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修羅の門/川原正敏

共有

著者: 川原正敏
巻数: 15巻

川原正敏の新刊
修羅の門の新刊

最新刊『修羅の門 第15巻


陸奥圓明流外伝 修羅の刻』(むつえんめいりゅうがいでん しゅらのとき)は、川原正敏による日本の格闘・歴史漫画作品、及びこれを原作とする小説・テレビアニメ。

概要

1989年より『月刊少年マガジン』(講談社)に不定期に掲載されている、『修羅の門』の外伝作品。基本的には川原が普段同誌で連載している「修羅の門」・「海皇紀」の節目にこれらを一時休載し、短期集中連載される。単行本は月刊少年マガジンコミックスレーベルより十五巻までと「十三巻裏」の計16冊が発売されている(2009年9月現在)。

『修羅の門』の主人公・陸奥九十九の先祖である代々の「陸奥圓明流」の使い手達が史上に名高い猛者と闘い、影に隠れながらも日本の歴史を動かして来た様を描く連作シリーズ。時代を動かしてきた中心人物の生き様と陸奥の名を背負った主人公との友情や愛情、そしてその時代に生きる人々の想いを通し、「人と人との関わり」にまで踏み込んで、その「刻」を浮き彫りにしている。1つ1つのストーリは最長でも単行本4冊、多くは1・2冊で完結しており原則としてそれぞれ独立した話となっている。

1995年には作者自身の手によって「宮本武蔵編」が小説化されている。2003年には「宮本武蔵編」・「寛永御前試合編」・「風雲幕末編」の愛蔵版が発売、翌年から同3編はテレビアニメ化されテレビ東京系で放送された。

構成

2009年9月現在で8編が発表されている。単行本には「陸奥八雲の章 宮本武蔵編」の様に、その時代の陸奥の名前からなる章名と、実質的なタイトルである編名が目次に記されている。なお、単行本での記述は上記の通り「章→編」の順だが、複数の章名を持つ編があるため、本稿では便宜的に「編→章」の形で記述する。

※「(陸奥)」の表記は、継承者ではないため薄字で表記されているもの。

  1. 宮本武蔵編
    • 陸奥八雲の章
  2. 風雲幕末編
    • 陸奥出海の章
  3. アメリカ西部編
    • (陸奥)雷の章
  4. 寛永御前試合編
    • (陸奥)圓の章
    • 陸奥天斗の章
  5. 源義経編
    • 陸奥鬼一の章
  6. 織田信長編
    • 陸奥辰巳の章
    • 虎彦と狛彦の章
  7. 西郷四郎編
    • 陸奥天兵の章
  8. 雷電爲右衞門編
    • 陸奥左近の章

宮本武蔵編

『月刊少年マガジン』1989年7月号及び1990年1月号・2月号に、本編である「修羅の門」と同時に掲載された。なお、同時連載されたのはこの「宮本武蔵編」のみであり、以降の部は「修羅の門」もしくは「海皇紀」を休載しての掲載となっている。単行本の壱巻及び、愛蔵版「宮本武蔵編」に収録。

江戸時代初期を舞台に、27代目陸奥八雲と宮本武蔵の対決を描く。

あらすじ(宮本武蔵編)

陸奥一族の陸奥八雲(やくも)は腹が空き山茶屋で麦飯を食べていると、突然その土地の若様・吉祥丸が何者かに追われ林の中から現れる。吉祥丸は八雲の目の前で刺客により斬られそうになるが、宮本武蔵が現れて助けられる。武蔵は吉祥丸の家老から用心棒になるよう頼まれるがこれを断り、代わりに麦飯の椀に止まった蝿を無造作に箸でつまんだ八雲を推挙した。文無しであった八雲は山茶屋の勘定5文を払ってくれる事を条件に用心棒になるが吉祥丸は信用しなかった。吉祥丸は男の格好をしていたが、実は藩主である父を殺して家を乗っ取った叔父に復讐するため、家老に男として育てられた姫なのであった。家老は刺客に狙われないため女に戻るように薦めるが吉祥丸は頑として拒否する。そして、吉祥丸が外に出歩いていると柳生兵馬が率いる新たな刺客に囲まれ……。

登場人物(宮本武蔵編)

武芸者

陸奥 八雲(むつ やくも、27代)
159?年生まれ。「織田信長編」の主人公の1人である狛彦の子(母は雑賀孫一の娘の蛍?)。飄々としており、掴みどころの無い、まさに雲の如き人物。無手にも関わらず、並みの軍勢なら楽に一掃してしまうほどの実力を持つ。陸奥圓明流は無手で闘う為、剣等の武器は使わないのだが、武蔵との死闘では、防御の為とは言え、陸奥の歴史上初めて利用してしまう。それ故、武蔵との死闘は「敗北」ではないが「勝利」でもない、「引き分け」というのが八雲による評。
宮本 武蔵(みやもと むさし)
『修羅の刻』において、本来は無手の武術である陸奥圓明流の使い手が刀を抜かされ唯一引き分けた相手(武蔵は負けたと思っている)。生涯無敗の剣客とされ、鬼神の如き気を発する(ただし気配を感じさせずに忍びの背後を易々と獲るなど、同シリーズに登場する柳生十兵衛とは似て非なる点がある)。二天一流の開祖だが、あまりに強すぎる為二刀を抜いて構えたことが無いといわれる。他を圧倒する「気」に加え、一寸の見切り(「後の先」と称される)、二刀を自在に使いこなすなど作中最強とも思える人物。また、眼力も確かなものを持ち、初対面で八雲の実力を見抜いている。八雲と引き分けてからは武芸者として一線を退き、芸術などに時間を費やすようになった。養子に宮本伊織がいる。自身の流派を円明流と称していた時期があり、寛永御前試合編ではそれについて陸奥圓明流との関連を匂わせる台詞が出てくる。
九鬼 数馬(くき かずま)
九鬼兄弟長男。
九鬼無双流の使い手。八雲に斬馬剣をかわされた上に殴られ死亡。
九鬼 源次郎(くき げんじろう)
九鬼兄弟次男。
九鬼無双流の使い手で、新三郎からは剣の腕はあるいは日本一かと評されるほどの実力者。ただしこれに弟の新三郎は「性格さえまともなら家督を継げた」と付け加えており、本人も自身の素行の悪さを認めていること、亡き父から嫌われていたことなどから何らかの人格的問題があるものと思われる。作中を通して道場の権威争いを他人事のように傍観している点をみると、本人もその類の政治的な物事に全く興味が無い模様。
しかし武芸者としては芯が通っているようで、正々堂々と八雲との一対一の立ち合いを挑んだ。無手の八雲に剣の間合いを悟られないよう居合いを使って一撃必殺で仕留めようとするが、抜き手の拳を殴られて体勢が崩れたところを、八雲の間髪入れぬ一撃を受けて散った。尚、亡き父が遺した「陸奥とは絶対に戦うな」という遺言を最期まで気に留めていた。
小説版で、強姦に失敗した新三郎に、抜刀してその恐怖で詩織に貞操を諦めさせる場面があり、漫画版ではなかった凶悪な一面が描かれた。
九鬼 新三郎(くき しんざぶろう)
九鬼兄弟三男。
九鬼無双流の使い手。「戦いは兵法」とする知略家で、鉄砲まで用意して、周到に準備を重ねたうえ多勢をもって八雲と戦う。しかしこの「兵法」のために詩織を人質に取る卑怯さ(これには源次郎も軽蔑するような態度をとっている)に八雲は激怒し、陸奥圓明流の技の前に策略は一切通用することは無かった。最期は八雲に投げられたうえ、首に膝を叩き付けられ死亡。
小説版において、彼の心情がより克明に記され、長男の数馬を八雲に倒させることで、冷や飯食らいの三男の境遇から抜け出し、九鬼無双流の家督を継いで当主になろうと考えていた。そのために人質に取った詩織を強姦しようとした(詩織の抵抗と源次郎の乱入があり、プライドの高い性格から興醒めして事には至っていない)。
柳生 兵馬(やぎゅう ひょうま)
暗殺、抹殺の手練である実力者。柳生流を脅かす存在を陰で仕留める役目を持つ裏柳生という流派の人物で、詩織への刺客として現れるが用心棒の八雲が放った陸奥圓明流の技・「雷」を受け散る。
宍戸 梅軒(ししど ばいけん)
宍戸八重垣流の開祖。
鎖鎌で武蔵の大刀を絡め取るが、大刀を捨てた武蔵に脇差で斬られ散る。

