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5五の竜/つのだじろう

共有

著者: つのだじろう
巻数: 3巻

つのだじろうの新刊
5五の竜の新刊

最新刊『5五の竜 3


出版社: 中央公論
シリーズ:


5五の竜の既刊

名前発売年月
5五の竜 1 1989-04
5五の竜 3 1989-05

5五の龍』(ごごのりゅう)は、つのだじろうによる将棋をテーマとした漫画作品。当稿では本作の続編ともいえる『虹色四間』(にじいろしけん)についても解説する。

※以下の内容の出典は、『虹色四間』を除き全て愛蔵版からとなっている。

概要

「週刊少年キング」(少年画報社)に1978年から1980年まで連載された。単行本はヒットコミックスで全10巻、後に愛蔵版として中央公論社から全2巻、中公文庫コミックス版として中央公論社から全6巻が発売された。愛蔵版では中原誠連載当時五冠王時代の最盛期だったや大内延介、中公文庫コミックス版では羽生善治らが推薦文を寄せている(ただし愛蔵版で登場している棋士の推薦文については、中公文庫にも同じ推薦文が流用されている)

もともと多趣味で凝り性だった作者つのだじろうは、将棋の勉強にも没頭した。町で一番将棋が強かった父親に徹底的に負かされた事が、その理由の一つと言われている。本作の連載開始時にはアマ三段、平成元年に中原誠 ・田中寅彦 ・谷川浩司らの推薦でアマ四段まで取得している。

作品が生まれたきっかけは、当時の少年キングの戸田編集長から将棋漫画を描けないかと相談された事だった。将棋に詳しいがゆえに、つのだは将棋対局を漫画化する難しさも把握していた。しかしこれまでの漫画は駒の配置などが適当な物ばかりで不満を感じ、徹底的な準備・研究の後に、「少年誌唯一の本格将棋漫画」と銘打って本作の連載を開始した。

本作は作者自身も気に入っている作品なのか、つのだじろう公式サイトの表紙を飾った事もある。

特徴

  • 駒の動きが非常にわかりやすい。ポイントとなる場面ではあえてページを費やし、将棋の初心者・中級者でも理解できるよう配慮されている。そのため本作は一般的な将棋の本などとは異なり、(ある程度の棋力があれば)将棋の駒と盤がなくても読み進む事ができるもちろん実際に棋譜を並べれば、より本作の面白さを実感できる。
  • 読み進むにつれ、将棋界全体を知る事ができる。将棋連盟や奨励会の構図、将棋のマナー、将棋の歴史、時事ニュースなどが自然に身につく。さらに本作では真剣師などの裏社会や奨励会の厳しさなど、あまり一般的ではない部分にも光があてられている。
  • 本作を監修しているプロ棋士が複数存在している。彼ら専門家により重要な局面の分析がなされていて、高度で正確な評価に触れる事ができる。
  • 駒落ちの定跡を重視し、基本の流れを紹介。また、その勉強が必要な理由まで丁寧に説明している。特に香落ちは奨励会にもよく登場するため、他の駒落ちよりも多く描写されているまた飛車落ち定跡については、つのだじろう独自の研究も紹介している。。当初は駒落ち将棋に偏見があった主人公これは主人公の竜だけでなく、将棋の初心者全般の傾向でもある。も、のちに駒落ち定跡をアマチュアに指導するまでになった。
  • 将棋の内容ではなくストーリーや演出に注目しても、本作の面白さを十分味わう事ができる。欠点だらけの主人公が将棋を通じて徐々に成長していくプロセスや、個性的でありながら現実味のある人間たちの壮絶なドラマは、あまり将棋を知らない読者をも魅きつけている。

前述の愛蔵版において、専門棋士達も以下のように評価している。

  • 中原誠 「マンガとしての面白さも一級、棋書としても名著に加えたい一冊」
  • 大内延介「将棋界の全貌が浮き彫りにされた、漫画ノンフィクションの大傑作」
  • 田中寅彦 「仲間たちの個性豊かなキャラクターと息をつかせね白熱戦など、読み物としての面白さはもちろんですが、将棋が自然に強くなるように仕組まれた作品だと思います」

あらすじ

物語の前半

中学生の駒形竜は、雇われ選手として草野球に参加したり、宿題を有料で手伝うというアルバイトの日々を過ごしていた。級友たちから金にガメツイと悪評を叩かれるが、実は将棋に明け暮れる父親・竜馬の代わりに貧しい家計の足しとするためのバイトであった。

