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大甲子園/水島新司

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著者: 水島新司
巻数: 26巻

水島新司の新刊
大甲子園の新刊

最新刊『大甲子園 第26巻


大甲子園』(だいこうしえん)は、水島新司の野球漫画。「週刊少年チャンピオン」に連載されていた(1983年 - 1987年)。

『ドカベン』の続編で、主人公・山田太郎の高校3年の夏を描いた物語である。

あらすじ

『ドカベン』山田太郎の明訓高校や、『球道くん』の中西球道、『一球さん』の真田一球、『ダントツ』の荒木新太郎、『男どアホウ甲子園』の藤村甲子園の双子の弟らが大甲子園で激突。さらに『野球狂の詩』の岩田鉄五郎や水原勇気たちも球場に駆けつける。山田たちの3年の夏は一体どうなるのか。

概要

本作品は、「ドカベン」を中心軸として、各誌に掲載されていた水島新司の高校野球漫画のキャラクターが一堂に会するという作品になっている。とくに明訓高校対青田高校の試合は過去の高校野球の名場面を彷彿とさせ、かつ漫画の主人公でしか成しえない野球を読者に提供した。

水島新司の漫画のキャラクターが一堂に会するにあたっては「ドカベン」「ダントツ」といった秋田書店の漫画、「男ドアホウ甲子園」「球道くん」「一球さん」といった小学館の漫画、「野球狂の詩」の講談社の漫画が混在し、出版社の垣根を超えて実現している。

また、後に「球道くん」の中西球道や「一球さん」の真田一球・呉九郎が「ドカベン プロ野球編」「ドカベン スーパースターズ編」に登場したことから、この作品をもって水島の漫画が一堂に集まり、大河を形成するような作品に仕上がった。

複数の代表作を持つ漫画家が、過去の自身の主人公を一堂に集めたオールスター的な作品を描こうとすることは数多いが、その中で『大甲子園』は成功した部類の作品のひとつである。要因として、登場人物の多くが高校野球という一つの「システム」を共通の背景にしており、細かい矛盾を考えなければ、この種の作品でもっとも難しい"世界観の統一"に煩わされずに執筆できたことがあげられる。その中であえて大きな矛盾を挙げるとすれば、「ドカベン」同様長期連載となった「球道くん」では青田は3年春の甲子園で優勝しているが、「ドカベン」での該当大会は優勝校は明訓である事。また、「男どアホウ甲子園」および「一球さん」からのキャラクターである南波高校の藤村球二・球三兄弟が三年生である事(「一球さん」本編の時点で三年生)などがある。なお「ダントツ」は当初より大甲子園のプレストーリーとして執筆されている。

また、水島新司は当初からこの作品を実現させるために、どの高校野球漫画も3年春の全国大会までで終わらせていた。

時代設定

豊福きこうが『水原勇気0勝3敗11S』(情報センター出版局)において、山田、岩鬼、殿馬、里中らが明訓高校で活躍した時代を1974年~1976年としている。山田たちが明訓に入学した年の夏の甲子園大会は、1974年の「第56回全国高等学校野球選手権大会」だった。したがって『ドカベン』の高校3年時を描いた終盤は1976年が舞台になる。しかし、『大甲子園』では「第何回大会」か、作品からはわからないようになっている。その前の夏の予選における白新高校との決勝戦は場所が横浜スタジアムで、開場の時期から見て1978年以降になる。

また、この作品の夏の甲子園準決勝で青田高校の中西球道が(1)9者連続奪三振、(2)1試合26奪三振を記録。テレビ解説者は(1)が1926年の第12回大会以来57年ぶりとコメントしており、これによると中西の記録達成は1983年。また、(2)は1958年の第40大会(※)以来24年ぶりとしており、これによれば中西の記録達成は1982年。
したがって、『大甲子園』での明訓対青田の試合は1982年~1983年の期間になるはずであるが、その準決勝再試合で明訓の先発投手である岩鬼が実在のプロ野球投手の物真似で投球する際、「中日ドラゴンズの小松の昭和60年時」と叫んで投球している事や、1985年当時に阪神タイガースに在籍していたゲイル投手、バース選手らの物真似をしている事から、少なくとも1985年(昭和60年)以降の開催である、と考える事もでき、設定の曖昧さが感じられる。