その他(宮本武蔵編)

詩織(しおり)
父を亡き者にした叔父に復讐するため男装し吉祥丸と名乗っていた。用心棒として雇った八雲を最初は嫌っていたが徐々に惹かれていく。宮本武蔵と八雲の決闘の数少ない目撃者。伊織との面識がある。最終的に八雲と結ばれたかは不明。
伊織(いおり)
武蔵を慕い、弟子入りのために彼の跡を追い旅をする少年。
沢庵宗彭(たくあん そうほう)
諸国を巡っている僧。不思議な男と感じた八雲の居場所を武蔵に教える。
雪姫(ゆきひめ)
八雲に惚れ、詩織の恋のライバルとなる。九鬼一門を兵法指南役に雇っている安芸50万石福島家の姫。

風雲幕末編

『月刊少年マガジン』1990年8月号・9月号(「修羅の門」第二部と第三部の間)および1991年8月号・9月号(同第三部途中)に「修羅の門」を休載して掲載。単行本の弐・参巻、及び愛蔵版「風雲幕末編」壱・弐巻に収録。

幕末を舞台に36代目出海と坂本龍馬・新撰組との交流及び闘いを描く。

あらすじ(風雲幕末編)

時は幕末、黒船が来航してから日本は乱れに乱れていた。そんな中、江戸は土佐藩邸にて行われた御前試合で坂本龍馬の剣の才能を目の当たりにした陸奥一族の陸奥出海(いずみ)。龍馬はずば抜けて強いが優し過ぎて全力を出していない、と感じた出海は本気の龍馬と戦いたいと思い、彼の通う千葉道場に居候を決め込む。そして彼らは友達となった。ある日、龍馬と出海は試衛館へ立ち寄る。そこには、剣の天才沖田総司がいた。試衛館は小さな道場であった為、土佐藩邸での試合に参加できなかった。そのことに対し出海が挑発とも取れる無神経な発言をし、沖田の反感を買う。沖田は出海に試合を挑むが、天才ながらも若すぎた沖田は出海との差をまざまざと見せ付けられる。結局この試合は人斬り鬼・土方歳三により止められ、出海はもう少し月日が流れたら再び試合をしようと沖田と約束をする。土方は出海と龍馬、2人のどちらかが新撰組の邪魔をするようなことがあればその時は斬ると言い放つ。試衛館を去った後、出海と沖田の対決を見てついに「本気」になった龍馬は、闘いたいと出海に告げる。果たして出海と龍馬、勝利するのはどちらなのか。そして沖田や土方との対決の約束はどうなるのか……。

登場人物(風雲幕末編)

主要人物

陸奥 出海(むつ いずみ 36代)
1839?年生まれ。土佐藩での御前試合での坂本龍馬を最強の剣豪と見なし闘いを挑み、紙一重で勝利する。その後龍馬を影で支えていく。龍馬の死後、ボーっと海を見ていたが沖田との試合の約束を思い出し沖田と戦う。「西郷四郎編」にも登場しており、陸奥としては唯一の再登場を実現している。その底の見えない性格はまさに「海の如し」とは龍馬による評。戦う様は「修羅の如し」とは土方による評。
坂本 龍馬(さかもと りょうま)
北辰一刀流塾頭。
北辰一刀流免許皆伝の腕前を持つ。しかし、実際はそれ以上の実力を持つが、その優しさゆえに、自分も知らぬような本当の力を抑えている。力で物事を決めるのを嫌い、血を流さずに倒幕しようとする。その後、大政奉還を実現し時代を変えるが、それ故に新撰組などの敵を作ってしまう。龍馬は刀を抜けたにもかかわらずに最後まで人を殺すことを拒み、伊東甲子太郎に暗殺される。陸奥出海に負けた後、剣の時代は去ったと悟り自ら剣術を封印。その後、護身用として拳銃を携帯していたが、脅しに使う程度で人を撃つ気は無かった。その豪胆な性格、剣技を「海の如し」とは出海による評。

