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木島日記/大塚英志 森美夏

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著者: 大塚英志 森美夏
巻数: 4巻

大塚英志の新刊
森美夏の新刊
木島日記の新刊

最新刊『木島日記 4



木島日記の既刊

名前発売年月
木島日記 1 1999-10
木島日記 2 2001-01
木島日記 3 2003-07
木島日記 4 2003-07

木島日記』(きじまにっき)は、大塚英志原作、森美夏画による日本の漫画、及び小説。

概要

『月刊ニュータイプ』、『エースネクスト』、『エース特濃』vol.1(角川書店)にて1997年から2003年にかけて連載された。単行本は4巻まで刊行されたが、未完。原作者の大塚英志によってノベライズもされ2巻まで刊行されている。2009年4月『怪』vol.0026より小説『もどき開口 木島日記完結編』連載中。

民俗学者・折口信夫と仮面の男・木島平八郎が主人公の伝奇ミステリー。

二・二六事件が起こり、右傾化し開戦へと向かいながら、オカルトや猟奇事件が跋扈する昭和の複雑な世相が描かれている。

柳田國男が狂言回しの『北神伝綺』、小泉八雲が狂言回しの『八雲百怪』と共に三部作になっている。

あらすじ

民俗学者折口信夫博士は、偶然迷い込んだ古書店「八坂堂」で自分の名前が無断で借用された偽書を発見する。そこには仮面を付けた店主木島平八郎の信じられないような過去が書かれていた。それ以来折口博士は奇妙な事件に巻き込まれるようになる。

登場人物

メインキャラクター

木島平八郎(きじま へいはちろう)
主人公。仮面の仕分け屋にして古書店主。かつては「人倫よりも知的好奇心を優先する」科学者集団「瀬条機関」の研究員だったが、恋人の死を受け入れられずに、恋人の死体を使って死人返りの実験を行うが失敗。恋人の死体は爆発し、飛び散った肉片が顔にへばりついてしまい離れなくなる。木島が仮面を被っているのはこの肉片を保護するため。
事件後「瀬条機関」を離れ偽書専門の古書店「八坂堂」を開くが、組織との繋がりは今も続いており、組織の実験の結果発生したものを、この世に「あってはならないもの」とそうでないものに「仕分け」する「仕分け屋」をしている。
折口博士の名前と作品名を無断盗用して、自分の関わった事件を小説の形で記録している。ムー大陸実在説の信奉者でもある。 
折口信夫(おりくち しのぶ)
本作の狂言回し。日本民俗学の創始者の一人。國學院大學教授。極度の女性嫌いであり、同性愛者でもある。自分の母は産みの親ではなく、どこかに本当の母親がいるという妄想に憑かれている。自分の顔にある痣がコンプレックス。
美蘭(メイファン)
満州のサーカスで発見された、清王朝の血を引くシャーマンの少女。アーヴィング博士の研究の実験材料として日本に連れてこられた。その後、一ツ橋中尉と偽装結婚するが、一ツ橋が建国大学に赴任することになったため、折口の家に居候することになる。他人の心理に感応し易い余り自分の存在価値を他人の中にしか見出すことができない。日本名は一ツ橋照子(ひとつばし てるこ)。
土玉(どたま)
瀬条機関の研究員。木島が瀬条機関にいた時の同僚で、木島が組織を離れた後も何かと八坂堂に顔を出し、木島と組織のパイプ役をしている。研究分野は「水死体の研究」である。食えない性格で、死体を見ても全く動じない。なお、「どたま」とは通称で本名は土玉理(つちたま さとし)である『木島日記 乞丐相』収録の「キャラクターファイル」より。また、一ツ橋・清水・アーヴィング・安江・瀬条のフルネームも小説版の1巻と2巻を参照してある。
一ツ橋光治(ひとつばし みつはる)
陸軍中尉(後に大尉に)。自称「陸軍一の世渡り上手」。陸軍のあらゆる派閥にコネクションを持っており、二・二六事件の時も器用に立ち回り皇道派の人間だったのにもかかわらず出世する。瀬条機関ともつながりがあり、美蘭と偽装結婚する。
清水義秋(しみず よしあき)
陸軍少尉。二・二六事件の生き残り。事件後の粛清人事で処刑される事となり、本人もそれを望んで受け入れるつもりだったが、友人一ツ橋の尽力で不本意ながら生き続けることとなる。代償として軍の汚れ仕事である瀬条機関とのパイプ役をやらされている。
ナオミ・アーヴィング
ユダヤ人の神秘学者。SSの下部組織である「アーネンエルベ」や瀬条機関の分派である「東方協会」、関東軍とつながりがある。ナチスと日本軍の間を立ち回りながら、日本での特殊工作に従事している。ユダヤ人でありながらヒトラーの意向で行動しているのは、彼女にとって民族などというものは何の意味も無いからである。
安江仙弘(やすえ のりひろ)
陸軍大佐。関東軍特務機関長。ヨーロッパで迫害されているユダヤ人を満洲に迎え入れ、国際的懸念であったユダヤ人問題を一挙に解決する事で満洲国を国際社会に承認させ、ついでにユダヤ人の資本を満州に投下してもらおうという国家的陰謀である、暗号名「河豚計画」の推進者。問題を現実的に解決できれば細かいことはどうもいいというアバウトな性格で、五族協和にユダヤ人を加えて六族協和にしようと主張。陸軍の極秘計画を白昼堂々と大衆の前で演説する怪人。
根津(ねづ)
木島の助手の青年。殺人を担当。
瀬条景鏡(せじょう かげあきら)
東京帝国大学教授。大柄な体格。瀬条機関とは彼の研究室が根城の、帝大の最大派閥である。あらゆる分野の研究者を傘下に置いており、軍とも密接な関係にある。モットーは「人倫よりも知的好奇心を優先する」こと。