(※)1958年の第40大会で徳島商の板東英二投手が1試合25奪三振を記録。

また、作中で80年代アイドルである松田聖子(1980年デビュー)と小泉今日子(1982年デビュー)の歌が登場する。室戸学習塾の守備陣が打者・殿馬のリズムを狂わせるために同時に民謡(「南国土佐をあとにして」と思われる)からアイドル歌謡曲までバラバラの歌を歌ったが、その中に1983年のヒット曲であった「瞳はダイアモンド」と「艶姿ナミダ娘」があった。さらに対青田戦で殿馬は「秘打・夏の扉 松田聖子」(「夏の扉」は1981年4月21日リリース)を披露している。こうなると、対室戸戦から対青田戦までは少なくとも1982年以降である。

作品の枠を越えた共演

作中で実現した対戦

従来の原作の枠を越えて実現したいわゆる「夢の対戦」は以下の通り。

地区予選
青田高校(『球道くん』) 対 クリーンハイスクール(『ドカベン』) - 千葉県大会
南波高校(『男どアホウ甲子園』) 対 通天閣高校(『ドカベン』) - 大阪府大会(描写は試合終了時のみ)
甲子園大会
光高校(『ダントツ』、西東京代表) 対 南波高校
青田高校 対 江川学院(『ドカベン』、栃木県代表)
明訓高校(『ドカベン』、神奈川県代表) 対 巨人学園(『一球さん』、東東京代表)
明訓高校 対 光高校
明訓高校 対 青田高校
明訓高校 対 青田高校(引き分け再試合)

対戦以外で実現した場面

  • 神奈川大会決勝、明訓高校対白新高校戦では、『野球狂の詩』の東京メッツの岩田鉄五郎と五利一平監督が観戦。この2人は甲子園の準決勝及び決勝も観戦した。回想シーンとしてだが、ルーキー時代の王貞治(すでに一本足打法であることから、プロ入り4~5年目ごろと思われるが)に現役のバッテリーとして対戦するくだりも描かれた。
  • 千葉県大会決勝、青田高校対クリーンハイスクール戦では、中西球道の応援に、同じく『野球狂の詩』の水原勇気が応援に駆けつける。またこの時水原と偶然居合わせたのは、球道の中学~高校野球時代にかけてのライバルたちだった。試合中、左腕を負傷した中西は、9回裏、影丸の背負い投法を打ち返してサヨナラホームランを放つも、その激しい衝撃で気絶。1塁に向かう途中でグラウンドに倒れかけた中西を影丸が支えた。ベンチから飛び出してきた大下監督に、主審は「(中西を背負って)ダイヤモンドを1周されてはどうですか」と提案し、大下は涙ながらに中西を背負いながらサヨナラのホームインを果たす。
  • 『男どアホウ甲子園』の藤村甲子園が、祖父の球乃進と共に甲子園球場のグランド整備員をしている。素性が明らかになる前、岩鬼と一触即発となるが、雰囲気と睨みでたじろがせ、「えらい迫力ある整備員や。」と言わしめた。また、山田にも後に「やはり並外れた人だ、藤村甲子園という人は・・・」と言わせている。藤村は『一球さん』にも登場して、甲子園球場で南波対巨人学園の試合を観戦しているが、この時はその身の上について詳しくは語られず、現在よく知られている、「プロ(阪神)入り3年目に史上最速の時速165キロを記録するが、その一球と同時に肩を故障、引退した」という設定は、『大甲子園』で初めて明かされた。また同・東海の竜こと神島竜矢が、何故か竜監督の名で南波高校の監督を務めている。
  • 同じく『男どアホウ甲子園』の南波ナインのひとりで、『一球さん』では真田一球の養父だった左文字が甲子園に顔を出している。巨人学園の元監督であった「豆タン」こと岩風五郎は大甲子園には顔を出さなかった(これは、原作において、岩風が監督を辞任した後一球が監督を引き受けたという設定をそのまま引き継いだからと思われる)。
  • 開会式では、通天閣高校の坂田三吉(『ドカベン』)が、前年度優勝校キャプテンとして優勝旗返還のために行進している。この点が、「明訓がはじめて負けた山田たちの2年夏の翌年の大会」として、本作は『ドカベン』の続編としてひろく認知されている大きな要素でもある。
  • 『一球さん』の神宮高校・五味が、巨人学園三球士の1人である堀田を探して甲子園まで連れていき、堀田はギリギリで3回戦の明訓戦に間に合う。
  • 『ドカベン』で、山田たちの3年春のセンバツで対戦した岩手県代表・花巻高校が登場。エース太平洋が山田に「春の借りは返す」との発言をしているため、時間軸的には本作はやはり『ドカベン』の直接の続編ということになる。花巻高校は準決勝まで進出したが、明訓高校最後の対戦校の座は紫義塾に譲ることになった。