新撰組

近藤 勇(こんどう いさみ)
新撰組総長。
土方、沖田達が尊敬する人物。戊辰戦争の時は土方よりいち早く投降する。
土方 歳三(ひじかた としぞう)
新撰組副長。
通称「冷徹な人斬り鬼」。剣技、用兵は相当な手練であり、戊辰戦争の最後の攻撃では、敵陣に単騎で乗り込みかけたほどである。近藤を慕っており沖田と仲が良く、又、他の新撰組隊士からも慕われている。戊辰戦争では投降した近藤に代わり土方が新撰組の指揮を執る。試衛館で出海と龍馬に出会った時に新撰組の前に立ちはだかれば殺すと言い、戊辰戦争で官軍に単騎で乗り込む時に出海が現れ勝負を挑む。天然理心流の腕前に加え、引くことを知らず鬼の如く斬りかかる実戦的な戦法で、出海と死闘を繰り広げた後、思い残すことはこの世に無い、と官軍に突撃し多数の銃弾を受けて散る。
沖田 総司(おきた そうし)
新撰組一番隊組長。
優しい性格で、かなりの美少年。しかし、勝負をする時は人が変わったように勝負に執着する。天然理心流の使い手で、剣の天才と出海に言わしめるほどの人物。龍馬を殺したのが新撰組であると思った出海が屯所に乗り込んだ時、それは誤りであると伝え、去っていく出海に勝負を申し込むが肺を病んでいることを見破られ、治った時に勝負しようと約束される。戊辰戦争の時は病(労咳)が悪化し自宅療養していたが、出海が来たときには「治った」と言い勝負を挑んだ。まるで同時に3本の刀が襲って来るようにしか見えない、三段突きという驚異の技を繰り出すが、途中病で体がうまく動かなくなってしまう。出海の励ましによって最後の渾身の力で三段突きを出す。その突きは出海をかすめるが、逆に蹴りを食らい、さらに病で吐血。自分は幸せだったと土方に伝えるよう頼み絶命。尚、ルビは正しい読みの「そうじ」ではなく、「そうし」の方が採用されている。
伊東 甲子太郎(いとう かしたろう)
元新撰組参謀。
本作中での龍馬暗殺の張本人。時勢が変わり新撰組を抜けて、武力で幕府を倒すのに邪魔な龍馬の首を手土産に半次郎に取り入る。出海が外で半次郎と戦っている時に、人を斬ることを拒み、最期まで刀を抜かなかった龍馬を殺す。土方にも強いと評価されるほどの腕だったが、龍馬殺害が伊東一派の犯行だと知った出海の逆鱗に触れ、瞬時に倒され死亡。蛇足だが本作では名前の読みが「きねたろう」となっているが正しくは「かしたろう」。
斉藤 一(さいとう はじめ)
新撰組三番隊組長。
戊辰戦争では最後まで土方と共に戦う。

その他(風雲幕末編)

西郷 隆盛(さいごう たかもり)
中村半次郎らを従える、薩摩藩の人間。
中村 半次郎(なかむら はんじろう)
通称「人斬り半次郎」。示現流の使い手で暗殺や剣はかなりの手練。薩摩藩の人間で西郷隆盛の為なら死ぬ事も厭わず、また、邪魔をする者は消すという人物。龍馬を殺しに行こうとした為、出海に殺されかけるが一命を取り留める。
千葉 定吉(ちば さだきち)
坂本龍馬の剣の師。出海の力量を見抜いた剣を理解する人物。本作では名前の読みが「じょうきち」となっている。
千葉 さな子(ちば さなこ)
千葉道場の娘。龍馬に思いを寄せる。
蘭(らん)
沖田の看護をしていた、異国の血が混じった女性。自分の髪や目などが日本人と違うことからコンプレックスを抱いている。しかし、沖田に綺麗だと初めて (?) 言われたことにより沖田に好意を抱く。そんな中、沖田との約束を果たすべく現れた出海が病人である沖田と戦い、沖田は途中で病で死んでしまう。蘭は怒り出海を殺す為、出海が土方の元へ行くのについて行く。だが仇である出海にも綺麗だと言われ……。
おりょう
坂本龍馬に好意を抱いていた女性。後に龍馬の妻となる。

アメリカ西部編

『月刊少年マガジン』1992年10月号に、第三部途中であった「修羅の門」を休載して掲載。単行本四巻に収録。なお、この単行本四巻のみ、他の巻と異なりカバー裏が西部開拓時代風の装丁となっていて裏返して使用することが可能である。

西部開拓時代のアメリカ合衆国を舞台に第二部の主人公・出海の弟である雷(あずま)とインディアン達の交流を描く。

他の部同様に「アメリカ西部編」のみで完結したストーリーとはなっているが、本編は『修羅の門』のストーリーとも深い関わりを持ち、また唯一日本以外が舞台となっている等、『修羅の刻』の中においてやや特殊な部となっている。

あらすじ(アメリカ西部編)

1人の男が日本からアメリカに渡り砂漠で行き倒れていた。男は死を覚悟するが、そこにネズ・パース族の酋長マッイイツォが通りかかり、彼から「干し肉」を分け与えられる。男はマッイイツォに雷(あずま)と名乗り、「死ぬことをやめ」てネズ・パース族の村へ向かうことにする。雷はそこで、領土と家族を奪った白人への復讐心に燃える少女、ニルチッイと出会う。ニルチッイは弱虫の雷を嫌い、彼が止めるのも聞かずに復讐のため1人で仇の白人である「死の五人組」の住む村へ向かう。そして雷もニルチッイを追った。雷とは何者なのか。 ニルチッイは復讐を果たせるのか。

登場人物(アメリカ西部編)

(陸奥) 雷(むつ あずま)
「風雲幕末編」の出海の弟。小船で寝ていた所、知らない内に船が沖へ流され遭難。偶然通りがかったアメリカの船舶に救助され、そのまま単身アメリカへと渡る。なお、雷は陸奥の名を継いでいないため単行本目次では「陸奥雷の章」の「陸奥」の字が薄く印刷されている。極端なのんき者で臆病なところがあるが、非常に心優しく義理堅い性格の人物。兄の出海も「変わり者」と評している通り、風変わりな言動をネズ・パース族から「ドロッイイ(イタチ、弱虫の意)」とからかわれながらも周囲に溶け込んでいく。最後はネズ・パースを逃がす為、銃武装した騎兵隊1000名以上を相手に単身で突撃し、これを撃退するものの、全身に無数の弾丸を浴びた為に直後に倒れ、ジルコォーとニルチッイにある「約束」を遺して死亡した。
その優しすぎる性格から人を殴ることを嫌がり、物語の最後で騎兵隊に突撃する時まで一切打撃技を使わなかった。雹(弾丸などを素手で飛ばす技)を得意としており、その早撃ちの速度はワイアット・アープ自身が「生涯最速」と称した早撃ちをも凌ぐ。
ジルコォー・マッイイツォ
ネズ・パース族の長。名前は「優しい狼」の意。物語冒頭で飢え死にしかけた雷に干し肉を与えた命の恩人。このことが後の『修羅の門』のストーリーに関連付けられており、ネズ・パース族を代表する男として同じ名前を受け継いだ人物が登場する。
ニルチッイ
「死の五人組」に家族と領土を奪われ、復讐を誓う少女。名は「風」の意。弓矢を用いた射撃の名手。しかしその一方で、接近し自分の力で相手を絶命させることが慣わしとされる復讐「クー」を果たすことに強いこだわりを持つ。最初は雷のことを弱虫と嫌っていたが、雷に助けられてからはその考え方を改める。その後100年以上を生き、雷の話を後世のネズ・パース族に伝えた。
ワイアット・アープ
雷が潜入した町を担当する保安官。愛用のバントラインスペシャルを用いた早撃ちでその名を轟かせ、西部最強のガンマンと称されているただし、彼が実際にバントラインスペシャルを使用していたかどうかについては疑問説がある。。雷の強さを見抜き、トンプスン兄弟の死を予告した。
リーガン
町の権力者。「死の五人組」を金で雇い私腹を肥やしている。ニルチッイに「クー」を果たされ死亡。
ベン・トンプスン
ワイアット・アープと西部で一・二を争うガンマン。「死の五人組」の1人。ビル・トンプスンの兄。ニルチッイを傷つけた為、雷の怒りに触れ瞬殺される。
ビル・トンプスン
「死の五人組」の1人。ベン・トンプスンの弟だが、射撃の腕前はさほどではない。兄共々、雷に殺される。
ジェイク
「死の五人組」の1人。銃を抜くのが速く、それをいいことにギャンブルではイカサマがばれても開き直り、相手を脅して金を巻き上げる。ニルチッイに弓で射られて死亡。