ゲストキャラクター

月(つき)
瀬条機関が某所より入手した人体実験用の少女。
昭和天皇(しょうわてんのう)
アーヴィング博士の実験を見物する。実験の結末を見届けた後の振る舞いが漫画版と小説版とでは異なっている。
ゼムス・チャーチワード
ムー大陸の存在を世に知らしめた書物『The Lost Continent of Mu』の著者。
ハインリヒ・ヒムラー
SSの最高指導者。ヒトラーとオカルト趣味が一致して重宝されている。
平賀譲(ひらが ゆずる)
海軍中将。「軍艦の神様」。
カール・ハウスホッファー
ドイツの地政学者。瀬条機関の前身である緑竜会の創設メンバーの一人。ヒトラーのブレーンであったが、妻がユダヤ人であるためヒトラーに疎まれている。UFOの設計図を日本に持ち込み木島に「仕分け」を依頼する。
スパイM
変装の名人。骨と皮がゴムの様に変化する特殊な顔で、どんな人間にも変装できる。木島の依頼で仕分けを手伝うこともある。元共産主義者でロシア語が話せる。
実在した人物で、赤色ギャング事件や熱海事件の黒幕といわれている。
辻政信(つじ まさのぶ)
陸軍少佐。関東軍参謀。満洲に足がかりを作ろうと活動している石原莞爾を信奉する一派に属し、決定的新兵器であるV7を手に入れようと画作。UFOの写真をマスコミにばらまき世論を煽り、革命家レオン・トロツキーと接触しようとする。

その他

酒井勝軍
モーゼの十戒石が日本にあると主張。
仲木貞一
脚本家。
竹内巨麿
天津教の教祖。
江川桜堂
「死のう団」の教祖。
円谷
国策映画会社東宝の特殊技術課課長。

単行本

  • 旧版 角川書店よりニュータイプ100%コミックスのレーベルにて
  1. 1999年11月4日発行 ISBN 4-04-853096-8
  2. 2000年12月22日発行 ISBN 4-04-853279-0
  3. 2003年7月10日発行 ISBN 4-04-853553-6
  4. 2003年7月10日発行 ISBN 4-04-853609-5
  • 新装版 角川書店より角川コミックス・エースのレーベルにて
    • 上:2009年4月28日発行 ISBN 978-4047151611
    • 中:2009年4月28日発行 ISBN 978-4047151963
    • 下:2009年4月28日発行 ISBN 978-4047152274

小説版

大塚英志の脚本を森美夏が漫画化したのを、大塚がさらにノベライズしたもの。漫画版とはストーリーや結末、人物名が一部変更されている。単なるノベライズではなく、漫画版には登場しない「語り手」が登場しており、木島平八郎が自分の体験を小説化した「偽書」→それを送りつけられた折口信夫が、木島の体験に自分の体験を書き加えて何者かに口述筆記させた「ノート」→そのノートを古本屋で偶然見つけた語り手が、それをノベライズした小説版「木島日記」、とまるで伝言ゲームのような実験的な手法が試みられている。

