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砂の栄冠/三田紀房

共有

著者: 三田紀房
巻数: 25巻

三田紀房の新刊
砂の栄冠の新刊

最新刊『砂の栄冠 25


シリーズ: ヤングマガジンKC


砂の栄冠の既刊

名前発売年月
砂の栄冠 21 2015-03
砂の栄冠 22 2015-04
砂の栄冠 23 2015-07
砂の栄冠 24 2015-08
砂の栄冠 25 2015-09

砂の栄冠』(すなのえいかん)は、三田紀房による日本の漫画作品。『週刊ヤングマガジン』(講談社)にて2010年30号から2015年37・38合併号まで連載された

概要

三田紀房による『甲子園へ行こう!』以来の長編野球漫画。

高校野球と金(かね)がテーマになっており、一般的な野球漫画と比べてブラックな要素が散見される。 また、高校野球を単なる学生スポーツとしてでなく「興行」であることを強調しており、野球部員たちが「さわやかな高校球児」を演じることにより試合を有利に進めようとする様が描かれている。

本作品の舞台は、選抜高校野球大会に過去2度出場した進学校である群馬県立高崎高校がモデルとなっている2012年4月16日付 上毛新聞

2014年にムービーコミック化されUULAにて配信された(詳細は#ムービーコミックの節を参照)。

あらすじ

学校創立100周年を迎えた年、樫野高校野球部は夏の県大会決勝まで勝ち進むも逆転負けを許し、あと一歩で甲子園出場を逃した。

特別支援が打ち切られ樫野野球部は並のチームに戻ってしまったが、野球部のファンである老人のトクさんは新チームのキャプテンとなった七嶋裕之に現金1000万円を託し、七嶋は再び甲子園出場を目指すこととなる。全国レベルのチームの実力を学ぶために甲子園球場へ行った七嶋は、高校野球マニアの滝本や小林と出会い、甲子園での戦い方を教わる。

秋の県大会では初戦から僅少差で勝ち上がり準優勝。続く関東大会は1回戦敗退ながら、後の優勝校相手に延長戦までもつれ込む善戦が認められ、樫野高校は21世紀枠でのセンバツ出場を果たす。そして甲子園でも七嶋の奮闘で優勝候補チームやダークホース相手に勝ち進み、チームは四強入りを成し遂げ、七嶋はこの大会のスターのひとりとなった。

しかしその後、センバツ4強であることに過剰な自信を持つ者や、高校野球選手として燃え尽きたかのような者が多く現れた。春の県大会はまさかの1回戦敗退、センバツでの活躍が認められ推薦出場した関東大会も同じく1回戦敗退。これをきっかけに、郡を中心に伸び伸びと部活をしようとする派閥「細眉派」と、七嶋を中心に厳しい練習を積んで試合に勝つことを目指す派閥「太眉派」とに分裂し対立、「第一次眉毛戦争」が勃発してしまった。

チーム内不和を抱えたまま迎えた夏の県大会。七嶋のふんばりでなんとか勝ち進み、決勝戦は七嶋が乱調ながらも逆転勝利。樫野高校野球部は初めて夏の甲子園出場を果たした。

大会を準優勝で終え埼玉に帰ってきて間もないある日の早朝、七嶋と遠藤はかつて1000万円を埋めた場所に甲子園出場記念品や1000万円を使った領収書などを収め、甲子園の砂をかぶせてその場を後にする。

登場人物

樫野高校

埼玉の県立高校。進学校であり、スポーツに特別力を入れている訳ではない。 夏の大会で戦った野球部のメンバーは、記念となる年に甲子園出場を果たすことを目指し特別に集められた3年生中心であり、秋からのチームの戦力は七嶋以外相当落ちてしまう状況だった。