寛永御前試合編

『月刊少年マガジン』1993年11月号から1994年3月号にかけ、「修羅の門」第三部と第四部の間に掲載。単行本伍・六巻および愛蔵版「寛永御前試合編」壱・弐巻に収録。

江戸時代初期、寛永年間を舞台に、陸奥を名乗る少女・圓と彼女への助力を約束した謎の人物・天斗の2人を中心に、御前試合の顛末を描く。「宮本武蔵編」の続編に当たり、宮本武蔵・伊織親子が再登場している。

あらすじ(寛永御前試合編)

関ヶ原の戦い、大阪の陣。徳川家康が天下を平定してから19年が経った。既に家康はこの世に亡く、3代将軍徳川家光の治世。寛永11年、家光は天下一の武芸者を決めるべく、今の天下に響く剣豪宮本武蔵に出場を依頼した。しかし武蔵はそれを断り、養子宮本伊織を推挙した。出場のための江戸への道中、伊織は柳生の手の者に囲まれる。伊織が彼らを片付けようとした時、突然、陸奥圓(つぶら)を名乗る女が乱入し、伊織に勝負を挑んできた。しかしその時、天斗(たかと)と名乗る男に取り押さえられたままの猪が2人の間に突っ込む。結局、勝負は一時中断となり天斗の猪肉を傍にいた老爺の鍋を借りて皆で食べることに。「陸奥」を名乗る圓の目的は一体何なのか。天斗とは何者なのか。

登場人物(寛永御前試合編)

試合出場者

陸奥 天斗(むつ たかと、28代)
1613年?生まれ。「宮本武蔵編」の主人公である八雲の子(母は詩織?)。圓に協力する形で御前試合に出場する。一見すると飄々としたのんき者だが、内実はまだ見ぬ強者との戦いを強く待ち望んでいる。彼の本性を十兵衛は「俺と同じ、強い者と戦いたいだけの馬鹿」、宮本伊織は「内に化物(けもの)が棲んでいる」と評した。片目を瞑るのが癖であり、これは十兵衛と同じく強さの追求の為であった。
最初は陸奥の一族であることを秘密にしており、圓が陸奥の名を騙っているのを知りつつ同行、御前試合に赴く。
柳生 十兵衛 三厳(やぎゅう じゅうべえ みつよし)
素人には分からないが、佐助曰く「武蔵よりずっと穏やかではあるものの、同じ質の剣気を持つ」という男。その圧倒的な剣気ゆえに、自ら抑えることが難しいと語っている。また、立ち合いにおいて本気を出した際の「気」は武蔵にも匹敵する強烈なものである。冷静だが好戦的な性格で、「強い者と戦いたいだけの馬鹿」と自認している。少し手を合わせた程度で天斗の実力を見抜き、自身と同じく強者を求め続ける本性を察した。歴史上では隻眼だったとされるが、この物語では眼帯を着けているものの実は両眼とも見えている。これは強さを求めるあまり、あえて片目を眼帯で隠すことで更なる高みを得ようとしたためである。天斗との対決でその眼帯を外し、自らが追求した真の剣技を発揮するも敗北(その際、天斗に眼を潰され本当に隻眼になる)。父である宗矩には嫌われており、十兵衛も剣より弁舌で出世した宗矩を内心馬鹿にしている。御前試合から年月を経た後、天斗との2度目の戦いに応じ敗北。楽しかったと言い残し死亡。
圓(つぶら)
真田幸村の九女。真田の生き残り。現在の将軍である家光の首を狙うため、御前試合への出場を目論んで陸奥を騙り、高名な兵法者に次々と勝負を挑む。
初めは真田家に仕えていた佐助から護身術として忍びの技を仕込まれたが、佐助の想像を超える天稟を持っていたため、遂には佐助が持つ全ての技術を習得するに至った。その為、暗器の扱いや戦闘はかなりの腕前。しかしこの類稀な才能が仇となり、並の武芸者なら適当にあしらっていた十兵衛を本気にさせてしまう。
男勝りな性格で非常に負けん気が強い。一人称は「オレ」。
宮本 伊織(みやもと いおり)
宮本武蔵篇に登場した少年が、武蔵の養子・弟子となり成長した青年。武蔵直伝の二天一流の継承者であり、師の代役として御前試合に赴く。
穏やかな性格の好人物で、天斗が評するところでは「剣の腕は十兵衛に伍するが、人の良さは師の武蔵に似ない」という。伊織自身も天斗や十兵衛のような「鬼」や「修羅」を自らの内に秘めていないと悟っており、本作中では2人とは戦わなかった。
しかし天斗が評する通り、一寸の見切りや二刀流などの技を自在に使いこなす剣の達人。師である武蔵も、彼の実力について「伊織が負けた場合、この武蔵が負けたと受け取ってもらって結構」と断言するほど信頼を寄せている。試合では柳生利厳を二刀を用いた一瞬の早業で倒してのけ、二刀は実戦で使える技ではないという周囲の評価を翻した。
柳生 利厳(やぎゅう としとし)
尾張柳生の頭首で宗矩の甥。
老齢だが相当の手練。新陰流の正統は尾張柳生だと証明し、とって代わる為に兵法指南役に命じられている江戸柳生を倒そうと試合に出るが、二回戦で伊織との試合で惜敗。また昔、武蔵が尾張徳川家に仕官しようとした時、「武蔵の剣は凡人に真似できるものではない」と諫め、武蔵の仕官を阻んだという過去を持つ。
東郷 重位(とうごう しげたか)
薩摩藩、島津家に仕える示現流の太祖。
老齢だが十兵衛も認める実力者。その初太刀は自らは「ゆすの木」にもかかわらず、木刀を一刀に両断するほどの威力を持つ。一回戦で天斗と試合をするが己の意地を懸けた初太刀をかわされ、自ら負けを認めて退場。
田宮 長勝(たみや ながかつ)
抜刀田宮流の太祖田宮重正の子。
居合を旨とする流派であるため、例外的に刃引きの刀を用いて御前試合に臨む。その太刀筋の速さは、常人の目には映ることすら無いと評されている。一回戦の圓との対戦前、刃引きではあれ刀が命中した際の危険性を警告する。しかし居合刀の特徴である長い柄を足で蹴り戻され、抜刀することなく敗北した。
小野 忠常(おの ただつね)
小野派一刀流の使い手。
二回戦に出場する。しかし、天斗には程なくやられてしまい、それほどの人物ではなさそうである。柳生と同様、兵法指南役として試合に臨む。
高田 又兵衛(たかだ またべえ)
宝蔵院流槍術の高弟(後、宝蔵院流高田派槍術の開祖)。
槍を得物に、二回戦に登り詰める。
羽賀井 平馬(はがい へいま)
羽賀井流の使い手。
一回戦にて伊織と試合をするがあっけなく敗退。
山崎 与左衛門(やまざき よざえもん)
新当流の高弟。
一回戦で十兵衛と試合をするが、一瞬のうちに木刀を弾き落され敗北。十兵衛曰く「つまらん相手」。

