HOME > コミック > 奇子
奇子/手塚治虫
共有
著者: 手塚治虫
巻数: 3巻
最新刊『奇子 3』
『奇子』(あやこ)は、手塚治虫の漫画作品。1972年から1973年まで小学館ビッグコミックに連載された。
あらすじ
昭和24年、戦争から復員した天外仁朗はGHQの工作員になっていた。ある時、命令で共産主義者の男の殺人(通称 淀山事件)に関与する。その男は、自分の妹の天外志子の恋人であった。
さらに事件関与後、血のついたシャツを仁朗が洗っているとき、知恵遅れの少女お涼と、自分の父親と兄の嫁との間にできた少女 奇子がそれを見てしまう。仁朗はお涼を口封じのため殺し逃亡する。奇子は一族の体面のために急性肺炎で死亡したことにされ、天外家の土蔵の地下室に幽閉されたまま育てられるが…
登場人物
- 天外仁朗(てんげ じろう)
- 東北地方の大地主 天外家の次男。GHQから命令を受け、民進党の江野正殺害に関与する。事件後、逃亡中に偶然知り合った男と共に朝鮮戦争の特需をきっかけに裏社会で名を上げ、“祐天寺富夫(ゆうてんじとみお)”と名を変える。彼と共に暴力団「桜辰会」を設立し、それを政界に影響力を及ぼすまでに成長させる。自分のために奇子が土蔵に閉じ込められるきっかけを作ってしまったことを悔やみ、後にその償いとして奇子あてに送金を続けていた。数年後、東京へ出てきた奇子と再会、彼女を迎え入れて一緒に暮らし始めるものの、奇子の家族に対する報復に巻き添えを食らう。
- 天外奇子(てんげ あやこ)
- 表向きは天外家の次女だが、実際は作右衛門が長男の嫁であるすえに産ませた私生児。幼少時代に仁朗の罪を目撃したために、仁朗が警察に捕まり天外家の名前に傷がつくことを恐れた親族から土蔵の地下室に幽閉され、表向きは死んだ事にされて23年間の時を過ごす。当初は土蔵の外へ出る事を望んでいたが、ある事件がきっかけでその願いは反転、逆に土蔵の中で暮らす事を望むようになるが、道路拡張工事の開発により、土蔵が取り壊されることになり初めて外へ出る。長年隔絶された環境で暮らし、伺朗と関係を持っていたことも手伝い性意識などがどこか歪んでいる。
- 天外市郎(てんげ いちろう)
- 仁朗の兄。日和見主義な天外家の長男で父の衰えに乗じて天外家の実権を掌握する。天外家の遺産を相続する事と引き換えに作右衛門にすえを渡したが、その約束は破られ、遺産はすえが相続する事になる。その後すえを殺害し遺産を手にしたものの、すえを殺した日から悪夢に悩まされるようになり、ある出来事から伺朗やゐばにすえを殺した事を勘付かれてしまう。
- 天外すえ(てんげ -)
- 市郎の嫁。作右衛門に犯され奇子を生むが、戸籍的には奇子の義理の姉となっている。後に作右衛門が亡くなった際、彼の遺産金を引き継ぐが夫の市郎によって殺害される。
- 天外伺朗(てんげ しろう)
- 天外家の三男。仁朗の犯罪を告発しようとするなど、天外家では強い正義感の持ち主。奇子にも何かと世話を焼いており、彼女を助けようとしていたが、後に成長した奇子と近親相姦を交わしてしまう。
- 天外志子(てんげ なおこ)
- 仁朗の妹で伺朗の弟GHQに殺害された江野の恋人だが、この事件に兄が関わっていることを知らない。父に共産党のかかわりを疑われて勘当されたために唯一一族を客観視できる天外家の長女。
- 作中では、コールガールをしている描写がある。
- 天外作右衛門(てんげ さくえもん)
- 天外家の傲慢、不遜、放蕩、淫乱、マキャヴェリストな当主。すえとの間に生まれた奇子を溺愛している。親族に監禁された奇子を蔵の外へ出してやろうとしていたが、後に脳卒中を起こし、数年間植物状態となった後亡くなる。
- 天外ゐば(てんげ いば)
- 滅私奉公型貞女的な性格で、夫や長男に従順な作右衛門の妻。子供達に、絶対的に愛情を与えており、奇子の生い立ちに関しては、かなり躊躇していた。
- お涼(おりょう)
- 天外家の知恵遅れの女中。幼い奇子の良い遊び相手。偶然仁朗の罪を目撃したため、証拠隠滅のために殺害されてしまう。実は作右衛門が小作人の妻に産ませた私生児。
- 下田波奈夫(げた はなお)
- 仁朗と淀山事件の関わりを探る警視庁捜査一課長・下田警部の一人息子で検事。偶然知り合った奇子と同棲することになる。
- 霜川則之(しもかわ のりゆき)国鉄総裁
- 淀山事件の数ヵ月後に謎の変死を遂げる。この直後相次いで三鷹事件、松川事件が続き、日本政府の共産主義への弾圧が強化された。下山定則がモデル。下山の詳細はリンク先を参照。
単行本
- ハードコミックス『奇子(大都社)全2巻』
- 手塚治虫漫画全集『奇子(講談社)全3巻』
- 角川文庫『奇子(角川書店)全2巻』
関連項目
- ダグラス・マッカーサー
- 大衆文化における近親相姦
- レッドパージ
- 下山事件
- 土井利忠 - 元ソニー筆頭常務・「天外伺朗」の筆名で著作活動
- 陰陽座 - この作品をモチーフにした「奇子」という曲がある