七嶋裕之(ななしま ひろゆき):声:沢城千春
今作品の主人公。両投右打。投手。遊撃手。4番。180cm76kg。秋から年度いっぱいまでの主将。
最速150km/hのストレートやキレのいいスライダーを武器にしている。打者の胸元を徹底的につく抜群のコントロールと度胸があり、走者への牽制も猛練習の成果で巧みである。心肺能力が高くスタミナも抜群。関節が柔らかく、解説者から褒められるほどの投球フォームである。打者としては冷静な読みと鋭いスイングで勝負強く、足も速い。また守備範囲が広く、フィールディングは高校生離れした上手さである。プロのスカウト達から「投手ならば15勝以上出来るエース、打者ならば3割30本が狙える守備も上手い大型内野手になれる」逸材として注目されている。
小学生の頃は試合のときだけ出てきては大活躍をするという具合だった。両親の離婚により中学入学時は半ばグレていたが、先輩である中村優樹とその父の熱心な誘いと指導によりさらに野球の腕が上がった。甲子園出場のプレッシャーのかかる樫野高校に進むことを嫌がっていたが、優樹の誘いがあって入学することとなった。
力の落ちる新チームの主将に就くにあたって、そこそこ勝ってチームのみんなをある程度納得させられれば充分と考えていたが、トクさんから1000万円を託されたことや甲子園球場で滝本らに会ったことにより、本気で甲子園出場を目指すことを決意する。
誰もが認めるような主将であることを高校野球生活が終わるまで貫くと自分に課している。曽我部が無策な一方で、相手チームの特徴を掴み対策を練り、ナインに作戦を指示する。
また、樫野高校野球部が高校野球ファンに愛されるよう常に全力疾走を心がけ、挨拶もはっきりと発声し、部員全員で礼儀正しく振舞うようにしている。
理想的な主将として振舞っているが、昔から付き合いのある遠藤によると元々はひねくれている、ジコチュー、協調性ゼロ、野球を取ったら空っぽであるとのこと。
秋季大会後に身体の左右バランスをよくすることを目的に左腕でも投球練習を始めた。球速は遅くても出所が見えづらく打ちにくい投球が出来るようになり、左投げを本格的なものとしようと考えるようになった。そして、センバツ準々決勝でのアクシデントにより準決勝では左投げを実戦で披露。直後に実戦での左投げは封印すると公言したが、夏の甲子園で自身の成長を見せるため再び用いる。ストレートの球速は140km/hを計測し、チェンジアップも投げられる。
あだ名は「ナナ」。遠藤から「ヒロ」と呼ばれることもあるが抵抗を感じている。
名前の由来は、中島裕之『週刊ベースボール』2012年11月5日号 作者インタビュー
後藤久佳(ごとう ひさよし)
右投右打、捕手 6番。176cm78kg。
キャッチングが下手で、打撃は穴が多く鈍足。ピンチになるとパニックを起こしリードが出来なくなってしまうという具合だった。
他に捕手がいないため七嶋が育てることになる。秋の県大会までは完全に七嶋頼りであったが、関東大会の東横浜戦で七嶋から全面的にリードを任された事により成長が始まる。
あだ名は「ゴン」。
鈴木康貴(すずき やすたか)
右投左打、一塁手 5番。172cm64kg。
成績は優秀だが基本的に無口。守備は良い方。打撃の成績はイマイチだが、練習試合で代打二塁打を打ち、打撃センスの良さを常翔学院の木槌監督に褒められたことがある。あだ名は「ズッキ」。
郡健太郎(こおり けんたろう)
右投左打、三塁手 3番。176cm69kg。
シニア出身で野球センスはあるが、練習は手抜き。 また試合中に身の丈以上のプレーをしたりと軽率な部分もあった。「大舞台に強い男」と自称しており、センバツでは打撃面で活躍した。先輩の中村に続いて慶応大学へ推薦入学することを目指している。
七嶋ばかりが人望を集めているのを曽我部が嫌ったために、センバツ後に新たに主将を任された。しかし夏にかける熱意を失っており、眉を細くしてチームに弛緩した空気を持ち込み、七嶋を中心に熱心に取り組んでいる連中に水を差して対立するなど、主将としての役割は果たせていない。