試合を取り巻く者

佐助(さすけ)
真田幸村配下の熟練の忍者。大坂夏の陣の最後の戦いの直前、幸村から村正を託され、圓を身篭っていた側室、苗を大坂城から逃がすよう頼まれた。圓が生まれて苗が死ぬと、親代わりとして圓を育て上げる。
徳川 家光(とくがわ いえみつ)
3代目、徳川家将軍。歴史上では幕府の基盤を固めた人物とされるが、本作ではいざと言う時に失禁・気絶してしまうなど気が弱い。
柳生 宗矩(やぎゅう むねのり)
柳生新陰流の頭首で家光から惣目付に命じられている。柳生の剣を王者の剣、活人剣と謳い剣禅一如を語り将軍家に取り入った。その為、十兵衛や利厳などからそのことを馬鹿にされ、政治外交剣、出世の剣と皮肉られている。
南光坊天海(なんこうぼう てんかい)
100に近い年齢でありながら未だ権力を求め、惣目付に命じられた柳生を潰そうと松平信綱と共謀する。
松平 伊豆守 信綱(まつだいら いずのかみ のぶつな)
天海と共謀して柳生を潰そうと企む。知恵伊豆とも呼ばれる策士。
宮本 武蔵(みやもと むさし)
本作ではシルエットのみ登場。御前試合への出場を断り、自分の代わりにと養子の伊織を推薦する。しかし、常人離れしたその剣気はいまだ衰えていないようで、御前試合への出場を勧めた使者を圧倒していた。
真田 幸村(さなだ ゆきむら)
すでに故人。圓の父で、村正を子の守り刀として佐助に託す。村正は徳川に祟ると言われる為、圓はこの刀を「徳川を討て」という幸村の遺志だと思っている。

源義経編

『月刊少年マガジン』1997年1月号から12月号にかけて、「修羅の門」第四部終了と「海皇紀」の開始の間に掲載。単行本の七巻から拾巻に収録されている。1年に渡って連載され、単行本も4冊と最長の作品となっている。

平安時代末期を舞台に、9代目鬼一と源義経の交流を描く。

あらすじ(源義経編)

源氏と平氏の2つの武家。平治の乱の平氏の勝利により、誰もが源氏の滅亡を考えていた。その中、源氏勢の若武者「牛若丸」は、平氏勢から追われ逃げ惑っていた。橋の下へ逃げ込んだ所で、彼は巨躯を誇る僧兵に出会う。

登場人物(源義経編)

陸奥一族(源義経編)

陸奥 鬼一(むつ きいち、9代)
115?年生まれ。妹の静と共に京の五条大橋へ(作者によれば五条大橋ではなく、京の北東賀茂川を渡って下鴨神社に向かうための橋)夜な夜な現れ、数多くの武士を打ち倒していた為『鬼』と恐れられていた。この地で武蔵坊弁慶と闘い勝利し、その場に居合わせた牛若丸(源義経)の人を惹き付ける魅力と、その正直さから来る危うさに好感を持ち、陸奥に伝わる金璽を授け義経に奥州へ行くように助言。義経が奥州藤原家と強い繋がりを持つきっかけを作った。義経が挙兵した後も、度々義経の前に現れ、助言をしたり、時には自ら戦ったりするなど、義経が数々の戦に勝利するきっかけを与える。
静(しずか)
静御前として知られる実在の人物。本作では陸奥鬼一の妹として陸奥の一族に連なる人物とされている。舞いの名手で絶世の美女。義経と両思いになり虎若(後の虎一)を産む。
陸奥 虎一(むつ こいち、10代)
幼名・虎若(とらわか)。1186年生まれ。義経と静の息子。生後間もなく砂浜に埋められるも強靭な生命力で生き延び、鬼一に助けられる。その後祖父によって陸奥として育てられ、名を継ぐ。
陸奥 ?(8代)
名前・生没年不明。
鬼一・静の父で、虎一を鍛える。現時点で作中に登場するもっとも古い陸奥圓明流継承者。

義経の仲間

源 義経(みなもと の よしつね)
力も無く武士らしからぬ容貌でよく泣くが、まっすぐな瞳で人を惹き付ける魅力は抜群にあり、用兵や統率力に優れ大将の器を持つ若武者。又、しばしば鬼一の助言に従い戦をする。陸奥鬼一をして「誰よりも丈夫(ますらお)の心を魅く丈夫だ」と言わしめる程、その実直な人柄は、弁慶や鬼一を始めとする多くの者たちに慕われた。
武蔵坊弁慶(むさしぼう べんけい)
義経四天王。
薙刀を得物とし、怪力無双の巨体を持つ僧兵。その強さゆえに昔から鬼のようだと言われているが(義経は鬼は鬼でも善鬼と呼ぶ)普段は穏やかで礼儀があり、鬼のようになるのは丈夫と戦う時だけである。
伊勢 義盛(いせ よしもり)
義経四天王。
坂東の武士だったが、平治の乱で平氏に源氏が敗れたことにより野盗になる。その後、奥州まで逃げる時に捕まりそうになったところを義経一行に助けられる。義経のまっすぐさに魅せられ、また、まっすぐなだけでは世の中は渡れぬと義経の供をする。吉野山で追っ手に囲まれた時に義経の影武者となった忠信の付き人として戦う。囲みを破って逃走した後、伊勢で守護を襲い奮戦の後、自害する。
佐藤 嗣信(さとう つぐのぶ)
奥州藤原氏に仕える佐藤兄弟の兄。後に、義経に惚れ込み、義経四天王として付き添う。
短気でせっかちな性格。義経が、自分の弱弓が平氏の手に渡ると馬鹿にされて味方の士気が下がるからと、落とした弓を拾おうとした際、義経を狙った教経の矢から身を挺して庇い死亡。
佐藤 忠信(さとう ただのぶ)
佐藤兄弟の弟。後に義経四天王。
嗣信と対照的に温和で、冷静な性格。兄と同様に義経に付き添う。吉野山で追っ手に囲まれた時に影武者として義経を逃がすための囮となり死亡。