ある日竜の自宅に、真剣師の虎斑桂介が現れる。約束していた五年に一度の、掛け金100万円の決闘を果たしに来たのだ。父親が真剣師であることを知り動揺する竜。この時に、父から「お前(竜)が俺と勝負して勝ったら真剣師から足を洗う」という約束を取り付ける。

父と虎斑桂介との決闘。それは裏の将棋界での決闘であった。持ち時間無制限・席を立つのは小用の時のみ・食事や睡眠時間も一切なし。約束をたがえた場合は命を取られても文句はいわないという、まさに死闘ともいうべき将棋の対局であった実際その対局も一日では終わらず、日をまたいで勝負は続いている。。場所は宗桂寺宗桂寺の名称は、安土桃山時代の将棋初代名人大橋宗桂より。の境内であったが、大雨の中でも中止せず二人は目隠し将棋で屋外での対局を続けた。ついに竜馬が急性肺炎をおこしかけて救急車で運ばれたため、父親の代理として竜が名のり出た。竜の根性を買った虎斑桂介は対局の中断を許可し、意外にも更に一年間の猶予を与えたこれは虎斑の好意ではなかった。彼は勝負が優勢であるのを見越して、実力が劣る中学生の竜に難なく勝つつもりであった。わざと際どく指して竜の再挑戦を誘い、竜馬にかわって今度は竜に「おとくいさん」(カモ)になってもらう算段であった。

約束の一年後の勝負に勝つため、竜は将棋会館に通うようになる。中学生名人戦にも参加し、さまざまなライバルたちと出会う事になった。 (この頃から竜はプロ棋士を意識するようになる。)そんな中、「ミス・タイガー」と名のる同年代の娘に遭遇する。彼女の本名は虎斑桂、虎斑桂介の実の娘であった。その後、虎斑桂介は不慮の交通事故で死亡してしまう。虎斑桂介の遺言により、彼の娘である桂と竜馬の息子である竜が、中断されていた勝負を引き継ぐ事になった。それを聞いた入院中の竜馬は、「執念というより因縁だぜ」と言って涙を流している。

その因縁の対局前に、桂は内容が酷似した王将戦の棋譜を入手した。そして研究の上、万全の態勢で竜との勝負に臨む。将棋の流れは一方的に桂のペースで、竜は敗北寸前まで追い込まれた。しかし土壇場で起死回生の一手を放ち、竜は辛くも勝利する事ができた。この一件で100万円を手に入れ、竜は奨励会のテストを受ける事を決心した。

その後も師匠である芦川八段との出会い、奨励会不合格による自殺騒動、再受験による「おなさけ」入会などを経て、竜は奨励会でプロを目指す事になる。だが奨励会での将棋の対局は、竜が予想していた物より遥かに厳しい世界だった。これ以降本作の物語の大部分は、この奨励会での出来事を中心に展開されている。

物語の後半

無事奨励会には合格できたものの、竜の将棋は連戦連敗だった。宿敵の虎斑桂が連勝して注目される中、ついに竜は6級のBへ転落してしまう奨励会の最下部は7級であり、それでも勝てないと強制的に退会となる。。高美濃と同居して自立し根性をつけようとするが、結局それも失敗に終わった。その後生活環境を変えるという芦川の考えから、将棋の町道場である「と金道場」に下宿するようになる。席主の父と共に道場を訪れるアマチュアを指導しながら、改めて将棋の勉強をする事になった。

その道場で、アマチュアの大学生が指導対局を依頼してきた。アマチュアとはいっても、大学リーグ戦A級の「東立大」将棋部の強豪である。たまたま居合わせた竜の奨励会仲間が相手をする事になったが、その大学生に平手で虎斑桂と棒銀三郎が負けてしまった。奨励会のメンツが危うくなった時、横で観戦していた竜が勝負を申し込んだ。そして見事に大学生を負かしてしまう。実は竜は5五の位将棋盤の中央を指す。を利用した中飛車の戦法を思いついたのだ。その後も東立大の学生達は竜に対し雪辱戦や嫌がらせを行うが、最終的に竜は勝利を収める事ができた。この対局を境に竜は「5五龍中飛車」を編み出し、奨励会でも徐々に勝利して行く事になる。