あだ名は「グン」。
藤原大樹(ふじわら だいき)
左投左打、右翼手 2番。174cm67kg。
足は速いがベースランニングは遅い。包茎に悩んでいたが、夏休み中に手術を受けて解決した。
試合中は気合の声を出すことが多い。あだ名は「カマタリ」。
黄川田寛永(きがわだ・ひろなが)
右投右打、左翼手 7番。173cm64kg。
典型的「でもしかレフト」。実家は厳念寺という寺。あだ名は「ガンネン」。
田中大地(たなか だいち)
右投右打、内野手。左翼手。捕手。178cm76kg。
センバツの帝城戦序盤に、バントを失敗した黄川田に代わって出場。以前から七嶋に評価される選手だったが、長い間腰を痛めており出場機会は無かった。本職でないレフトを守ることになったことで、初めての守備機会では風に流されたフライを落としてしまったが、強肩で二塁を狙った打者走者を刺している。七嶋の頼みで3年春からは捕手の練習を開始した。あだ名は「ダッチ」。
安丸将太(やすまる しょうた)
右投右打、遊撃手。
稲山よりも守備が良いと評されているが、曽我部は見向きしていない。また、不運な怪我に見舞われ続けており、初めて試合に出たのは3年夏の県大会1回戦での代打でだった。あだ名は「マル」。
清水優希(しみず ゆうき)
右投右打、二塁手 9番。162cm52kg。
真面目で練習熱心だが体力不足。守備ではタイムリーエラーが非常に多かった。 チームの足を引っ張ってばかりでなんとか役に立ちたいという気持ちは持っており、非力ながらも打撃では粘り強い。あだ名は「ユウ」。
稲山準弥(いなやま じゅんや)
右投右打、遊撃手 8番。168cm61kg。
霊感があると言って部室に入りたがらず、外で着替えを行っている。
打球の処理は並だが送球が滅茶苦茶。あだ名は「イナ」。
志熊遼平(しぐま りょうへい)
右投右打、中堅手 1番。167cm62kg。
俊足強肩の外野手で七嶋から信頼されている。中学までは体操部と掛け持ちをしていた。
七嶋のホームラン以外には、志熊が出塁して七嶋が返すという形しか樫野高校の得点パターンがなかった。あだ名は「グマ」。
小泉洋嗣(こいずみ ひろつぐ)
右投右打、捕手。172cm65kg。
試合経験は少ないが、曽我部が気まぐれを起こした際に後藤に代わって急遽出場することがある。当初は緊張からまともな守備ができなかった。キャッチングやインサイドワークに難がある。しかし打撃は非力ながらバットコントロールが上手く、正捕手である後藤に負けていない。あだ名は無く、「小泉」と呼ばれている。
金子健介(かねこ けんすけ)
左投左打、投手。172cm63kg。
実戦経験が少ないながらも、七嶋がケガを負ったためセンバツ準決勝での先発を任された。重圧により、アウトをとるどころかストライクゾーンに投げることもできずに降板となった。七嶋の助言を受けて投球スタイルを変え、後の春季県大会では好投した。あだ名は「ケンケン」。
伊藤初彦(いとう はつひこ)
右投右打、投手。166cm60kg。
七嶋の実力や曽我部の選手起用の方針により、金子と同様に実戦経験が少ない。センバツ準決勝で金子の後を受けて急遽登板するも、ことごとく適時打を浴びて降板した。あだ名は「ハピコ」。
中村豪史(なかむら たけし)
右投右打、右翼手、投手。178cm86kg。
中村優樹の3学年下の弟。入学後の練習開始早々からフリーバッティングで柵越えを連発したり、140km/hを超えるストレートを投げたりして実力の高さを示した。どんな状況でも動じない図太い神経も有しており、将来性を見て取った七嶋から目をかけられている。各地の野球名門校からも注目されていたが、父隆之は自分の目の届かないところにいると成長しにくいと考えて樫野へ進学させた。部員からは「豪史」と呼ばれている。
曽我部公俊(そがべ きみとし)
監督、56歳。
