄で、奴隷身分のエイナルやトルフィンの面倒を見る数少ない人物。しかし公平であるがゆえに、貧しさから盗みを働いた子供に対しても厳格な態度をとるそのような事をしたら今後労働力として使い物にならなくなる、として盗みに入ったスチュルの両手を切り落とす事には反対したものの、子供とは言え罰は必要だと主張し、無罪放免にしたいと思っていたケティルを困らせている。
戦争でトルフィンやエイナルに安否を気遣われたが、確認できる限りでは左腕を負傷しただけで済んでいる。
アルネイズ
ケティルの女奴隷。ケティルから大事にされており、それゆえ解放される事を諦めかけている。ケティルの正妻からは目の敵にされている。心優しい性格と美貌を持ち合わせ、エイナルに一目惚れされる。
奴隷になる前はスウェーデンの集落で夫ガルザル、息子ヒャルティとともに暮らしていた。しかし遠方の泥炭地を巡る争いで、男達が村を空けた隙に敵の襲撃を受け村は壊滅、アルネイズは子供と引き離されて奴隷として売られ、ケティルに買われた。奴隷でありながらケティルの側仕えとして厚遇され、彼の子を宿す。
その後、他の農場主のもとから逃亡してきたガルザルと再会し、スヴェルケルやトルフィンらの助けを受け、二人で逃避行を試みるが、ガルザルは死亡。自身も脱走犯として捕らえられ、それを知って激昂したケティルに棒で殴打され、瀕死の重傷を負ってしまう。
クヌートの軍勢によって農場が戦場になった隙をつき、レイフの手引きでトルフィンやエイナルと共に農場から連れ出される。夢の中でガルザルや子供と再会、一時的に意識を取り戻すが、もはや生きる気力を失っており、トルフィンやエイナルの懸命な呼びかけも及ばず、二人に感謝しながら息を引き取った。
スヴェルケル
ケティルの父で、先代の当主。気難しい人物だが、エイナルとトルフィンを見て彼の仕事を手伝う代わりに、二人に馬と重量犂を貸し与える。ケティルの農場経営方針を疑問に思っており、あまり折り合いが良くない。キリスト教徒だが文字が読めないので「蛇」に聖書を読んでもらっている。トルフィン達とともにアルネイズと夫の逃避行を助ける。
奉公人たち
自前の耕作地を持たず、ケティル農場で雇われている。自分らより身分の低いトルフィンら奴隷をいじめることでプライドを保っている。
「客人」
ケティルが雇っている農場の用心棒。「蛇」が言うには、「ヘマをやらかしたせいで、本名を名乗れない」者たち。故に構成員は「蛇」自身を含め皆「キツネ」、「アナグマ」など、動物の名前を通り名にしている。
「蛇」
「客人」たちのリーダー。
奴隷に対し悪ノリした客人たちを制裁したり、トルフィンら奴隷にも気さくに接するなど公平な人物。部下の命を大事にする一方、スヴェルケルとウマが合うようで、よく入り浸っている。「客人」の中でも腕が立ち、トールギルに剣を教えたのは彼のようである。教養があり、ベッドに寝たきりになったスヴェルケルに聖書を読み聞かせている。洞察力にも長け、トルフィンの戦士としての性質をいち早く見抜いていた。
逃亡奴隷ガルザルがアルネイズを連れ出した際、他の「客人」の命が損なわれたことに激怒し、アルネイズらを助けようとするトルフィンに対峙する。
本物の「鉄拳のケティル」に昔世話になったことがあり、地主のケティルがその名声を見栄で利用していることを知る、ただ一人の人物である。クヌートによるケティル農場侵攻の際には、ケティルに雇ってもらった恩を返す為に、勝ち目がない戦だと理解した上で、クヌート軍に対抗する為にケティルの元に寄せ集められた奉公人達の指揮を執