得意戦法を身につけた竜とは異なり、負けがかさんでいたのが穴熊虎五郎であった。成績不振を同門の先輩たちにからかわれ、思い悩んだあげくに故郷の会津に帰ってしまう。そして竜たちの必死の捜索も空しく、雪山で自殺してしまうのだ。竜たちは非常に大きなショックを受けるが、同時にプロを目指す厳しさを思い知る事となった。 その後しばらくして、死んだはずの穴熊が竜のもとに現れる。実は彼は虎五郎の弟で、養子に出されていた穴熊虎六だった。死んだ兄に代わり今度は自分がプロになると言って、竜に勝負を挑んできた。駒落ちで相手をした竜に勝って一度は生意気を言うが、竜馬に諭されて素直に帰って行った。結局その虎六は、兄が在籍していた関野一門に入る事になる。

ある日将棋会館の前で、竜と高美濃は風変わりな老人に出会った。老人を真剣師と誤解した二人は相手にしなかったが、実は彼は「将棋大天狗」として有名な元プロ棋士の島黄楊(しまつげ)八段であった。この大天狗と奨励会6級の梅木をめぐり、竜の退会騒動が持ち上がってしまう。だが大天狗が遊び将棋による非公式戦を提案、騒動は何とか解決する事態の解決策として将棋大天狗は、特殊ルールの将棋「八方桂」「反射角」「獅子王」を二人に提案する。この勝負でも梅木は1勝1敗、3局目も明らかに優勢だった。しかし将棋大天狗の真意を理解し、最後は竜に勝ちを譲った。。そして大天狗より、「飛騨の中飛車」という男を紹介してもらう事になった。

はるばる岐阜県の山奥まで足を運んだ竜は、その「飛騨の中飛車」こと飛田中太郎に会う。そして彼から、中飛車研究の集大成である棋譜ファイルその棋譜ファイルを後日読んだ駒形竜馬いわく、「変幻自在、まさに中飛車の鬼」数冊を譲り受けた。その代償として、飛田は「名を伏せ正体も明かさず、現役の高段棋士5人と平手で対戦させてくれ。」と竜に依頼する。承諾した竜は帰京後に師匠に相談し、対戦者を探して飛田のために尽力した。

しばらくして飛田が上京。稽古将棋という名目で平手で望んだ5名のプロ棋士に対し、飛田は3人目までを全て中飛車で叩きのめす。だが4人目の対局前に元真剣師という素性が割れ、4人目の棋士は対局を辞退。あやうく竜は師匠の芦川に破門される所だった飛田と竜の話を聞いた芦川は、噂をうのみにした自分を反省。稽古将棋ではなく真剣勝負として、改めて公開対局を申し込む。さらに「居飛車で対応する。」と戦型の限定も予告し、その場で竜の破門も取り消した。。予定通り5人目の飛田vs芦川八段戦が行われる。飛田は「これが己が人生の最終局」という覚悟で対局に臨んだ。この対局の中で「飛騨の中飛車・合掌造り」が登場、芦川八段を大いに苦しめた。しかし最後に捨て駒三連発の鬼手をはなち、芦川が飛田に勝利したこの飛田vs芦川八段の戦いは、大内延介八段(連載当時)および田中寅彦四段(連載当時)の協力のもと、作中に第一手目から投了までの全棋譜が掲載されている。数ある「5五の龍」の将棋の対局の中で、もっともページ数を費やした名勝負であった。

その後も高美濃弘の退会騒動、(穴熊虎六や平手香を含む)奨励会の後輩たちの参入、角道道夫の山での遭難および退会といった出来事が続く。奨励会での壮絶な戦いが続く中、竜もひた向きに精進していった。そして最後に宿敵の虎斑桂を倒し、竜の二級昇級が決まった所で物語は完結している。