小説版オリジナルの登場人物

“語り手”
現代日本の人物である男性。名前は不明。木島平八郎の顔と同じ位置に生まれつき痣がある。元は折口民俗学の研究者であったが、大学院生の時に些細な一言が指導教官の逆鱗に触れてしまったため、アカデミズムでのキャリアを断念せざるを得なくなり、現在は地方の女子短大の講師をしている。ある日古本屋で折口博士が記したともそうでないともとれるノートを見つけ、その内容に惹かれた彼は生活費を稼ぐためにそのノートをノベライズしたいいかげんな小説をミステリー雑誌に偽名で発表し始める。(ちなみに彼はそのノートが折口博士とは無関係の人物が創作した偽書ではないかと疑っている。)

小説版の単行本

  1. 木島日記(角川書店:2000年:ISBN 4-04-873234-x、角川文庫:2003年:ISBN 4-04-419112-3。初出はKADOKAWAミステリ1999年11月号、12月号、2000年1月号、3月号〜5月号) - 第22回吉川英治文学新人賞候補作
  2. 木島日記 乞丐相(角川書店:2001年:ISBN 4-04-873327-3、角川文庫:2004年:ISBN 4-04-419118-2。初出はKADOKAWAミステリ2000年12月号〜2001年6月号) - 巻末に「キャラクターファイル」が収録されている。
※まんが版の『天地に宣る』のノベライズに相当する小説が『KADOKAWAミステリ』2002年4〜5、7〜11月号、2003年1、3月号に連載されたが同誌の休刊のため未完。未単行本化。

他の作品との関係

  • 『多重人格探偵サイコ』(田島昭宇画)と世界観がつながっている。
    • 『サイコ』に登場する「清水老人」と本作の「清水義秋」、『サイコ』に登場する「御恵てう」と本作の「ナオミ・アーヴィング」は同一人物である。
    • 瀬条機関と東方協会は『サイコ』に登場する科学者集団「学窓」の前身である。
    • 小説『多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還』には「清水老人は一ツ橋政友会のメンバーである」という記述がある『多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還』(角川文庫)74ページ
  • 木島は『とでんか』(樹生ナト画)にも登場している。
  • 土玉は『東京事件』(菅野博之画)にも登場している。
  • スパイMは『オクタゴニアン』(杉浦守画)、『三つ目の夢二』(ひらりん画)にも登場している。
  • 小説版第1巻第4話に登場したOは小説『昨日はもう来ない だが明日もまた……』『手塚治虫COVERエロス篇』(徳間デュアル文庫)収録にも登場している。
  • 小説『摩陀羅 天使篇』は「河豚計画」が完全に成功した世界を舞台にしており六族協和を理念として掲げる、アジアのイスラエルと化した満州国」が登場する。また、本作と同じく持衰が登場している。

関連項目

  • 偽書
  • 貴種流離譚
  • ロンギヌスの槍
  • 八百比丘尼
  • 河豚計画
  • 持衰
  • 死のう団事件
  • 戦艦大和
  • 津山三十人殺し
  • 優生保護法
  • フー・ファイター
  • 江藤淳 - 第10話『身毒丸』作中で神隠しに遭う少年のモデル旧版の第三巻の「あとがき」より(江頭淳夫は江藤淳の本名)
  • 横山茂雄英文学者。1954年生。横山の著書 『聖別された肉体』(白馬書房)は19世紀後半のヨーロッパで起こったオカルティズムの大復興運動がナチスに影響を与え、ハインリヒ・ヒムラーによる特殊機関「アーネンエルベ」(オカルト研究、ユダヤ人を使った人体実験等を行った)や「生命の泉」(”純粋な”アーリア人を作るための人為的に判別された結婚の奨励を行った)の設立につながった事や、戦前の日本でムー大陸説が南方支配を合理化するために政治利用された事から、オカルティズムと選民思想、ファシズムの親和性を説いた論考で『木島日記』の種本の一つである(『怪』vol.0018収録の横山茂雄と大塚英志の対談参照)。

脚註