登場人物

『大甲子園』で初登場した人物。他作品からの登場人物については各項目を参照。

犬飼知三郎(室戸学習塾)
主将でエース。犬飼兄弟の末弟。
星王光(りんご園農業)
りんご園農業の主砲。1番三塁手。
中村千吉(りんご園農業)
りんご園農業の4番でエース。
近藤勇二(紫義塾)
紫義塾の「局長」。4番三塁手。スイッチピッチャーでもあり、左右どちらも高い実力を誇る。死球確実のスライダー「サツジンスライダー」が武器である。名前は近藤勇から。
壬生狂四郎(紫義塾)
投手。160km/hの速球と、決め球のフォーク「無念流」を持つ。失明し、その治療のため甲子園決勝まで登板できなかったが、決勝の対明訓戦、9回表の土壇場で登場。

『大甲子園』オリジナルの高校

室戸学習塾
高知県代表。かつて明訓を率いた徳川家康が監督を努める。主将でエースの犬飼知三郎は、『ドカベン』において明訓の最大のライバルであった土佐丸高校の犬飼小次郎と武蔵兄弟の末弟。高知予選決勝でその土佐丸を破って代表となり、抽選会で甲子園大会初日第1試合の対明訓戦を見事に引き当てた。
明訓 vs 犬飼兄弟最後の戦いにして、明訓 vs 徳川監督の最後の戦いでもあるこの試合は、『ドカベン』『大甲子園』における屈指の名勝負を描いている。
りんご園農業
青森県代表。実は『週刊少年マガジン』で連載されていた『極道くん』の主人公チームであった清正高校のキャラクターが、名前を変えて使用されている。縁起を担ぐために、前年、明訓高校を破った弁慶高校が泊まっていた浄妙寺を宿舎にしていた。2回戦で明訓と対戦し、主砲である星王光のプレーボールホームランを含む2打席連続ホームランなどで一時5-0と大量リードする(明訓高校が大量リードを許すのは、『ドカベン』『大甲子園』を通じてとても珍しい)。ちなみに、この試合では、岩鬼がど真ん中のストライクを何の作戦もなしにクリーンに打ち返してホームランを放つという、稀有なシーンも描かれている。
ちなみにりんご園農業は『ドカベン』で山田たちの2年次夏にも甲子園に出場しているが、『大甲子園』では初出場であることになっている。
紫義塾
京都府代表。もともと剣道部で、全国大会10連覇中だった。剣道ではもはや敵はいないという理由で野球部に鞍替えしたチーム。部員は新選組の隊員がモデルとなっていて、部員全員スイッチヒッター、スイッチピッチャーである。甲子園では、準々決勝で春の準優勝校である北海大三を破り、準決勝では明訓の大平監督の息子・洋が主将の花巻高校にサヨナラ勝ちし、決勝で明訓と対戦した。人数が9人ギリギリだったり(実はもうひとりいたが)、常に命を賭けていたりするところなどが完全に弁慶高校の雰囲気であることからも、最後の相手がこのようなキワモノチームであった理由が推し量れるというものである。
なお、新聞の全出場校紹介(代表の決まっていない高知県は除く)シーンでは、単に「紫高」となっていること、準決勝の抽選に現れた人物は、こうした設定とは無縁の、絵巻物に登場する公家のような顔をしていたこと、その人物がかぶっている帽子のマークも決勝戦で登場した時のマークとは異なっていること等から、明訓と光の対戦前はまだ紫義塾高校についての詳細が煮詰まっていなかったと思われる。