源氏勢

源 頼朝(みなもと の よりとも)
源氏の棟梁として平家打倒に立ち上がる。義経の兄だが源氏の棟梁が2人になることを恐れ、出来のいい弟を疎んでいる。知盛曰く、猜疑心が強く哀れなほど奥州藤原氏を恐れている。北条家を後ろ盾としており、妻政子には頭が上がらない。
北条 政子(ほうじょう まさこ)
源頼朝の妻。頼朝は側室も作れないほど彼女を恐れている

。かなりの権力を持ち、実質的に鎌倉を動かしていると言っても過言ではない。時に、頼朝も戸惑うほど非情なやり方を使い、義経達を苦しめる。

梶原 景時(かじわら かげとき)
頼朝が源氏の棟梁を2人と作らない為に義経の軍監として功を立てさせないようにつけた人物。しかし、義経一行には軽くあしらわれ、頼朝への報告に事実を曲げ義経の功を伏せることしかできない。
畠山 重忠(はたけやま しげただ)
坂東一の武士。頼朝には疑問を抱きつつも、忠実に従う家臣。鬼一と勝負するが、自分には鬼一と戦った弁慶、教経のような「鬼」は備わっていないと悟り、敗北する。
土肥 実平(といの さねひら)
平家討伐の際に範頼の軍監として加わる。義経にも協力的。
土佐坊 昌俊(とさのぼう しょうしゅん)
頼朝の命で義経の館を襲ったがために鬼一に殺される。
木曽 義仲(きそ よしなか)
入京した後の我が物顔の振舞いが法皇の怒りに触れ、義仲追討の命が出される。義経はその討伐に向かい、義仲に降伏するか、それが叶わぬなら木曽に逃げるように言う。本来、義経の勝ち戦にもかかわらず逃げるように言った、その人柄に感服して木曽に帰る。その間際、鎌倉と法皇には心を許すなと告げる。
巴御前(ともえ ごぜん)
女武者だが強い、義仲と愛し合っている人物。

平氏勢

平 宗盛(たいら の むねもり)
清盛亡き後の暗愚な大将。
負けそうになると一番に逃げ出し、他の親族からの信頼は薄い。
平 教経(たいら の のりつね)
平氏の勇将。
鬼一も認める実力者で戦には欠かせない人物。知盛の知略に全幅の信頼を置いており、又、知盛からもその勇猛さに絶対の信頼を置かれている。壇ノ浦の戦いでは鬼一との死闘の果てに負けを悟り、義経を道連れに海へ身を投げようとするが、またも鬼一に阻止され、鬼一と共に海中に消える(鬼一はその後、海から生還する)。
平 知盛(たいら の とももり)
惰弱な大将の宗盛を補佐する実質的な平氏の指導者。
手練の兵法家であり智謀知略に富んでいる。陣立てや戦況、人相を見る観察眼はかなりのもので、他の親族からの信頼は厚い。壇ノ浦の戦いで完璧と思われた陣立て、戦法をとるが、教経が鬼一に敗れるという計算外の事態が起こり、又、そうしているうちに潮の流れが変わったために敗北。鎧を二領、装着して海へ身を投げ死亡。

奥州藤原氏

藤原 秀衡(ふじわら の ひでひら)
奥州17万騎を擁し、唯一平氏から独立している武家集団の長。かなりの老人だが王者の風格を備える名君。奥州は昔、陸奥一族により守られた過去があるので奥州は陸奥と共にあり、陸奥は奥州の守護神という言い伝えから鬼一の金璽をことのほか重んじる。
藤原 泰衡(ふじわら の やすひら)
秀衡の亡き後に家督を継ぎ、義経と国衡で3人で力を合わせて奥州藤原氏を守ることを誓う。しかし、鎌倉の強大な圧力に屈してしまい、義経の館を襲撃する。
藤原 国衡(ふじわら の くにひら)
秀衡の長男。

その他(源義経編)

湛増(たんぞう)
21代熊野別当。兵2000、船200艘を率いる熊野水軍の長。義経のまっすぐな人柄に魅せられ源氏に寝返る。
後白河法皇(ごしらかわほうおう)
義経と頼朝を仲間割れさせて、権力を取り戻そうと企む。

織田信長編

『月刊少年マガジン』2001年9月号から2002年4月号にかけて、「海皇紀」を一時休載して連載。単行本の十一巻から十三巻及び十三巻裏に収録。

戦国時代を舞台に、伯父である織田信長の為にと暗躍する陸奥の双子・虎彦と狛彦を描く。陸奥圓明流から不破圓明流が分かれた経緯が明かされている。

最終話は双子のそれぞれに焦点を合わせた表と裏の2話が描かれ、この裏を収録した単行本が十三巻とは別に「十三巻裏」として発売された。最終話以外はほぼ同じ内容だが、連載時に掲載された話から、表裏の視点に合わせて一部描写を抜き取る形で収録されている。

あらすじ(織田信長編)

混沌とした戦国時代。今、日本各地で戦が起こっていた。大大名に小さな家は飲み込まれ消えていっていた。尾張の織田家もその中にいた。名君、猛将として家を守りぬいた織田信秀は病に負け、跡を継いだ大うつけと言われる織田信長は相撲や遊びに明け暮れ家臣は絶望し、織田家は最早風前の灯だった。そんなある日、信長が相撲をしていると陸奥一族の陸奥辰巳(たつみ)が現れた。

登場人物(織田信長編)

陸奥一族(織田信長編)

陸奥 辰巳(むつ たつみ、25代)
若き織田信長と出会い、成り行き上信長と試合を行うが、完膚なきまで組み伏せ、信長に初めて『恐怖』を教える。その時に、賭けの代償として信長の腹違いの妹琥珀を貰い受ける(辰巳が欲しかったのは、琥珀の持っていた握り飯だったのだが、琥珀の意思もあって結局琥珀を貰い受ける事になる)。その後は桶狭間の戦いにて窮地の信長の前に現れ、助力する。
狛彦(こまひこ、26代)
1555年生まれ。辰巳と琥珀の子で虎彦とは双子。虎彦と共に伯父である信長を助けながらも、信長の苛烈な性質に徐々にその心を離していく。虎彦との闘いに勝ち、陸奥の名を継ぐ。
虎彦(とらひこ)
1555年生まれ。辰巳と琥珀の子で狛彦とは双子。伯父である信長を思いやり、暗殺等によってその手を汚していく。狛彦との闘いに破れた後、父によって不破の名を与えられ、陸奥から分家する。
琥珀(こはく)
織田信長の腹違いの妹。賭けの代償として信長が陸奥辰巳に差し出そうとするが、拒否した辰巳に対し、自分の意思で辰巳の後を追い妻となる。
双子(狛彦と虎彦)を産んだことが原因で体調を崩し、死亡。