登場人物

ほとんどが将棋に関係ある用語や人物から名前を付けられている。棒銀や嵐飛車は、「名前通りその戦法が得意で」と作中で言及されている。

駒形一家

駒形 竜(こまがた りゅう)
本作の主人公。顔は五角形に太いまゆ毛のイガグリ頭で、将棋の駒がモチーフにされている初対面の穴熊に「ゲタか将棋の駒みたいな顔した」と言われていた。
芦川八段 門下
東京都出身→奨励会六級受験→不合格→情状酌量で六級合格→六級B降格→(徐々に昇級)→二級昇級で連載終了
いつも着ている服は「龍王」の駒のトレーナーに白い長ズボン。学校でも学生服でなく、常時この服装だった。
性格は友達思いで努力家、涙もろい所もある。一方かなりのあわて者で、世間知らずな部分も非常に多い。腕力もあり、相撲大会で善戦したり、高美濃を投げ飛ばした事もある。
虎斑桂介の登場前は、ハメ手などの奇襲戦法しか知らなかった。さまざまな出来事を通じて、少しずつ将棋の基本を勉強して行く。物語の中盤では、独自の5五龍中飛車戦法を編み出す。
対局中の礼儀が出来ておらず、奨励会を一度不合格になった。父の竜馬から礼儀の大切さを教わった後、少しずつ礼儀をわきまえるようになる。
駒形 竜馬(こまがた りゅうま)
竜の父。奨励会の二段まで進んだが、退会して真剣師となってしまった関西の将棋界の隠語で「くすぶり」と言う。 。プロにもなれず将棋を忘れる事もできず、家族にさんざん迷惑をかけてきた。物語の前半では、虎斑桂介との壮絶な死闘を繰り広げる。竜に平手で敗れれば足を洗うと約束し、のちに実際に竜に敗れる。その後は完全に真剣師を辞めて、「と金道場」の席主になった。また、奨励会でプロ棋士を目指す竜を影から支援する。虎斑桂介との戦いの時に入院して頬がこけたが、以後連載終了までそのままの顔だった。
竜の母(名前は出てこない)
真剣師に落ちぶれた夫・竜馬の元で苦労し、竜には将棋の道は歩んで欲しくないと願っていた。しかし将棋の素晴らしさに目覚めた竜に根負けし、プロになる可能性中学卒業までに奨励会の二級を突破する事。二級はプロ棋士(四段)に至るまでの中間地点に相当。が出るまで竜の奨励会修業を認める。

奨励会のライバル達(同期)

虎斑 桂(とらふ かつら)
ツリ目の平安美人。服装は学生服のほか、いろいろ。
向井七段 門下
東京都出身→奨励会六級受験→(徐々に昇級)→連載終了直前に二級昇級失敗
虎斑桂介の娘。当初は本名を名乗らず、ミス・タイガーというニックネームがあった。物語全体を通じ竜の最大のライバルであるが、名前は桂でも性格は高飛車でプライドが高い。
真剣師の父に家族が泣かされた過去は、竜の境遇と瓜二つ。奨励会入会後も将棋の勉強に対し不真面目な竜を見下していたが、真剣に打ち込み始めると多少理解を見せた。実際の棋力も奨励会での昇級も竜に一歩リードしていたが、物語の最後の勝負で竜に競り負けた。
桂が史上初の女性奨励会受験者かつ合格者として描かれているが、これは現実の将棋界での出来事 林葉直子、1979年度入会よりも一年早い。
棒銀 三郎(ぼうぎん さぶろう)
七三分けで、少し長髪のメガネ。のち、登場人物の中で最も背が伸びた。服装は網目模様のシャツ。
花巻名誉九段 門下
北海道出身→小学生名人戦優勝→中学生名人戦優勝→奨励会三級受験→合格後あえて四級から入会→連載終了時一級
小学生の時から牧場主の父に棒銀戦法を仕込まれ、「北海道に将棋の天才少年登場」と騒がれた。三級受験ながらあえて四級で入会したのは、師匠の花巻との話し合いによる。同期生の中で最も棋力がある事から、皆のリーダー格として描かれる事が多い。
角道 道夫(かくみち みちお)
短気な性格のチビ。少し変わった髪形で、服装は白黒ストライプのシャツに半ズボン。
大石八段 門下
東京都出身→奨励会五級受験→四級昇級→四級Bに降格→退会
竜がプロ棋士を目指すきっかけとなった。人一倍将棋の勉強をする努力家で、負けると泣いて悔しがる。だが本番勝負に弱く、ここ一番に勝てないことを悩んだ。後輩を迎える奨励会試験で平手香に負け、二度指し疑惑による対局放棄の後に最後は奨励会を退会する。対局シーンは比較的少ないが、ツノ銀中飛車を二度指している。
穴熊 虎五郎(あなぐま とらごろう)
ニキビ面のデブ。服装は学生服に下駄で、腰に風呂敷を巻いている。
関野八段 門下
東北出身→奨励会六級受験→自殺
東北の強豪と言われ、中学生名人戦に出場すべく登場。当初は威圧的な性格だったが、中学生名人戦で竜に負けてからは竜の仲間に加わる。また名人戦後の帰省中、釣りで知り合った関野八段の門下に入った。中学生らしからぬ巨体の持ち主で、竜に腕力をふるおうとした事もある。
奨励会入会後は不成績に悩む。最期は故郷の雪山に入って将棋の本を焼き、湖に飛び込んで自殺を遂げてしまうこの話はフィクション化されてはいるが、奨励会で実際にあった有名な実話がモデルとなっている。
高美濃 弘(たかみの ひろし)
出っ歯でサルのような老け顔。白いジャージのファスナーを、首まできっちり絞めて着ている。
芦川八段 門下 (竜と同門)
千葉県出身→奨励会六級受験→五級→一時休会→復帰→連載終了時五級
登場したのは竜の奨励会合格後。同門のため、竜との交流も多い。サルのような顔のため「サル美濃」とも呼ばれる。同期生の中で最も家庭が貧しかった。尊敬する豊臣秀吉のように、何でもコツコツとやる努力家タイプ。兄の事故死による生活苦から奨励会を休会し、真剣師に成り下がりそうになった。だが、竜や棒銀などの応援で復会し再起を図る。
名前の由来は高美濃囲いから。

