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黒博物館スプリンガルド/藤田和日郎

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著者: 藤田和日郎
巻数: 1巻

藤田和日郎の新刊
黒博物館スプリンガルドの新刊

最新刊『黒博物館スプリンガルド


出版社: 講談社
シリーズ: モーニングKC


黒博物館スプリンガルド』(くろはくぶつかんスプリンガルド、英題名The Black Museum Springald)は、「モーニング」(講談社)に2007年5月24日号(26巻23号)から2007年6月28日号(26巻28号)まで連載された 藤田和日郎の青年漫画作品。

また、上記作品の続編が、『黒博物館スプリンガルド異聞マザア・グウス』(くろはくぶつかんスプリンガルドいぶんマザア・グウス、英題名The Black Museum Springald)として「モーニング」(講談社)に2007年8月2日号(26巻34号)から連載された。

本記事では、その双方について記述する。

概要

19世紀のイギリス帝国を舞台に、ヴィクトリア朝の典雅で重厚な雰囲気の下、実在の人物や実際の事件といった史実を織り交ぜつつ、メカやアクションを描いたダーク・ファンタジー作品である。デビュー以来、藤田は一貫して小学館の雑誌に作品を掲載しており、本作は藤田にとって初の講談社媒体への連載である。

あらすじ

1837年、大英帝国の首都ロンドンに、女性ばかりを狙って悪戯をする犯罪者が現れた。脚に「バネ足」を仕込み高く跳び上がり、目と口を光らせ、奇怪な声で笑う怪人物は、イギリス国民から「バネ足ジャック」と呼ばれ恐れられた。しかし、1838年春、犯人 は逮捕されることなくその姿を消した。

それから3年後の1841年、「バネ足ジャック」は再び姿を現した。悪戯ばかりでなく女性を殺害する殺人鬼となって……。

登場人物

thumb|200px|仁賀克雄により「ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド」のモデルと指摘されたウォーターフォード侯爵ヘンリー・デ・ラ・ボア・ベレスフォード thumb|200px|「バネ足ジャック」の警衛にあたったウェリントン公アーサー・ウェルズリー thumb|200px|ウェリントン公アーサー・ウェルズリーに警衛を命じたイギリス国王ヴィクトリア thumb|200px|イギリスで「バネ足ジャック」騒動が発生した際に描かれた想像図 thumb|200px|逃走する「バネ足ジャック」を描いた絵画。第1回にて、酷似した絵が新聞に掲載されている thumb|200px|ウィリアムに催眠術を指導したフランツ・アントン・メスマー

ジェイムズ・ロッケンフィールド
ロンドン警視庁警部。3年前の「バネ足ジャック」事件では捜査主任を務め、ウォルターが犯人ではないかとを疑うが 逮捕には至らなかったため、3年ぶりに再来した「バネ足ジャック」の捜査に執念を燃やす。葉巻を愛用するヘビースモーカー。トレードマークの葉巻を左耳に挟む姿から、「スコットランドヤードの機関車男」との異名を持つ。
余談だが、同作家による漫画『からくりサーカス』にも「スティーブ・ロッケンフィールド」という人物が出演しており、一部の読者から両者の関連性をめぐっての諸説が展開された。
ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド
侯爵。オックスフォード大学出身。アイルランドやイングランドに広大な領地を持ち、大きな館に居住している。幼くして愛情を注いでくれた母親が亡くなり、冷厳な父親・うわべだけの愛情を注ぐ継母・家庭教師・メイドに囲まれて育っていった。青年期からは社交界で活躍し、蒸気機関車同士を正面衝突させたり、パブで喧嘩や放火騒ぎを起こしたりと、放蕩の限りを尽くす。
フランシス・ボーモン
准男爵の長男。オックスフォード大学出身。「卿」と呼ばれているが爵位などは不明。「機械工学の天才」と謳われ、「バネ足ジャック」のバネ足も開発した。ハートフォードシャーにあるカントリーハウスに自身の研究室を構えている。研究室にはウォルターは招き入れるが、メイドには立ち入りを禁じている。眼鏡を愛用している。
マーガレット・スケールズ
ストレイド家客間メイド。ツーティング・ベック・コモンの牧師の家に生まれるも、両親が病死、14歳のとき収容された救貧院で病に侵され、その後遺症で足が不自由となる。3年前、ウォルターが扮した「バネ足ジャック」に遭遇するが、臆せず平手打ちを喰らわせ、他者を脅かすのをやめるよう諭す。その後、偶然、ストレイド家に雑役メイドとして雇われる。ヘンリーと婚姻する。
ヘンリー・シェルビー
弁護士。ウォルターの引き起こす騒動に伴いストレイド家に出入りするうちにマーガレットを見初める。
ダニエル・カバナー
ロンドン警視庁巡査部長。3年ぶりに発生した「バネ足ジャック」事件では、上司のジェイムズとともに捜査に従事する。「バネ足ジャック」に遭遇したアーサーの身を案じ庇う。
ロンドン警視庁警視総監
3年前の「バネ足ジャック」事件の捜査では、貴族であるウォルターが有力被疑者と知り、ジェイムズに捜査中止を命じた。また、ジェイムズ、ダニエルにアーサーの身辺警護を命ずる。
アーサー・ウェルズリー
ウェリントン公爵。元首相。ワーテルローの戦いではイギリス陸軍、オランダ陸軍を指揮し、フランス皇帝ナポレオン1世率いるフランス陸軍を撃破した。その存在は民衆からも「イギリスの伝説」と称えられ、「国の重要人物」と見なされている。「バネ足ジャック」事件では、犯人を逮捕できないロンドン警視庁に業を煮やし、自ら乗馬姿で兵を率い、警衛に従事する。なお、警衛の際は、兵士以外にも、拳銃を携帯したアーサー専属の護衛が侍っている。その老いた威容はパブに屯する酔客にまで安心感を与えていた。ウォルターからの告発に基づき、フランシスを逮捕するべく邸宅を包囲した。
ヴィクトリア
イギリス国王。22歳の若き君主だが、アーサーに「バネ足ジャック」への警衛を命じるなど、その手腕には民衆からも一目置かれている。
マーチ
ストレイド家家政婦。主人であるウォルターの突飛な行動にはいちいち驚かず、若干諦めの色が見える。
ポリー・アダムズ
ホテル「グリーンマン・イン」ウェイトレス。1837年10月11日、17歳のポリーは、ホワイトフィールド・マウントにて「バネ足ジャック」に遭遇し、両乳房を露出させられ、「バネ足ジャック」事件の最初の被害者となった。
メリー・スティーブンス
21歳の女性。親戚宅からの帰路、「バネ足ジャック」により左肩から右脇腹を切り裂かれ殺害される。
ドーソン
トミー一家に所属するゴロツキ。売春婦にショバ代をせびっていたところをジェイムズに殴られる。
学芸員(キュレーター)
ロンドン警視庁黒博物館学芸員。黒色のドレスを身に纏い、顔にかかった金髪により左目が隠れている。黒博物館を訪れたロッケンフィールドに「バネ足ジャック」のバネ足を見せ、「バネ足ジャック」事件の逸話を知る。本作は語り手の回想を学芸員に対し聞かせる形式を採っていることから、読者と同じ立場といえる。