織田家

織田 信長(おだ のぶなが)
織田家の当主。
帰蝶(きちょう)
信長の妻。
木下 藤吉郎(きのした とうきちろう)
信長に付き従う、金ヶ崎の退き口ではしんがりを務めるほどの忠臣。しばしば虎彦と狛彦の助言に従い手柄をあげる。
明智 光秀(あけち みつひで)
本能寺の変を起こす。秀吉の軍勢に敗れた後、虎彦に殺される。

雑賀衆

雑賀 孫一(さいか まごいち)
傭兵集団雑賀衆を率いる鉄砲大名の頭。その鉄砲は神業の域に達しており、驚くべき遠さから正確無比に標的を貫くことができる。百戦錬磨の兵法家でもあり、戦の統率力、用兵は信長も認めるほどである。織田と本願寺が対立した際には、顕如を手助けして、本願寺側につく。
蛍(ほたる)
雑賀孫一の娘。孫一の才能を継ぎ、鉄砲の天才的な技量を持つ。父、孫一の仇と狙う信長を、本能寺の変にて鉄砲で撃ち、とどめを刺す。
小市(こいち)
雑賀孫市の長男。10歳前後でその早蓋は孫一に天下一と認められるほど。孫一の立派な右腕として活躍する。

織田家の敵

本願寺 顕如(ほんがんじ けんにょ)
雑賀孫一率いる雑賀衆を雇う。織田家と対立し、熱戦を繰り広げるが、実際は顕如は戦には出ない。他の坊官と違い権力を振りかざさない、穏やかで物腰柔らかい人柄。
今川 義元(いまがわ よしもと)
駿河に勢力を持つ大大名。桶狭間の戦いで信長に破れ討ち死にする。
浅井 長政(あざい ながまさ)
お市を娶り信長と同盟を組むが、信長を裏切り、古くからの縁がある朝倉方につく。その後、金ヶ崎にて木下藤吉郎と対峙する。
武田 信玄(たけだ しんげん)
武田騎馬軍団や乱波衆を擁する、信長ですら脅威とする老練の将。三方ヶ原の戦いで徳川に勝利を収めるが、上京する進軍中に虎彦に暗殺される。

西郷四郎編

『月刊少年マガジン』2003年10月号から11月号にかけて、「海皇紀」を一時休載して連載。単行本の十四巻に収録。

明治時代を舞台に37代目天兵と西郷四郎の闘いを描く。

他の部同様に「西郷四郎編」のみで完結したストーリーとはなっているが、『修羅の門』の第四部へ繋がる深い関わりを持つ。

あらすじ(西郷四郎編)

西郷四郎が去った後、講道館に入った前田光世は、ある日、ヤクザに車屋がぶつかり殴られているところに西郷が現れ瞬速の投げ技を使い助ける所を目撃する。会津弁に加え見事な技を見た前田は、まさかと思うものの西郷が講道館を去った理由を知りたくこっそりついていった。そこで原っぱに、西郷が座り込んで前田に独り言で良いならと昔話をする。いったい、なぜ西郷は講道館を去ったのか? 昔、陸奥と何があったのか?

登場人物(西郷四郎編)

陸奥一族(西郷四郎編)

陸奥 天兵(むつ てんぺい、37代)
1872年生まれ。出海の息子(母は蘭?)。初登場は10歳の頃であり、四郎と初めて対峙する。その時には寒気がするような感覚を覚えた四郎に、子供ながら脳裏を離れない強烈な印象を放つ。それから8年、田中十蔵の娘のきっかけもあり四郎に果たし状を渡し、青い月の下で決闘をする。
陸奥 出海(むつ いずみ、36代)
天兵の父。天兵に陸奥の名を譲る。「風雲幕末編」の主人公。

講道館

嘉納 治五郎(かのう じごろう)
講道館柔道の創設者。
四郎の天賦の才を見抜き、井上道場から譲ってもらう。元は学士であるが、本物を見抜く心眼を備えている。太平洋上、氷川丸船中にて肺炎の為に急逝。享年79。
西郷 四郎(さいごう しろう)
講道館四天王の1人。
『修羅の門』、『刻』シリーズには珍しく陸奥よりも身長が低い。5尺そこそこの体格ながら、山嵐や御式内などの技に加え、蛸足やネコなど柔道家としての天賦の才を持つ。その事から、嘉納は「私の柔道の結晶」とまで言わしめる。会津藩家老・西郷頼母の隠し子。その為、会津弁である。天兵との決闘では、初めは瞬たく暇も与えないような投げ技で圧倒する。しかし、足を払うだけの技では人は死なないと悟ると同時に、強い者と戦う高揚した気持ちが抑えきれずに、禁じられていた御式内を開放する。自分でも感じていた「鬼の血」をさらけ出し追い詰めるが、天兵が渾身の力で放った「雷」を受け敗北。その時の負傷により、蛸足を失う。その後は、田中十蔵の娘の家で療養して一命を取り留めた。表面では、嘉納に留守を託されたが出奔、そのために講道館を追放となったという事になっている。後に、嘉納に宛てた詫び状と「支那渡航意見書」が発見される。しかし、出奔後は鈴木天眼を頼るも大陸には渡ることはなかった。尾道にて病没。享年56。没後、講道館より六段を追贈される。
横山 作次郎(よこやま さくじろう)
講道館四天王の1人。
井上道場から譲ってもらう。良移心頭流の中村半助と引き分けるほどの実力を持つ。
山田 常次郎(やまだ つねじろう)
講道館四天王の1人。
後、光世と共に、柔道の海外普及のために渡米する。
山下 義韶(やました よしあき)
講道館四天王の1人。
眼鏡をかけている。
前田 英世(まえだ ひでよ)
後に前田光世と改名。四郎が去った後に講道館に入る。横山作次郎に鍛えられ三段を与えられ、道場では敵無しの実力となる。作次郎には「お前は四郎に似とる」と言われ、気にかかっていた。
四郎に陸奥の話を聞いた後、どうすれば陸奥に勝てるかと聞くと「道を捨てること」「実戦」「他国の武技とやってみるのも良い」と言われる。その事から、後に海外普及のために山田常次郎と共に渡米。各国でボクシングやレスリング等と1000回近くの試合をしてほぼすべて勝利を収め、コンデ・コマと称される。その後、ブラジルでグレイシー柔術を確立させる。ブラジル・ベレンにて没。享年64。尚、『修羅の門』では、養子「前田三郎」が存在して、それは「修羅の門」第四部に深く関わり結びつくこととなる。

その他(西郷四郎編)

田中十蔵の娘
楊心流柔術師範、田中十蔵の娘。父は事実上の柔術対柔道の戦いに敗れて、柔術の株は下がり、少ない門弟は去り落ちぶれてしまう。その後、金のために見世物に出場して異人と闘うも惨敗して、自宅で療養するも死亡する。その為、柔道で楊心流柔術の門弟を破った四郎には、逆恨みとは分かっていながらも憎しみを抱いている。