奨励会のライバル達(後輩)

穴熊 虎六(あなぐま とらろく)
養子に出されていた虎五郎の弟。外見は同期の奨励会員(棒銀と桂)が間違えるほど兄そっくり。腰に巻いた風呂敷などの服装まで同じ。
関野八段 門下
東北出身→ 奨励会五級受験→連載終了時五級
虎五郎の自殺を聞き、兄に代わってプロ棋士になるべく上京した。性格は兄より強気。初登場時はアマ二段として上手二枚落ちの竜に対し、銀多伝駒落ち定跡の一つを用いて勝利した。奨励会受験時でも、居飛車穴熊で上手香落ちの竜に勝っている。連載中彼に勝ったのは高美濃だけ。
端歩 朝三(はしふ あさぞう)
柾目(まさめ)七段 門下
アマ棋王戦架空のタイトル棋戦チャンピオン→奨励会三級受験→連載終了時三級
アマ時代には強烈な端攻めを得意としており、奨励会試験でも竜と端攻めの戦いを繰り広げた。
嵐飛車 元太郎(あらしびしゃ げんたろう)
中合六段 門下
奨励会一級受験(六戦全勝)→連載終了時一級
奨励会の後輩たちの筆頭として描かれている。
奨励会試験でも対局前に棒銀三郎を挑発し、最後に絶妙手で勝利した。

架空のプロ棋士

芦川(あしかわ)八段
竜は奨励会の受験前に、自分の師匠が見つからずに困っていた。ある日路上で偶然見かけた酔っ払いの男が、大道詰将棋の的屋を冷やかしてトラブルを起こしていた。それを助けた竜は寿司屋で、お礼に「奨励会を受験できるようにしてやる」との話を聞く。試験当日に竜は「自分の師匠がわからない」という状態で将棋会館にやって来たが、受付で確認すると既に師匠は決まっていた。実はその時の酔っ払いこそが、名門の師匠である芦川八段であった。
作中では「現在でこそ昇降級リーグ1組現在の順位戦B1組にいるが、昔は未来の名人確実とまでうたわれた天才棋士」とされている。
優しさの中にも厳しさがあり、作中では理想的な師匠として描かれている。たとえ記録係をするためでも、竜が学校をサボるのを許さない。
その一方で、相当の酒好きとされている。それほど出番は多くないのに、酒を飲んでいるシーンがやたらとある。
(実際のプロ棋士も同様だが)一門の師匠といっても、弟子の竜を手取り足取り指導する場面はまったくない。しかし、ここぞという時自殺騒動、と金道場の紹介、飛騨の中飛車の一件などに竜のために尽力している。
「飛騨の中飛車」戦では激闘の末に勝利を収め、高段棋士のプライドと底力を見せつけた。また、「後手番では5五龍中飛車の戦法は不利になる。」と言った竜に対し、あえて公式戦で後手番の5五龍中飛車を使用して勝利している。
モデルは実在棋士の芹澤博文。
矢倉 銀一(やぐら ぎんいち)八段
竜の奨励会入会前のみ登場した架空棋士で、平手先生の学生時代の先輩。早石田弘名前の由来は早石田戦法よりという小学生の弟子と竜の対局を観戦する。竜の棋風は真剣師タイプのくずれた将棋とし、竜の入門を断った。(この事を病室で聞いた竜馬は、「たかが弱い並八並八(なみはち)とは、並みの八段の事。のくせに!」と激怒した。)ストーリーが奨励会に入ってからは未登場。ちなみに矢倉という苗字の棋士は実在している。
向井(むかい)七段
竜馬と虎斑桂介の奨励会時代の同期で、桂や平手香の師匠でもある。名前通り向かい飛車が得意。劇中では「指し盛りを過ぎている」と言われていた。
関野(せきの)八段
穴熊兄弟、梅木らの師匠。釣りが趣味で、穴熊虎五郎や飛騨の中飛車の存在も、釣りをしている時に知った。モデルは関根茂とされ、関根が作中の棋譜に協力しているため、出番も芦川の次に多い。
大石(おおいし)八段
角道の師匠。厳しさと優しさを秘めている。兄の事故後生活苦に悩む高美濃に対し、角道の口ぞえで会社の将棋指導のアルバイトを斡旋した。
中川(なかがわ)四段
芦川の門下生で、四段ながら実力は既に八段あると言われている。作中では期待の大型新人とされていた。