樫野高校野球部における最大の問題点とされる。トクさんも野球部強化を考えるにあたって「あの人こそダメ」と述べた。
県立校野球部の監督として甲子園に春1回、夏2回甲子園出場経験があり「埼玉の名伯楽」と評されているが、実情は当時のチームに卒業後プロ入りした4番でエースの優秀な選手が偶然いたり、前任の監督が鍛えた強力チームに運良く転勤で赴任しただけのことであり、しかも最近のものでも15年前の話である。甲子園においては3度とも初戦敗退であった。樫野高校の夏の県大会準優勝の成績も同様に、3年生をはじめとする優秀な選手たちの力によるものである。
夏の大会で甲子園出場を逃した直後に他校への転勤願を出していたが、センバツ出場見込みが濃厚になったことで転勤願を取り下げた。
決まりきった采配しかせず、リスクを負うことを嫌う「動かれへん人」であるが、有名監督や強豪チームと対峙するときには対抗心を燃やして突拍子もない采配をすることが多々あり、チームを混乱させてしまう。七嶋らの努力で勝ちを得ても、それを自分の采配によるものだと試合終了後のインタビューで語る。なおかつ七嶋の力投を記者に聞かれても賞賛せずに素っ気無く応じ、自分でなく七嶋を褒めようとするマスコミ相手に不機嫌さを示したりする大人気ない面がある。部員たちからはもとより一部の部外者からも指導者として優秀ではないことを見抜かれている。甲子園でも名誉を掴み、講演活動をしたり本を執筆しようと考えている。
部員からは陰で「ガーソ」と呼ばれている。
中村隆之(なかむら たかゆき)
コーチ。優樹と豪史の父。
曽我部が忙しくなったことで、豪史の入部と同時期にコーチに就いた。曽我部の指導や采配を評価しておらず、言葉巧みに曽我部を操ることでチームを少しでも良い方へ導こうと動いている。
小沢智宏(おざわ ともひろ)
部長。OB会や後援会、曽我部との間で波風をたてずに何とかやりくりをしようとしている。面倒なことは他人にすぐ押し付ける曽我部の事は以前から嫌っている。反対に七嶋の試合に勝つための考えは尊重して協力してくれる理解者でもある。
加藤機一郎(かとう きいちろう)
168cm54kg。
1年生の秋に肩を故障して以降、裏方に徹し他校のデータ収集や分析に回っている。その他に腕利きの整体師を紹介したりと七嶋をサポートする。秋の関東大会前には、衛星放送チャンネルで数年分の試合を視聴し東横浜負けパターンを分析した。
七嶋のアドバイスを受け、ベンチでは学帽を被ってスコアラーを務める。父親は県庁勤め。あだ名は「カトキチ」。
遠藤蘭(えんどう らん):声:七瀬亜深
マネージャー。七嶋とは幼稚園からの幼馴染みである。実家はお好み焼き屋を営む。秋季県大会後、雨の夜に学校へ向かう七嶋を目撃し後を追っていったところ、札束を入れてある箱をグラウンドから掘り起こしている場面を見ることとなり、「1000万円」の秘密を知った。「伝説のノックマン」を雇うため、1ヶ月100万円の料金にもたじろがず、躊躇する七嶋を説得し3ヶ月分を前払いして雇う事を進言。金扱いの度胸があるとノックマンに評された。
センバツ出場が決まるもトクさんが交通事故に巻き込まれ入院すると、埼玉に留まり病院で面倒を見るため付き添った。
野球狂の父親が「ヒットエンドラン」にちなんで彼女を名付けた。
平井智恵子(ひらい ちえこ)
マネージャー。荒川の言動に対して困惑したり苛立ったりすることがしばしばある。
荒川千晶(あらかわ ちあき)
マネージャー。夏の大会後、野球部にマネージャーとして入部。事あるごとに七嶋に近付こうとする肉食系女子である。先輩からの指示に生返事をしたり、七嶋の活躍を見てはしゃいだりするなど軽薄な面が目立つ。父親は県立病院の整形外科医。
唐木慎介(からき しんすけ)
吹奏楽部部長。七嶋と同級生で中学時代からの友人。樫野高校オリジナルの応援曲「砂の栄冠」を作った。七嶋から作曲を依頼された当初は面倒事として断ったが、個人用のトランペットを用意することを持ちかけられ応じることとなった。