雷電爲右衞門編

『月刊少年マガジン』2005年9月号から11月号にかけて、「海皇紀」を一時休載して連載。単行本の十五巻に収録。

江戸時代を舞台に雷電爲右衞門と陸奥3代との闘いを描く。


あらすじ(雷電爲右衞門編)

祭礼の御前相撲に飛び入りで参加した太郎吉は見事な張り手で勝利を収めたものの、対戦相手を殺してしまう。また殺人を犯す事を恐れ力士になる事をためらうも、殺害相手の息子から受けた言葉をきっかけとして力士になる事を決意する。谷風に師事した太郎吉は、雷電爲右衞門の四股名で最強と謳われる様になる。そんな彼の前に陸奥左近が突如現れ、仕合を申し込む……。

登場人物(雷電爲右衞門編)

陸奥一族(雷電爲右衞門編)

陸奥 左近(むつ さこん、33代)
1749年生まれ。雷電と闘おうとするがその足りない物に気付いて勝負を預け、足りない物が埋まったら再度闘う事を約束して去る。しかし、再会を果たさずに病に倒れ死亡。
(陸奥)葉月(はづき)
1785年?生まれ。左近の娘。幼少時に雷電を見、その足らない物を父よりも先に見抜く。成長後に雷電と再会。父以上の素早さを持つも、体の小ささと女である事からその技は軽く、弱さ故に陸奥でありながら陸奥を名乗れない事を告げる(この為、正式に陸奥の名を継いでいるかどうかは不明)。雷電に20年後に陸奥を連れてくる事を約束し、息子の兵衛を連れて再度雷電の前に現れた。
陸奥 兵衛(むつ ひょうえ、34代)
1805年?生まれ。葉月の息子。その技は葉月より速く、左近より重い。父親は不明(作中で葉月に「父親は雷電ではないか」と聞くが否定されている。作者あとがきでは、「答えないことにしている」「(読者にとって)より好きな方が正解」とも述べられている)。母と共に雷電の前に現れて、対決する。見事に雷電を破り、正式に陸奥を継ぐ。

力士

雷電 爲右衞門(らいでん ためえもん)
本名は太郎吉。史上最強とも評される力士。大関まで昇進したが、何故か横綱免許は受けなかった。大石村で百姓の子として生まれる。祭礼の御前相撲で対戦相手を殺し、その息子から受けた言葉から自分を殺せる相手を求めて力士となり、谷風に師事する。最強との闘いを求め葉月と共に現れた陸奥左近と勝負をするが、足りない物があるとして勝負を預けられる。10年の後、葉月と再会するも、今度は葉月の側に足りない物があったため20年後の再勝負を約束する。20年後、より鍛え抜かれた体で以て葉月の息子兵衛と闘い、見事な立ち往生を遂げる。
谷風 梶之助(たにかぜ かじのすけ)
雷電の師匠で相撲の達人。最初に登場した時には既に大関で、後に横綱免許を受けた。田舎の力士で敵なしだった雷電を圧倒したほどの人物。初めに雷電を試したとき、雷電の張り手は下手をすれば人を殺すと思い禁じ手とする。しかし、陸奥一族の陸奥左近に出会った時、雷電は本気で勝負をしたいだろうと思い、死ぬ間際に張り手の使用を解禁する。

陸奥圓明流

陸奥圓明流とは『修羅の門』及び『修羅の刻』に登場する架空の武術。武器を使わない無手で地上最強である事を目指し、人を殺す事を極めた幻の武術とされる。現代劇として描かれた『修羅の門』の時点で1000年の歴史を持ち、誕生より一度の敗北も知らない。

生まれた時からの修練によってのみ習得可能であるため、陸奥の家に生まれぬものには習得出来ない。

陸奥圓明流にとって「陸奥」の名は最強と同義であり、単に陸奥圓明流の修得者と言うだけでは陸奥を名乗る事は出来ず、名乗れる者は常に1人だけとなっている。この為、名を継いだ狛彦は「お前が『陸奥』だ」と父・辰巳から言われ、天兵に名を譲った出海は自身を「昨日までの『陸奥』」と名乗る等、「陸奥」の名はその時々の継承者個人と同格に扱われる場合がある。名を継ぐ際には、鍔のない短い刀を同時に受け継ぐ。

いつどこで成立したかは示されていないが、逆算から平安時代中の成立と考えられる。作中で明らかにされている最初の業績は奥州藤原氏の覇権への協力である。この功績によって陸奥は藤原氏より「王の上に立つ守護神」と呼ばれ、陸奥の金璽を持つ物の願いを必ず叶える約定を結んでいる。

不破圓明流

不破は安土桃山時代に不破虎彦を祖として陸奥から分かれた分家。不破家が使う圓明流が不破圓明流であり、よって陸奥圓明流と不破圓明流で技の差はほとんどない。

最強である事だけを目指し「時代の影に生きた」と称される陸奥に対し、同じ技を以て暗殺等を行なって糧を得てきた不破は「時代の闇に生きた」と称される。

虎彦が不破を名乗るようになってから、名目上は本家の陸奥を分家の不破が立てるという理由から(実際は両家が闘った場合、どちらかの不敗伝説が無くなる事を恐れた為)、陸奥九十九と不破北斗が闘うまでの約400年間両家が争う事は無かった。

だが、不破家は陸奥を倒す為の準備はしており、陸奥も知らない技『神威(かむい)』を開発している。

対戦歴

  • 鬼一
    • VS 武蔵坊弁慶
    • VS 平教経
    • VS 畠山重忠
  • 狛彦
    • VS 雑賀孫一
    • VS 虎彦
  • 八雲
    • VS 柳生兵馬
    • VS 九鬼数馬
    • VS 九鬼新三郎
    • VS 九鬼源次郎
    • VS 宮本武蔵
  • 天斗
    • VS 東郷重位
    • VS 柳生十兵衛
  • 左近、葉月、兵衛 VS 雷電爲右衞門
  • 出海
    • VS 坂本龍馬
    • VS 中村半次郎 
    • VS 伊東甲子太郎
    • VS 沖田総司
    • VS 土方歳三
    • VS ワイアット・アープ
    • VS ベン・トンプスン
  • 天兵
    • VS 西郷四郎

陸奥家系図

  • 参考として真玄以下『修羅の門』の登場人物も記載。なお、『修羅の門』の登場人物についての詳細は『修羅の門』のページを参照の事。
  • その他の人物の詳細については上記の各編の登場人物の項を参照。
  • 名前の後ろの数字は陸奥家の代を示す。
  • 結婚相手のうち、名前の後ろに「?」が付いた人物は作中から推定出来るが明言はされていないもの。

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