おろち 4
『おろち』は楳図かずおの恐怖漫画作品。「週刊少年サンデー」1969年25号~1970年35号に連載された。実写版映画が2008年9月から10月にかけて公開された。
概要
不思議な能力を持ち、歳をとることのない謎の美少女「おろち」が、悲壮な運命に翻弄される人々の人生を見つめていくオムニバス形式の作品である。9つのストーリーから成り立っている。
おろちは作品を通しての狂言回し的存在ではあるが、ある人の人生をほとんどただ見つめるだけのこともあれば、みずからその不思議な能力を使ってストーリーに積極的に介入していく場合もある。最終話では自ら当事者と一体化することを強いられ、凄絶な虐待や暴行にさらされることになる。
楳図作品の中では、怪談的な恐怖よりも、人間誰もが心に持つ恐ろしい部分を描き出した心理的ホラーに近い作品である。ラストでのどんでん返しも多く、工夫されたストーリーが多くのファンに支持されている。
あらすじ
- 姉妹
- 「18歳の誕生日を迎えると醜くなっていく」という血筋の家に生まれた美人姉妹による、女心の恐ろしさと執念を描く。
- ステージ
- 幼くして交通事故で父をなくした少年が、暗い影を持ちながらも歌手として華やかなステージを目指すのだが…。
- カギ
- 嘘つき癖のあるオオカミ少年のような男の子が殺人事件の現場を目撃するのだが、大人は誰も信じようとしない。やがて男の子は命を狙われる。
- ふるさと
- 田舎の村を出てヤクザの道を進んでしまった青年が脳に重傷を負った時、ふるさとへの思いが恐ろしい奇跡を起こす。最もスプラッター的要素が強い作品。
- 骨
- 若くして夫を亡くした女を不憫に思ったおろちが、夫に似せた人形を作って命を与えようとするが、失敗。物語は恐ろしい方向へ向かう。
- 秀才
- 1歳の誕生日に強盗に首を切りつけられた少年が、ある秘密を知ってから勉強に没頭する。その目的とは? ストーリー的には「ステージ」と類似点が多いと言える。
- 眼
- 盲目の少女が命を狙われた時想像を超えた力を発揮する。
- 戦闘
- 父が持つ恐ろしい戦争体験を知る中で、苦しみながら人間の醜さや生きることの意味を理解していく少年の姿を描く。ストーリーの面白さを追求した「おろち」シリーズの中では異色と言える、哲学的要素の強い作品。
- 血
- 名家に生まれ、優秀な姉と比較され続け惨めな人生を送る妹を中心に、悲壮な人間模様を描く。おろちの重要な秘密も明らかにされる、シリーズのクライマックスに当たる大作。
おろちの性格
冷静沈着でクール。だがそうあるべきと心掛けているふしがある。おろちには長い年月を生きていくうえで、目的や目標がない。そのため他人の人生を観察することに多くの時間を費やすが、あくまで傍観者でいなければならないと考えている。だが、実際には同情心から「力」を使って相手の人生に介入してしまうこともあり、元来は好奇心旺盛で心やさしい性格と思われる。また想定外の事態には、意外と驚いたりあわてたりする人間くさいところもある。
おろちの能力
- 不老不死
- おろちの肉体は生理的に老化しない。十代半ばから後半と思われる外見のまま、長い年月を生き続けている。実際の年齢は不明。ただし100年に一度、通常の睡眠とは違う「ねむり」に陥ってしまう。本人が「死体として処理されてしまう」と危惧していることから、ほぼ仮死状態になると思われる。10年単位で続く「ねむり」は不老不死に深い関わりがあり、これが無いとおろちの肉体も通常の人間と同じく老化してしまう。もっとも「ねむり」を拒絶することは不可能で、周期がきてしまうとおろちは強制的に「ねむり」の状態に入ってしまう。おろちは怪我の回復も早く、痛みの感覚も鈍い。また少なくとも作中では、病気になる描写もないが、あまりに酷いダメージを受けると「ねむり」につく時間が早く来てしまうようだ。現に夫と離婚してヤケになり飲酒運転をしていた理沙をかばってかなり酷い怪我をした時もおろちはひたすら襲ってくる眠気と戦いながら走りに走り、洞窟の中へと落ちてしまった(血を参照)