マザア・グウス

ジュリエット
侯爵令嬢。オスカーとベアトリスの娘。ウォルターの姪。口癖は「あっ、きれた~(呆れた)」。表面的には権威に対する意識が高いため、アーサーに階級の自覚を説くが、侯爵令嬢と知られて敬語を使われたときに、寂しげな表情を見せた。
ウィリアムによって催眠術を掛けられたため自ら服を脱ぎ、ウィリアムに裸体を写真に撮らせてしまう。そのため、ウィリアムに対する復讐と他の幼女の救出を企て、ウォルターの遺したトランクを探しにシェルビー家を訪れる。
アーサー・シェルビー
ヘンリーとマーガレットの息子。普段は気弱だが、科学を悪用する者には毅然とした態度をとる。科学に関する関心と知識は人一倍で、写真や催眠術の原理を諳んじることが出来る。
ジュリエットに対しては、当初はタメ口を利いていたが侯爵令嬢と知ってからは敬語で話しかけるようになる。最終的には「お願い」されてタメ口に戻す。
ウィリアム・ホルム
大学教授。ウイーンにてフランツ・アントン・メスマーより催眠術の手ほどきを受ける。また、写真術も体得している。芸術的な写真を撮るとの触れ込みで貴族たちの子女の撮影を申し入れ、受諾した多数の幼女を自宅に招き、屋敷の最上階のガラス張りのスタジオで撮影していた。しかし、自宅を訪れた幼女に対し催眠術を掛け幼女の衣服を脱がし、その裸体を写真に収めることを趣味としている。また、自宅の周りには用心棒代わりのならず者を多数配している。
オスカー・ピーポディ
ロンドンの侯爵。ジュリエットの父で、ベアトリスの夫。ジュリエット曰く「けっこう俗っぽくって『芸術』ってコトバに弱い」。また、娘の恩人ともいうべきアーサーに対しても、「シェルビー家」が聞いたことの無い家名ということで、通り一遍の礼しか述べなかった。
ベアトリス・デ・ラ・ボア・ストレイド
侯爵夫人。ウォルターの妹。ジュリエットの母で、オスカーの妻。夫同様に、アーサーには通り一遍の礼しか述べず、別れを惜しむジュリエットを「はしたない」と戒める。
ただし、シェルビー姓を耳にしたコマでは、顔にジュリエットのフキダシが被さっていたため、「本当はシェルビー夫妻について知っており、ジュリエットがウォルターの二の舞を演じることを危惧していた」という説を唱える読者も存在する。
スミス
シェルビー家園丁。アーサーらと親しげに会話をする。

各話タイトル

各話の話数は、「第1回」、「第2回」、…、のように「回」での表記となる。

  1. バネ足男の登場
  2. バネ足男の正体
  3. バネ足男の驚愕
  4. バネ足男の思い出
  5. バネ足男の戦い
  6. バネ足男の退場

マザア・グウス

各話の話数は表記されていない。

  1. 前編
  2. 中編
  3. 後編

その他

  • 「モーニング」には仁賀克雄の『黒博物館館報――閲覧の手引き』が連載されている。

関連文献

  • マザー・グース第1巻(谷川俊太郎訳、講談社、1981年)ISBN 4061331485 - 本作にて引用されている。
  • マザー・グース第2巻(谷川俊太郎訳、講談社、1981年)ISBN 4061331493 - 本作にて引用されている。
  • ロンドンの怪奇伝説(仁賀克雄著、メディアファクトリーダヴィンチ編集部、2002年)ISBN 9784840106467 - 藤田は同書を読み本作の執筆を思い立った藤田和日郎『黒博物館スプリンガルド』講談社、2007年9月21日、246頁。

関連項目

  • シュルレアリスム
  • からくりサーカス
  • 谷川俊太郎
  • マザー・グース

外部リンク

脚注