浦和秀学高校

通称「浦秀(ウラシュウ)」。七嶋曰く「超巨大目の上のタンコブ」。 男女共学生徒数1400名のマンモス私立校で、スポーツに力を入れておりどの分野においても全国大会の常連という強豪校。 特に野球部は看板で夏9回、春6回の甲子園出場を誇る。中学の有名選手が集まり、部員数は1,2年生だけで80名を超える。部内競争が激しいため、実力があっても3年間をスタンドでの応援で終える部員も多い。加藤曰く「Bチームでも県大会優勝できる戦力を持つ」。 七嶋が2年のとき夏の県大会決勝で樫野に勝利、秋季県大会準決勝、翌年の夏季県大会決勝でも樫野と対戦している。 眉毛を細くしている部員が多かったがセンバツ終了後に禁止し、さらにプレースタイルを堅実なものへと変えた。

森内忠博(もりうち ただひろ)
野球部監督、通称「モリチュウ」。
夏8回、春5回の甲子園出場を誇る正真正銘の名監督。人脈豊富で全国に顔が利く、残す目標は全国制覇。
独自の理論での選手育成に定評があり、その指導は厳しい。勝負所でもリスク覚悟の積極的な采配を行う。
浦秀野球部内で流行していた極細眉毛を快く思っていない。
榎戸航大(えのきど こうだい)
投手。右投、184cm80kg。東京都江戸川区出身。
中学時代は全日本シニアで優勝。入学の際に浦和秀学と東京の強豪の帝城高校との争奪戦があった。
MAXは148km/h。手が出ないと七嶋が言う程のスライダーをはじめ変化球も多彩。実力は申し分ないが、不快な事があると態度に出してしまうメンタルのムラがある。
郷原剛(ごうはら つよし)
三塁手。左打。
入学時に5番に入り2年夏から4番に座るスラッガーでホームラン通産31本。夏の県大会決勝でツーベースを2本、夏の甲子園でレフトスタンドへ1本塁打を記録。七嶋と同学年ながら年齢以上の貫禄を持つ。

東横浜高校

神奈川県の私立男子校。通称「東横(トーヨコ)」。野球部は全国トップレベルの強豪で、春2回 夏3回(うち春夏連覇1回)の全国優勝を果たしている。全国から有望な選手を集め、さらにエリート教育で鍛える。OBは大学、社会人、プロ球界で一大勢力となっている。

大渡武雄(おおわたり たけお)
東横浜で指揮をとって37年となる名監督。プロでスターとなった教え子でも相対すると直立不動となるほどの存在である。球威だけでなく逆算のピッチングにより打者を翻弄する頭脳的な投球術を七嶋が身に付けていることを即座に見抜いた。
米倉精三(よねくら せいぞう)
野球部部長。30年以上にわたって大渡を支えている。育成能力、対戦相手の分析、ノックの技術などに定評がある。関東大会の樫野戦序盤で、後藤が未熟なため七嶋がマウンドから勝負球のサインを出している事を見破った。軟式出身で無名の七嶋が全国屈指の好投手・好打者であることに気付き、自分の学校に誘えなかった事を後悔している。
蝶野宗明(ちょうの むねあき)
投手。
「なに食ってんだよ」と七嶋が言う程大きな体格の持ち主で、150km/hを超える速球を武器にする。シニア時代に全国優勝の経験があり、メジャーリーグのスカウトも注目するほどの逸材。プロを目指すには強豪高校に入部し、優秀な監督・コーチから指導を受けて競争に勝つべきと考えていて、公立校の七嶋のことは競争から逃げていると思って見下している。

大阪杏蔭高校

大阪の野球強豪校。関西の野球少年たちの憧れの存在であり、入部してくる者は「エースで4番」だった者ばかりである。

寺門伸隆(てらかど のぶたか)
監督。チームにはエースや4番だった「オレ様選手」ばかりが入ってくるため、年度始めから彼らの鼻をへし折っている。「テラモン」の愛称で親しまれている。
権上力也(ごんじょう りきや)
巨漢の超高校級選手。シニア時代の実績は強烈なものでもなかったが、寺門に才能を見い出され1年春からベンチ入りをしていた。来た球を何も考えずに打ちにいくタイプの選手だが、それでホームランを量産してしまう能力の持ち主である。

帝城高校

東京にある野球強豪校で全国制覇は春2回、夏2回果たしている。選手たちは毎食3合の米を食べており体格がよい。関西の高校野球ファンからも比較的人気がある。

前川吉男(まえかわ よしお)
初老の監督。奇策を多用することで有名であり、ベンチの前まで出て大きなジェスチャーで指示を出す姿はお馴染みである。帝城野球部を無名時代から鬼の指導で鍛え上げてきたが、最近はやんちゃな子ではなく優等生ばかり入部してくるのが寂しいと感じている。
武藤拓矢(むとう たくや)
投手。1年のときから150km/hを超える速球を投げていた。一時は調子を落としていたが、再び注目される選手となった。

兼六学館高校

石川の私立校。野球部は昔からの強豪であるが、ある時期から甲子園とは遠ざかっていた。再強化のために釘谷監督を招聘し、部員は100人程いたところを1学年15人の少数精鋭教育に切り替えた。我が強い選手が多く集まっており、チームプレーに関する評価は高くない。

釘谷康之(くぎたに やすゆき)
監督。細かな守備練習や部員の生活指導にはほとんど手を出さず、外からの評判はよくない。さらに、取材する記者に横柄な態度を見せることがある。今の身分は一時的なもので、成果を上げていずれは母校の監督になりたいと考えている。
風谷由多加(かぜたに ゆたか)
主将。背番号15の控え選手。兼六のほかの選手たちとは違いベンチからも熱心に声援を送り続けていた。七嶋はそのような彼の姿を見て気にしていた。