その他のセミ・レギュラー

虎斑 桂介(とらふ けいすけ)
桂の父親。着流しに黒いコートを羽織っていている。非常に鋭い眼をしていて、禿げ上がった額に大きな傷跡が一本ある。
竜馬のライバルの真剣師。家庭をかえりみず将棋に狂っていたのは竜馬と同じだが、さらに陰険で用心深い人物。「5五の龍」の物語全体を通じ、最も悪役らしい悪役といえよう。
竜馬との真剣勝負を指し掛けのまま、交通事故で急死してしまう。だが死後亡霊になってまで現れて、途中だった将棋の決着をつけようとした虎斑の名前は、将棋に使われる駒の木に出る模様に由来している。
平手(ひらて)先生
竜が通う矢倉中学校の担任の国語教師。アマ三段の免状を持ち、将棋部の顧問でもある。竜の良き理解者。
平手 香(ひらて かおり初期のヒットコミックスの単行本では「かおる」となっていた。
平手先生の娘。連載開始当時は小学3年生ながら、竜に将棋の基本定跡を教える。
いつも着ている服は「香車」の駒のチョッキ。
のちに小学生名人戦での優勝を目指す傍ら、向井八段門下 つまり、虎斑桂の妹弟子にあたるで七級から奨励会受験するも、2勝4敗で不合格。
玉乃浦 梨江(たまのうら りえ)
アマ五段の夫が自宅で「と金道場」を経営していたが、夫が亡くなってしまう。そこで交流のあった芦川の発案により、後継者として竜馬が道場経営、竜がアルバイトと将棋の勉強を兼ねて二階に下宿する事になる。金子と銀子という二人の娘がいる。
マスコットの先生とネコ
様々な戦法や定跡を解説するために登場。ネコは指し手や助手が必要なシーンに出てくる。両者とも名前は特にない。

メインゲスト

東立(とうりつ)大学・将棋部 児玉(こだま)アマ三段
強豪将棋部の部員。学生服を着た醜男。
「と金道場」で虎斑桂や棒銀三郎に勝利するが、竜には敗北。大人気ない性格で、数日後に今度はキャプテンや他の部員を連れてきた。完全な悪役だが、この児玉との対局は竜の「5五龍中飛車戦法」誕生のきっかけとなった。
東立(とうりつ)大学・将棋部 白銀(しろがね)アマ四段
強豪将棋部のキャプテン。学生服を着た角刈り。
「と金道場」で竜に挑み、一度は勝利したものの一週間後に敗北。その後も部員たちと「5五龍中飛車」対策の研究レポートを作成し、そのコピーを奨励会員に配って竜に嫌がらせを行った。しかし結局それも失敗に終わった。
梅木(うめき)六級
関野八段 門下 (穴熊兄弟と同門)。
奨励会内では実力が低く、「お客さん」奨励会隠語で「簡単に勝ち星が取れる弱い奴」または「ウメキ声の梅木」と呼ばれていた。しかし将棋大天狗に気に入られて新戦法を伝授され、自分を馬鹿にした竜を退会寸前にまで追い込んだ。
将棋大天狗(しょうぎだいてんぐ)
元・名人候補の島黄楊(しまつげ)八段。
長い杖をつき白髪に白ひげの顔は、天狗というより仙人を思わせる。大きなリュックを背負いボロボロの格好で、背中に「将棋大天狗」の旗を付けている。
芦川・関野・大石の三人が、まだ四段だった時代に活躍していた。将棋普及の考え方の確執から連盟を退会。将棋大天狗を名乗り、独自に将棋普及のため全国を旅している。ふらりと立ち寄った関根邸では、この大天狗を師匠はじめ一門総出で出迎えた。また、竜馬とも旧知の仲であった。
自分を馬鹿にした竜を(梅木を使って)奨励会退会寸前に追い込んだ。だが、その後は遊び将棋での対局を提案し竜を救っている。また、次項の飛騨の中飛車を紹介した。
飛騨の中飛車(ひだのなかびしゃ)
本名は飛田中太郎(とびた・なかたろう)。
「5五の龍」の中核となる後半部分の最重要人物で、芦川八段に次ぐ竜の第二の師匠とも言える。中飛車であればプロ棋士にも負けない自信と実力を持つ、岐阜県山奥の熊打ちの猟師。
ボサボサ髪の中年男。人間嫌いのため多少無愛想だが、大自然の中で磨かれた深いヨミと清らかな棋風の持ち主。
もともと飛田は真剣師であった。イカサマを見破って対局相手側のヤクザ達にケガをさせ、3度も刑務所に入っている。だがその後は罪を償い、将棋を捨てて山奥に住むようになった。
将棋は捨てたものの、できれば全棋士の最高峰連載当時・中原誠名人を破りたいという夢があった。芦川八段との対局後は、完全に将棋を捨てて飛騨の山奥に戻っている。
桑野 舞子(くわの まいこ)
棒銀三郎が(コーチとして)所属する、高早高校将棋部の女子部員の一人。
ある日 駒形竜の「と金道場」に、棒銀三郎が女子部員を数名連れて来た。その中の一人を竜に紹介し、ぜひ平手で対局するようにと依頼する。竜は彼女に一目で心を奪われるが、対局が始まった途端に仰天する。理由は棋風が竜に非常に似ているためであり、実は幼少の頃飛騨で…。
その数日後お守りを竜に送るなど、彼女自身も竜の事が嫌いではない様子だった。ラスト一つ前の章に登場したため出番は少ない。ネーミングは将棋用具の素材の一つである桑から。