- 念動力
- いわゆるサイコキネシス。超絶的な馬力は無いが、それでもチンピラのもっている角材を真っ二つにへし折ったり、複数の相手を念動力で倒したりしている(ふるさと参照)。対象を人差し指で差すことが多く、徹夜の勉強をしていたせいで踏切の警告音がまったく聞こえず、本来なら電車に轢き殺されているはずの少年の身代わりになったりと多種多様の効果を出せる(秀才を参照)。この力の応用で一草の放った矢の刺さった恋人の青年の急所をそらすように彼の背後から指差している(姉妹を参照)。鍵のかかった扉を開けることができ(姉妹と秀才を参照)自分の血を写真に写っている人物の上に垂らすことで、虫の知らせと同じ現象を引き起こすことができる(姉妹を参照)また夢の中とはいえ、超能力と不気味な人格を与える隕石を至近距離まで近づかなくてはいけなかったとはいえ、指差すだけで粉砕していた(ふるさとを参照)
- また映画版では錯乱した一草のもっているクロスボウを指差すだけで破壊している。この場合はクロスボウのみ破壊しており、一草はまったく傷つけていない。よほどの技術レベルが高くないと普通は武器の所持者まで傷つけてしまうので、大岩や倒壊寸前の巨大ビルを支えるほどの念動力は使えなくても、おろちの特殊能力の技術は相当高い。
- 精神感応
- おろちが最も多用する力。他者の精神に介入し暗示を植えつけたり、記憶を読んだりする。暗示はほぼ完璧に作用するが、積極的に使うのは自分の存在を相手に受け入れさせたり、逆に自分に関する記憶を消したりする場合であり、相手を洗脳して行動や思考を操ったりはしない(行為自体は容易にできると思われる)。記憶を読む場合、相手の精神が他者を頑なに拒絶していると、抽象的なイメージしか伝わってこない。どちらも対象の人間に直接触る必要がある。暗示は相手の頭部に触れると効果が高いようだ。
- 呪術
- おろちは簡単に言えば魔法のような力を使用することがある。「絵を通して遠く離れた場所を観察する」「人形に生命を吹き込む」「包帯(右手首に巻いている)を使って他者の傷を癒す」など。元々備わっている力を、長い年月の間に発展させたものと思われるが、あまりに高度な呪術は失敗してしまうこともある。
映画
実写映画が2008年9月20日より公開。
『姉妹』と『血』の2編を基にしたストーリーとなる。2007年11月22日から東京都などで2ヶ月間撮影が行われた。
楳図はキネマ旬報2008年10月下旬号にて「自身の作品の初映像化」と高評価しており、鶴田監督との対談の際、鶴田は「そんなに楳図さんとシンクロしているとは思わなかった」という旨の発言をしている。
本篇のDVDは特別編ともに2009年3月21日発売。
スタッフ
- 監督:鶴田法男
- プロデューサー:佐藤現
- 脚本:高橋洋
- 音楽:川井憲次
- 主題歌:柴田淳「愛をする人」(ビクターエンタテインメント)
- 製作:「おろち」製作委員会(東映ビデオ、テレビ東京、東映、小学館、東映チャンネル、東映エージェンシー、小学館集英社プロダクション、Yahoo! JAPAN)
- 配給:東映
- 上映時間:107分
キャスト
- 門前一草・門前葵:木村佳乃
- 門前理沙:中越典子
- おろち:谷村美月
- 大西弘:山本太郎
- 執事・西条:嶋田久作
- 昌江:大島蓉子
- パパ:エド山口
- 音楽教師・片岡:久世星佳
- 少女時代の一草:佐藤初
- 少女時代の理沙:山田夏海