苫大駒小牧高校

北海道のチームで初めて全国制覇を果たした学校。守備のバックアップを徹底して鍛えている。応援のブラスバンドの細やかさもファンの間では好評価。

香野勲男(こうの いさお)
野球部監督。北海道に初の甲子園優勝をもたらした人物。その優勝は熱狂の後押しによるものであったと感じており、球場全体の空気の怖さを知っている。

甲子園常連組

毎年春夏の甲子園大会を毎試合観戦しているグループの一つ。 通しで入場券を買っており、バックネット裏中央の良い席を確保するため4人の交代制で席取りを行っている。 七嶋はここで彼らと知り合い、甲子園(高校野球)の戦い方を知ることになる。

滝本(たきもと)
七嶋のチーム作りにおいて小林と共に影響を与えた人物。
10歳だった子供を病気で亡くし、その後離婚。意気消沈していた時に甲子園と出会い、以来30年観戦を続けている。本人曰く「下手な監督よりも甲子園を知っている」。
個人タクシーの運転手で1年間働いたお金を春と夏の甲子園大会の観戦に使っている。
ほとんど金を持たずに甲子園観戦に来た七嶋に食事をご馳走し自宅に泊め、甲子園で無名の初出場校が勝つための様々な助言をした。
小林(こばやし)
高級石材店の3代目社長。年に2,3件しか仕事がないため、春,夏,秋と全国の高校野球の試合を観て回っている。
プロ野球のスカウトとも知り合いである。
樫野高校の練習を見学した際に守備のマズさの原因を指摘、伝説のノックマンの存在を七嶋と遠藤に教えた。
トシエ
典型的な大阪のオバちゃんだが、常連だけあって野球を見る目は鋭い。七嶋の事を気に入り何度も飴をあげた。
金田(かねだ)
いつも酔っ払っているか寝ている。
七嶋が甲子園に来た当日、急に来れなくなったため、七嶋は滝本から金田の席を譲ってもらい知り合うこととなった。