実名登場したプロ棋士

棋譜創作などの協力

大内延介
将棋の強い有名人多数と親交がある事で有名で、エピソードも多い。
田中寅彦
大内の紹介で譜面作成を手伝う。居飛車穴熊のパイオニアで、流行戦法として作中でも何度か登場。
蛸島彰子
山下カズ子
「ツノ銀中飛車使いの名手」と呼ばれるためか、作中でも棋譜作成に協力。

その他の関連棋士

中原誠
連載当時名人時代の最盛期だったので、エピソードも多数紹介されている。中原自身も二回登場。
大山康晴
物語前半の駒方竜馬vs虎斑桂介の将棋の内容は、王将戦の大山vs升田の対局がモデルになっている。他にもエピソードがいくつか紹介されている。
米長邦雄
米長の棋書を参考にしたと明記されているシーンが多い。桂が棋書「米長邦雄 勝局集」を手にしているシーンもある。
加藤一二三
連載末期に中原から名人位を奪っている直前の保有タイトルは棋王のみ
升田幸三
兄弟子と弟弟子の苦労話など、エピソードがいくつか紹介されている。
谷川浩司
連載開始時、中学生でプロになったとして話題になった。
花村元司
エピソードに何度か登場。花村本人も二度登場し、升田との公式戦をモデルにした対局にコメントを寄せている。
中村修、有森浩三
連載前の中学生名人戦優勝者として名が挙げられている。まだ当時は奨励会員だった。

戦法

5五龍中飛車

急戦型の中飛車戦法で、天王山ともいわれる5五の位をとり、9七角から中央を突破する戦法。相手が5四歩と指し先手に5五の位を取らせない手を指した場合に7六歩から角を使う変化や、香落ち用の変化もある。対居飛車用の戦法のため、後手番では指しにくいと竜は語っている。
プロの実戦としては平成8年に、王位戦七番勝負の第1局、深浦康市対羽生善治戦で先手深浦が指した例があるが、羽生の勝利に終わった。それ以降、プロ棋士が検討を行ったこともあるが、大半が「しっかり相手に受けられると勝てない」「9七角と上がると角が活用できない」という、消極的な評価であった。「イメージと読みの将棋観2」による 中公文庫コミックス版の羽生善治の寄稿文によると、彼も奨励会時代に指してみた事があるという。
なお、なぜ「5五中飛車」と名前に「龍」がつくのかは作中で説明されてない。単に語呂が良いからかもしれないが、一部には「端角中飛車」にすべきとの声もある。「端角中飛車」については、『奇襲大全』『奇襲大全』 湯川博士・著 森雞二・監修 毎日コミュニケーションズ ISBN 4-89563-536-8などに棋譜や解説があるが、広島のアマ棋士・松田竹二郎がこども将棋教室用に独自に開発した戦法だとされており、手順も大幅に異なる上、つのだの名前も出てこない。