その他

トクさん
樫野高校の近く住んでいる老人で、樫野野球部のファン。毎日のように飼い犬のタローを連れて練習の見学に来ている。30年来グラウンドに顔を出していると伝えられているが、本名は知られていない。
夏の大会の敗戦後、野球部の後押しができたはずだったと悔いて、七嶋に現金1000万円を託す。校長、OB会会長、監督を信用できない人物だと判断し、部内で唯一信頼できると判断した七嶋へ秘密裏に渡した。その一方で、七嶋に重圧をかけてしまったことを気にしている。
センバツ直前に交通事故に遭い入院。病室のテレビの前で樫野野球部を応援することとなった。
七嶋にとってトクさんを甲子園に連れて行く最後のチャンスとなる夏季県大会決勝の前日に心臓病の悪化で倒れ、そのまま亡くなってしまう。七嶋の母と遠藤の両親は誰にも漏らすまいとしていたが七嶋と遠藤の知るところとなってしまい、2人は大ショックを受けてしまった。
七嶋和子(ななしま かずこ)
七嶋裕之の母親。県立病院の看護師として日勤も夜勤もこなしながら、息子が主将を務めていたときは樫野野球部父母会の会長となっていた。七嶋が小学6年の時に夫と離婚し母一人子一人で暮らしてきた。
息子が元々主将向きでないと知っているため心配していたが、トクさんのおかげで自覚が出来て頑張る事が出来たと理解し感謝している。七嶋がドラフト候補と騒がれても浮付くことがなく、七嶋の活躍で樫野が勝ち進んでも鼻を高くしたりもしない。逆にエラーしたり活躍できなかった選手の親をいつも励ましている。
伝説のノックマン
秋の県大会後に樫野高校に来た臨時コーチ。
本名は不明で、アメリカの大学チーム、キューバのナショナルチームやドミニカベースボールアカデミーなどでノッカーをしていたことを除いて経歴も不明。初めて樫野高校を訪ねた時に、何も言わずに神業のようなノックを見せつけ樫野の野球部員たちを驚愕させた。ノックの技術に長けているだけでなく守備全般に精通している。
表向きは七嶋の知り合いでボランティアとして指導するという形をとったが、実際のコーチ料は1ヶ月100万円と高額で、たとえ相手が高校生であっても一切スタンスを変えないビジネスライクな性格。
その翌年、長崎•下五島高校の野球部監督となり堅い守りを武器とするチームを作り上げ、夏の甲子園に出場。「山田一男」と名乗っている。
東横の首脳陣と面識があり、プロチームのスカウトにも存在を知られている模様。
中村優樹(なかむら まさき)
隆之の息子で豪史の兄。七嶋より1学年上の先輩。エース投手で4番打者だった。甲子園出場の期待がかかる最後の夏の大会では、「エースに投げさせておけば問題ない」「控え投手を使って負けたら責任を問われる」という曽我部の考えによって、県大会決勝までを1人だけで投げ抜くこととなり、決勝戦では肉体的、精神的疲労により勝ちを逃してしまう。
中学時代からの七嶋の先輩であり、周囲からの重圧をひとりで背負う責任感の強さから尊敬され慕われている。
卒業後は慶応大学へ推薦入学した。
大月翔馬(おおつき しょうま)
岩手•花湧東高校の投手。
樫野高校と練習試合で対戦。最速160km/h近い速球を投げる。七嶋から「天然」と思われるようなプレースタイル、そして試合中でも食事のことを考えているような人物だが、チーム一丸で日本一を勝ち取ることを目標としている。
才賀直樹(さいが なおき)
宮城•東国高校の投手。身長196cm。
樫野高校と練習試合で対戦。小学生時代から有名な選手で、多彩な変化球を用いる。チーム内で浮いていて外部からも悪く思われかねない自身の立場を受け入れており、自分個人の力だけでも勝ててこそ一流選手であると思っている。
佐藤一敬(さとう かずひろ)
腕利きの整体師。プロ選手も利用するほどだという噂があり、院内には酸素カプセルを備えている。樫野野球部OB整体師の腕を嫌った七嶋が「1000万円」の一部を使い通うこととなった。
マッサージを施すだけでなく、試合における投手のスタミナ維持方法を教えたり、夏大会直前の調整方法の相談に乗ったりして七嶋を支えた。
真儀井志郎(まぎい しろう)
佐藤が七嶋に「テーピングの魔術師」として紹介した人物。センバツ準々決勝でのケガで練習すらできなくなっていた七嶋に処置を施し、次の試合で投げられるようにしてみせた。
千藤雅仁(せんどう まさひと)
元Jリーガー。フリーキックの名手として知られる選手だったが29歳で引退。愛称は「マット」。
七嶋らが地面に置いたサッカーボールを打つという練習を始めたことを聞いた遠藤の父が、いっそのこと前から飛んでくるものを打つのがいいと考え、なじみ客で失業中の彼を紹介した。
ノックマンと同様に、秘密裏に1ヶ月100万円の契約を結んで樫野野球部の練習に参加。一月後、再びサッカーで身を立てることを決意した。
茅刈久美子(かやかり くみこ)
フリーライター。取材の際に七嶋が「高校球児らしさ」を演出するために言葉を選んでいることに気づき、興味を持つようになる。
武光誠四郎(たけみつ せいしろう)
広島東洋カープ関東地区担当スカウト。小林とは知り合いで有望な選手情報を交わす間柄である。七嶋の「投球フォームを自然に修正する」天性のボディバランスを見抜き、周囲に騒がれる前から是非ともドラフトで獲得したいと目を付けていた。
ちなみに彼は三田作品の短期連載「スカウト誠四郎」の主人公であり、作品の枠を超えて登場。元プロ野球選手で内野手出身。強打者として期待は大きかったが気の優しい性格が災いしてかプロで目立った実績は残せず退団後は一般の会社で第二の人生を歩んでいたが、球団に誘われてスカウトに転進した。
影山堅司(かげやま けんじ)
千葉ロッテマリーンズ関東地区担当スカウト。七嶋のことは投手としてよりも打者としての能力を高く評価し大型内野手として期待している。
彼も「スカウト誠四郎」の登場人物で「黒影」の異名を持つ敏腕スカウト。マスコミ人気が先行する話題の選手には目もくれず、球団の現状戦力で何が不足しているかを冷静に分析し無名に近い即戦力の選手を発掘している。元々は投手として騒がれた甲子園球児であったがプロでは大成せず、早々に見切りをつけスカウトになる事を自ら望んで球団に売り込んだ異色の人材。
熊沢徹也(くまざわ てつや)
北海道日本ハムファイターズのスカウト。七嶋が球威・球速だけでなく大変したたかな頭脳的ピッチングで打者を抑えていることを見抜き、また打者としての能力にも高評価を与えドラフト1位で獲得する意欲満々である。樫野高校の躍進は曽我部によるものではないことも見抜いている。

用語

1000万円
七嶋がトクさんから託された大金。部内でその存在を知っているのは七嶋と遠藤だけである。もともとは樫野高校が甲子園出場を決めた際に応援団を送るために寄付するつもりで貯められたお金だった。七嶋は甲子園出場まで決して手をつけないと決心し樫野高校のグラウンドに埋めたが、夏の甲子園大会を観戦するため交通費が必要となり手をつけてしまう。以後、チーム強化のために使われることとなる。
砂の栄冠
樫野高校野球部オリジナル応援曲の名称。高校野球ファンに好かれるチームにするためには独自の曲による応援が必要という考えから、七嶋が唐木に作曲を依頼した。1000万円をグラウンドの砂に埋めたことと、全国高等学校野球大会の歌「栄冠は君に輝く」が七嶋の頭に浮かび、このように命名された。
宇宙空間
滝本が七嶋に教えた概念のひとつ。球場の観客全体が一方のチームを勝たせたいという気持ちになれば、球場にひとつの「宇宙空間」が出来上がる。
ちぎっちゃ投げ投法
センバツ後に七嶋が金子に勧めた投法。紙つぶてを次々と投げるイメージで大きすぎる動きを小さくするもの。
かつて『クロカン』に登場したもので、そちらでは、何も考えることもなく実際に濡れた新聞紙を投げ続けるトレーニングを行っていた。七嶋はこの投法について「どこかで見て覚えたものだが忘れた」と述べた。
眉毛戦争
春季関東大会での惨敗の直後に曽我部が怒りにまかせて長時間の説教をし、締まりがなかったチームをさらに白けさせるものとなった。その翌日に主将の郡が眉毛を細く整えて部活に顔を出し、多くの部員が追従した。
その結果、すでに甲子園出場を叶えてしまったためにこれからはのんびりと野球をやろうという「細眉派」(郡派)と、トクさんを甲子園に連れて行けなかったためにさらに夏の甲子園を目指す七嶋や彼と共に厳しい練習をこなす「太眉派」(七嶋派)で分かれる事態に。
かねてから七嶋のリーダーシップを買っている中村コーチと、七嶋を主将から降ろしたものの大会で負け続けるわけにはいかない曽我部の方針が合致し、郡と七嶋の両者を立てることにしたが、派閥間ではよそよそしささえ漂っていた。再び甲子園出場となったときにチーム全体の分裂状態は自然と解消されていたが、郡は度々七嶋に喰ってかかることが続いている。

単行本

  1. 2010年12月06日発売 ISBN 978-4063619775
  2. 2011年01月06日発売 ISBN 978-4063619850
  3. 2011年03月04日発売 ISBN 978-4063820102
  4. 2011年06月06日発売 ISBN 978-4063820409
  5. 2011年08月06日発売 ISBN 978-4063820638
  6. 2011年11月04日発売 ISBN 978-4063821017
  7. 2012年03月06日発売 ISBN 978-4063821475
  8. 2012年04月06日発売 ISBN 978-4063821567
  9. 2012年08月06日発売 ISBN 978-4063821932
  10. 2012年11月22日発売 ISBN 978-4063822359
  11. 2013年03月06日発売 ISBN 978-4063822731
  12. 2013年04月05日発売 ISBN 978-4063822823
  13. 2013年07月05日発売 ISBN 978-4063823172
  14. 2013年08月06日発売 ISBN 978-4063823363
  15. 2013年11月06日発売 ISBN 978-4063823707
  16. 2014年03月06日発売 ISBN 978-4063824292
  17. 2014年04月04日発売 ISBN 978-4063824483
  18. 2014年07月04日発売 ISBN 978-4063824841
  19. 2014年08月06日発売 ISBN 978-4063824988

ムービーコミック

2014年3月10日よりスマートフォン向けのアプリ「UULA」にて漫画に音声や特殊効果を加えたムービーコミックが、全36話配信された

キャスト
  • 七嶋裕之:沢城千春
  • 遠藤欄:七瀬亜深
  • トクさん:佐々健太
  • 曽我部公俊:近藤浩徳
  • 新川千晶:千葉泉
主題歌
  • 東京女子流『頑張って いつだって 信じてる』

脚注