飛騨の中飛車・合掌造り

「飛騨白川郷・合掌造りの家」を模した駒組み。5五の位を保持し、玉を右側に囲って飛車は向かい飛車の形に配置する。5五の地点を頂点とした、見事な大三角形の陣形になっている。遊び駒がなく、全ての駒が関連しヒモついた理想形の一つ。(ただし厳密にいえば、これは中飛車ではない。)

誌上企画など

前述通り編集長が将棋好きという事もあり、単に将棋漫画を連載したのみではなく、将棋をテーマにした企画が多数掲載されていた。

  • キング将棋講座 - 担当は前述の関根と大内。
  • つのだ杯争奪小・中学生将棋大会 - 中学生部門で優勝したのは塚田泰明で、現在専門棋士である。愛増本にも推薦文を寄せている。
  • 当時の人気棋士の生い立ちを1ページで紹介するミニ伝記
  • 対女流棋士十番勝負 - 当時の女流棋士10人につのだが、全局平手により5五龍中飛車戦法で挑むという対局。結果はつのだ側の3勝7敗。対谷川戦は、本作中において桂が見せ槍銀戦法これはつのだが勝手に命名した戦法名で、現実には「カニカニ銀」の名が定着しているで、駒形の5五龍中飛車戦法を破る一局の原型となった。山下女流名人にはあと一歩で勝つ所まで行ったが、中原に「何度も必死を逃した。惜しいですね!」と高評価された。自戦記はキングに掲載された後、ヒットコミックス版では最終刊に収録されている。
    • 多田佳子二段
    • 村山幸子初段
    • 森安多恵子二段
    • 谷川治恵初段
    • 蛸島彰子女流王将
    • 中瀬奈津子2級
    • 寺下紀子二段
    • 兼田睦美初段
    • 関根紀代子二段
    • 山下カズ子女流名人
(※タイトル、段級位、氏名は当時)
  • つのだが挿絵を担当した将棋入門書も登場した。

特記事項

  • いわゆる羽生世代が小学生時の作品で、羽生も奨励会時代に5五龍中飛車を指してみた事もあったと言う。本作の影響か、奨励会受験者が毎年20人弱しかいなかったのが、翌年40人、翌々年60人と急増、やむをえず受験方法が変更された。
  • 連載当時、現実に実施されていた奨励会入会試験が本作で公開されていたが、一部割愛されていた。ちなみに当時の将棋世界誌では全問公開されているつのだ曰く「連盟の意向による。全部知ろうなんてムシが良すぎるからネ!」
  • 作中、竜らが参加した中学生将棋名人戦は第3回(1978年度)にあたる。作品世界では棒銀が優勝したが、現実世界では達正光が優勝している。

虹色四間

  • 「近代将棋」1997年5月号~1998年8月号)に毎回16頁で連載された。
  • 主人公の紺野水城(こんのみずき)が女流育成会に入会、プロ2級となるまでを描く。
  • 他のレギュラーキャラの名は、虹の七色から命名されている。
  • 戦法は四間飛車など振り飛車系が中心。
  • しかし主人公の顔自体がアシスタントの作画で、コピーによる使い回しのカットも多かった。単行本化は行われていない。

5五の龍からの継続キャラ

かつてのレギュラーキャラはメインでなく、時々ゲストとして出てくる。

棋界で最も厚い壁と言われる三段リーグを越えられず退会。のちに桂と結ばれる。しかし将棋の魅力を忘れられず、駒職人になった。
こちらも奨励会を退会し、女流アマ強豪として活躍。女流アマ将棋大会でタイトルを総ナメし「将棋界は今も男尊女卑よ」などと爆弾発言をする。
棒銀
高段棋士になっている。
高美濃
六段で活躍。同期の奨励会員で専門棋士として登場するのは、彼ら二人だけ。
『虹色四間』のオリジナルキャラだが、外見が平手香と非常によく似ている。

注釈

単行本

中央文庫コミック版で刊行された愛蔵版は以下の通りだが、現在は絶版となっている。

紙媒体とは別に、「5五の龍」は電子書籍(ebook japan)などでも入手可能。

  • 第01巻(1995年11月03日発行) ISBN 4-12-202481-1
  • 第02巻
  • 第03巻
  • 第04巻(1995年12月03日発行) ISBN 4-12-202506-0
  • 第05巻(1995年12月03日発行) ISBN 4-12-202507-9
  • 第06巻(1995年12月03日発行) ISBN 4-12-202508-7